第3章 第十一話:久兵衛屋うどん
丸山公園を後にした三人は、さとしの運転でうどん屋さんへ向かっていた。
「今から行くお店は『久兵衛屋うどん』というチェーン店のうどん屋さんなんですが、本格的な武蔵野うどんを食べられるお店なんです」
「武蔵野うどんって讃岐のうどんとどんな違いがあるんですか?」
助手席に座っていた美波が、ふと浮かんだ疑問をさとしへ投げかけた。
「いい質問だね。讃岐うどんはもちもちとした弾力と滑らかなのど越しなのに対して、武蔵野うどんはコシが強く強い噛み応えがあるうどんなんだよ。後大きな違いは食べ方かな。讃岐うどんがかけ、ぶっかけ、生醤油(冷・温どちらも主流)なのに対して、武蔵野うどんの基本は暖かいつけ汁につけて食べる肉つけ汁うどんが主流だね。とはいえ、おれは武蔵野うどんを普通にざるうどんとしておつゆにつけて食べるのも好きなんだけどね」
美波は肉つけ汁うどんを想像し、今にもよだれが垂れそうな表情をしていた。
「肉つけ汁うどん。響きだけでよだれが出そうです。どんな味なんだろう」
「簡単にいうのなら、豚肉やネギが入っているんだけど、鰹節などの風味に豚肉の脂と甘みを加えた濃口の味付けになってるね」
それを聞いた後ろの席にいた美鈴が目を輝かせていた。
「豚肉の油と甘み……じゅるる……。そんなのおいしいに決まってるじゃない……」
(つくづく思うけど、この親子はやっぱり似た者親子だな)
ーーー
車が久兵衛屋うどんの駐車場に到着した。
ちなみに久兵衛屋うどんは、埼玉県発祥の武蔵野うどんチェーンである。毎日お店で手作りする強いコシの自家製麺と、4種の魚介と昆布からとる特製だし、揚げたての天ぷらが特徴。店舗は関東圏に約50店舗あり、その7割が埼玉県に集中している。
車を降りた三人は店内に入り、店員さんの案内でテーブル席へと通された。
さとしが備え付けられたタッチパネルを操作し、注文の準備をする。
美鈴と美波にはテーブルに置かれているメニュー表を渡し、食べたいものを選んでもらうことにした。
美波が真剣な表情でメニュー表と睨めっこしていた。
「うーん……。肉つけ汁うどんにするべきか……それともさとしさんの言っていたざるうどんにすべきか……」
美波が悩んでいる横で美鈴が注文を決めていた。
「さとしさん、私は肉つけ汁うどんにしますね」
「わかりました。ちなみにここのお店は天ぷらもカリっと揚がていて美味しいですよ。よかったら天丼か天ぷら盛り合わせのついたセットにしてみませんか?」
その意見を聞いた美鈴が悩ましい表情を見せた。
「さとしさんったら……。せっかく我慢しようかと思っていたのに。もうこうなったら天丼と肉つけ汁うどんのセットになってるこの『満腹久セット』にするわ!……太っちゃったらさとしさんにダイエットのための運動に付き合ってもらいますからね」
そう言ってさとしに微笑みかけた美鈴であった。
「これは責任重大ですね。その際はお手柔らかにお願いしますね」
そう言って苦笑するさとしに美鈴が耳元でささやいた。
「あれなら夜の運動に付き合ってくれてもいいのよ」
美鈴の言葉に固まるさとしであった。
「お母さん、夜の運動ってお散歩にでも行くの?それなら私もお母さんと同じものを注文して、夜の運動に付き合いたいな」
美鈴のささやきが美波にも聞こえていたようであった。
「あ、ああ、そうだね。夜のお散歩ね。うんうん、それならぜひ三人でいこうね」
そう言ってごまかすさとしであった。
美鈴は美波を見ながら(美波はまだまだ子供ね)と微笑ましく思うのであった。
結局3人とも『満腹久セット』を注文し、ほどなくうどんと天丼がいいにおいを漂わせながら運ばれてきた。
「「「いただきます」」」
声をそろえていただきますをした三人は箸に手をのばし、それぞれ食事を始めた。
「このうどん、すごくコシがあるから噛み応えがあっておいしいです。それにこのつけ汁もうどんに絡まってとてもいい感じです」
美波がそう言うと、美鈴も続いた。
「この天丼の天ぷらもカリっと揚がっていて、天丼のたれが絡まってとてもご飯が進むわ」
二人の満足した様子を見たさとしは二人の食べる様子を嬉しそうに眺めていた。
(本当においしそうに食べる親子だよね。これなら連れてきたかいがあるってもんだよ)
満腹久セットを平らげた三人。さとしがデザートはいるかと尋ねた。
すると二人の目にさらなる光がらんらんと輝いていた。
「ならこの白玉クリームあんみつなんてどうですか?」
さとしが尋ねると二人同時に「お願いします!」と声をそろえて返事をしたのであった。
白玉クリームあんみつまできれいにすべて平らげた三人はお会計を済ませると車へと戻っていく。
そこで美鈴が美波に悪い顔をしながら声をかけた。
「そういえば美波も夜の運動に付き合うって言ってたわよね。それならその運動のことを教えてあげないとね。美波、ちょっと耳を貸しなさい」
そう言って美波が美鈴に顔を使づけると、美鈴は美波に小声で何かを伝えていた。
耳元で美鈴のささやきを聞いた美波はフリーズし、顔を真っ赤に染めたのであった。
駐車場の灯りが美波の赤い顔を照らしていた。
さとしは車に乗り込むと、明日からの御朱印集めのためのプランを頭の中でシュミレートするのであった。
第3章第11話をお読みいただきありがとうございます。
今回は久兵衛屋うどんでの一幕を書かせてもらいました。
実際、このお店には月に2~3回はいっています。
ここでのおすすめは私的には『天ざるうどん』ですね。
皆様も機会があったら是非入ってみてください。
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