第3章 第八話:美波の職業体験午後の部
昼食を食べたのち、少し体を休めてから再び仕事着とジャージに着替えるさとしと美波。
「午後からのお客さんも、自分の10年来の飲み友達だからあまり緊張しすぎないようにね」
さとしはそう言いながら、美波の肩を揉みほぐしていき、肩に入っている無駄な力を抜かせ、緊張をほぐしていった。
「美波は午前中もちゃんとマッサージも、お客さんへの対応もできていたから大丈夫だよ」
「師匠、ありがとうございます。ちなみに今日のお客さんはどんな方なんですか?」
「今日来るのは昨日の小澤君と一緒で、専門学校時代にバイトしていた先で知り合ったんだけど、その時にヘルニアを発症しちゃった子で、俺がお店を始めてからはよく肩こりや腰痛でうちに来てくれてるんだよ」
その説明を聞いた美波はさとしに尋ねた。
「ヘルニアってよく聞くんですけど、どんな状態なんですか?」
「今回の場合は腰のヘルニアだから正式な名前は『腰椎椎間板ヘルニア』っていうんだけど、椎間板っていうのはこの背骨と背骨の間にあるゼリー状のクッションのことだね」
さとしは施術室の片隅でオブジェと化していた背骨と骨盤からなる骨模型を使って説明をする。
「そしてこの椎間板が飛び出している部分があるだろ。ここは強い圧力がかかって椎間板の中の物が飛び出した状態を表しているんだよ」
コツ模型はヘルニアを患者さんに説明しやすくするために、最初からヘルニアの状態が再現されたいた。
「そして、この飛び出した部分が背骨から出ている神経に触れることで強い痛みを出してしまうんだ。簡単に言うとこんな感じかな」
美波はさとしの説明で納得したようにうなずいていた。
「師匠の説明とても分かりやすかったです」
「これでも一応は国家資格の『柔道整復師』だからね」
そう言って笑うさとしであった。
ちょうど説明が終わったころ、一台の車がお店の駐車場に入ってきた。
「美波、お客さんが来たみたいだよ。心の準備はいいかい?」
「は、はい。大丈夫です」
二人で患者さんを入り口まで迎えに行った。
車から降りてきたのは30歳ぐらいの女性の患者さんであった。
(さとしさんのお友達って女性だったの!これは新たなライバル出現?)
そんなことを美波が考えていると、隣にいたさとしがお客さんに声をかけた。
「染山さんいらっしゃい。どうぞ中へお入りください」
そう言って笑顔で院内へ案内した。
施術室へやってきた三人。
染山に美波のことを説明したのち、さとしが染山に質問をする。
「今日はどこが悪い状態?」
「もう全身ボロボロだよ……。肩も腰もヤバい」
そう言ってベッドにうつ伏せになる染山。
「相変わらず疲れ切ってるね。色々ストレスも溜ってそうだし、あんまり無理しないようにね」
そう言うと美波の方を向き話しかけた。
「それじゃ、午前中と同じように最初は全体的に俺がほぐしていくから最初は見ていてね」
そう言って施術を始めるさとしを見ながら美波は考え事をしていた。
(10年来の友人って言ってたけど、ほんとにそれだけなのかな?)
そんな美波に気が付いたさとしが美波に声をかける。
「美波、何か気になることでもあるのかい?少し集中できてないみたいだけど……」
「ご、ごめんなさい。集中します」
「いいから言ってごらん。その方が集中できるだろうから」
さとしがそう言うと、美波がおずおずと質問をした。
「あの二人は10年来の友人って聞いたんですけど、それ以上の関係とかって……」
その質問を聞いたさとしと染山は、お互いの顔を見合わせてから大きな声で笑いだした。
「ないない。二人ともホント不思議なぐらい友達って感じだね。だからこそ一緒に飲みに行っても気楽でいられるんだろうね」
さとしはそう言って美波の質問に答えたのであった。
その答えを聞いて安心した美波は、気を引き締めて集中をし直したのであった。
一通り施術が終わると美波に交代し、美波が施術を始めた。
そのとき、お店の電話が鳴り、その対応のためさとしが施術室からいったん離れた。
そのタイミングで染山が美波に声をかけた。
「美波ちゃんはサッサンのことが気になるの?」
「そ、それは……」
言い淀む美波に染山がさらに続けた。
「サッサンはいつもはひょうひょうとしていたりするけど、相談とかに乗るときは凄く真剣に答えてくれるし、いいと思うよ。それに……若い子好きだしね」
そう言って笑う染山であった。
「そうなんですね!なら若さでどんどん押していっちゃいます!」
「そう、その意気だよ。何か相談したいことがあったらいつでも言ってね。後でラインのID渡すからさ。美波ちゃんいい子そうだし、応援するよ」
こうしてひそかにさとしの知らないところで、新たな盟約が結ばれるのであった。
その後美波からまたさとしに変わり、約60分の施術を終了した。
「染山さん、美波はどうだった?」
「とても気持ち良かったよ。特に可愛いところが最高の癒しだね」
そう言って染山は笑っていた。
帰り際に美波とラインを好感した染山は、「ファイト」と書かれたキャラクターのスタンプを美波に送ったのであった。
こうして、初めての美波の職業体験が終了したのであった。
「美波、今日二人の患者さんに入ってみてどうだった?」
「とても楽しかったです。もっといろんな人に施術して喜んでもらいたいです!」
「それはこの仕事をするうえで最高の心構えだね。本当に美波に向いているかもしれないね」
そう素直に感じるさとしであった。
「今日はこれで仕事は終わりにしちゃうから、少しお茶でも飲もうか。埼玉のもう一つの銘菓も用意しているしね」
そう言うと美波と一緒に2階へと上がって行くのであった。
第3章第8話をお読みいただきありがとうございます。
今回の話では引き続き、美波の職業体験を書かせてもらいました。
今回登場した患者さんも、実際の患者さん(兼友人)をイメージしながら書いています。
酷い腰痛や肩こりなどでお悩みの方で、病院でも全く改善できなかった方は評判の言い治療院へ行くことも検討されるといいかもしれないですね。もしかしたらそのお店はたまたま当院にあたるかもしれませんが(笑)。
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