第2章 第九話:魅惑の屋台と熊野神社
平安神宮を回りつくした三人は入ってきたのと同じ門から境内の外へと出てきた。
そこには行きにも見た屋台がたくさん並んでいた。
ここで美波と美鈴が左右から潤んだ瞳で上目づかいにさとしを見上げた。
「さとしさん……。お願い、ちょっとだけでいいから……」
「もう我慢の限界なの……」
二人は他の人が聞いたら勘違いしそうな言葉でさとしに懇願をした。
その二人の雰囲気は先ほどまでさとしを巡って対立していた形跡などまるでなかったかのように協力し合っていた。
「はあー。仕方ないですね。それなら、お互いに食べたいものをそれぞれ選んで、それを三人でシェアして食べましょうか」
その言葉おきいてテンションが爆上がりする美波と美鈴。その二人の目は屋台をまるで獲物を見るかのようにとらえていた。
「私はベビーカステラを『狩って(買って)』くるわ!」
「お母さんが甘いものでせめるなら私は甘じょっぱいたこ焼きにする!」
最高のコンビネーションを見せる親子に圧倒されつつも、さとしはマイペースに自分の好きな唐揚げを買ってくることにした。
ーーー
それぞれが買ってきた商品をもって、平安神宮の隣にある岡崎公園のベンチにさとしを挟む形で座った。
まず最初に動いたのは美鈴であった。
「さとしさん、あーん」
そう言ってベビーカステラをつまみ、さとしの顔の前に差し出す美鈴。そこまでされては断るのも悪いと感じ、さとしは観念して口を開けた。
「それじゃ、ありがたく。……あーん」
口の中に、ベビーカステラの優しい甘さと香りが広がっていく。すると、待ってましたとばかりに美波が動いた。
「今度は私の番ですよね!」
そう言ってたこ焼きをつまようじに刺し、フーフーと丁寧に息を吹きかけてから、さとしの口元へ運ぶ。
「はい、あーん」
美波の言葉に従い口を開けると、中から熱々のたこ焼きが飛び込んできた。ハフハフと口の中で転がすさとしを見て、二人は満足げに微笑む。
今度はお返しとばかりに、さとしが唐揚げを刺して美鈴へと差し出した。
「美鈴さん、あーん」
美鈴は手で横髪を耳の後ろにかき上げ、小さく口を開けて唐揚げをほおばる。その上品な仕草に、さとしは一瞬だけ見とれてしまった。
それに気づいた美波が、さとしの脇腹をすかさず小突く。
「さとしさん、次は私にください!」
美波にせかされて唐揚げを差し出すと、彼女はリスのように元気よく頬張った。そのあまりの可愛らしさに、さとしは思わず自然と笑顔になるのだった。
ーーー
買い食いをして、お腹も満たされた三人は再度御朱印集めに戻る。
「この次はこの近くにある京都熊野神社の向かいましょう」
京都熊野神社は平安神宮から近い場所にある神社であった。
京都熊野神社は、京都熊野三山の一つで、京都で一番古い熊野神社である。
神社に着くとお参りをして、御朱印を頂く一行。
御朱印にはカラスのスタンプが押されていた。
美波がもらった御朱印をじっくりと見ていた。
「熊野神社とカラスって関係があるんですか?」
「熊野神社のシンボルが八咫烏で、三本足のカラスなんだよ。ちなみにこの八咫烏を象徴として使ってるスポーツがあるけどわかるかい?」
考え込む美波に美鈴が助け船を出した。
「今年の6月に世界大会がアメリカやカナダ、メキシコで行われるわよ」
「わかった!サッカーだ!」
正解にたどり着いて嬉しそうにする美波であった。
「正解。日本サッカー協会の象徴に使われているのもこの八咫烏だからね。ちなみに八咫烏が選ばれた理由は、平安時代に蹴鞠の上達を願って貴族が熊野詣を行ったことが由来らしいよ」
「そうなんですね。ならもう一度三人で並んでサッカー日本代表の優勝祈願をしないとですね!」
美波の提案で三人は再度お参りを行うのであった。
このお参りの効果が発揮されるかどうかは今後のサッカー日本代表に託すとしよう。
時間も午後三時を過ぎており、社務所の時間なども考慮すると時間的に厳しくなってしまうため、今日はここまでで御朱印集めを終えることにした。
この後三人は駅で荷物を回収したのち、今夜泊まるホテルへと向かうのであった。
第7章第9話をお読みいただきありがとうございます。
今回は美波と美鈴念願の屋台での買い食いと、今話題のサッカー日本代表に絡めた熊野神社でのお話となります。
ブラジル戦は起きて観戦していましたが、日本代表は残念な結果になってしまいました。
でもとても頑張ってくれていたと思います。
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