第2章 第二十一話:二条城の祝福(後編)
唐門を後にした三人は、国宝の「二の丸御殿」へとやってきた。
二の丸御殿は東南から北西にかけて、遠侍、式台、大広間、蘇鉄の間、黒書院、白書院の順に6棟が立ち並ぶ御殿である。内部には33室の部屋と800畳余りの広さを誇る空間があり、代表的な「松鷹図」をはじめ、将軍の威厳を示す虎や豹などの障壁画が飾られている。
二の丸御殿内の廊下を歩く三人の足もとでは高くて澄んだ小鳥の鳴き声ような音を響かせていた。
「歩くたびに『チュン、チュン』って音が鳴るみたいなんですけど、廊下の板が悪くなってるんですかね?」
美波が足を踏み込んで音を聞いていた。
「これはわざと音が鳴るようにしているんだよ。『鶯張り』というんだよ。廊下の床板の裏側には、板を固定するための鉄製の『目鎹』という金具が取り付けられていてね、人が床板を踏むと、その体重で板がほんの数ミリ沈み込んで、床板と鉄の金具が擦れ合って『チュン、チュン』と高い摩擦音が出る仕組みになっているんだよ」
「ならこれは当時の防犯システムだったんですね」
美鈴が大きく頷いていた。
「この廊下なら、(さとしさんが)私に夜這いをかけに来てくれるのがわかるから心の準備ができていいかも。うちの廊下にもこのシステム取り入れようよ、お母さん!」
「そうね!(さとしさんが)私の部屋に来てくれるタイミングがわかるものね。検討の余地はありそうね……」
さとしはそんな話をする二人を見て苦笑をする。
(二人とも、夜這いをかけられるような恋人がいるってことなのかな……。まあ二人とも魅力的だし、そんな相手がいてもおかしくはないけど……)
さとしが不意に寂しそうな表情を見せると、それに気づいた美波が心配そうに顔を覗き込んだ。
「さとしさん? なんだか辛そうですけど、疲れちゃいました?」
「そ、そんなことないよ。いや、二人にそんな仲のいい相手がいるんだと考えたらちょっとばかり寂しく感じちゃってね」
さとしが無理に笑ってみせると、二人の目が鋭く光った。
「さとしさんってほんと鈍感ですよね!」
「ホントに天性の鈍感さだわ!」
二人に責められるさとし。
「え、どういうこと?」
「「自分でちゃんと考えなさい!」」
さとしが戸惑っていると、二人は顔を見合わせ、心の中で確信めいた笑みを浮かべた。
((……ふふ。私達に仲の良い相手がいたら寂しいだなんて……さとしさん、今の言葉で完全に脈ありだと自白したようなものね))
二人は口では厳しい言葉をかけつつも、内心では「さとしに焼きもちを焼かせた」という事実に、勝利の歓声をあげていたのだった。
ーーー
二の丸御殿を見終わった三人は二の丸庭園や清流園などの奇麗で優雅な庭園の中を歩いていた。
「本当にきれいなお庭ですね。さとしさんと見に来れてよかったですわ」
美鈴がさりげなく、さとしの手を取った。
「この二の丸庭園は天才作庭家・小堀遠州が手掛けた、豪快で力強い石組みが並ぶ名園なんですよ。不老不死の理想郷を表す『蓬莱島』を中心に、長寿の『鶴島』『亀島』が池に浮かぶ、とても縁起の良いデザインになっているんですよ」
「さとしさんには私の為にも長生きしてもらわないといけないんでちゃんとあやかってくださいね」
「はいはい。ちなみにこちらの『清流園』は京都の豪商・角倉家の跡地から、立派な庭石や建物を譲り受けて昭和40年に完成した比較的新しい庭園なんですよ。それと、国賓を迎える迎賓施設としての役割も持っているみたいだね」
「割と新しいんですね。私もこんな素敵な場所に泊まってみたいです」
「それには外国の大統領の奥さんにでもならないと難しいかもね」
そう言って笑った。
「さとしさんと結婚できないならやっぱりやめときまーす」
美波がさとしの腕に抱き着いた。
「美波だけずるいわよ」
美鈴は空いているさとしの反対の腕に、自分の腕を絡めたのだった。
三人は仲良く腕を絡めたまま、出口である東大手門へと歩いて行った。
二条城が三人のことを祝福しているかのように、一陣の風が三人の背中を優しく押していた。
第2章第21話をお読みいただきありがとうございます。
今回は二条城の後編をお届けさせてもらいました。
国宝二条城で繰り広げられる3人のやり取りはいかがでしたでしょうか?
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