第2章 第八話:平安神宮(神苑お散歩編)
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平安神宮の本殿でお参りを済めせ、御朱印を頂いた三人は、平安神宮の庭園である神苑へとやって来ていた。
この平安神宮の庭園は社殿を取り囲むように広がる約10,000坪の広大な日本庭園で池泉回遊式庭園である。明治時代を代表する造園家・七代目小川治兵衛らが手掛け、国の名勝にも指定されている。庭園は大きな池を中心に、南・西・中・東の4つのエリアに分かれている。
まず最初に三人が足を踏み入れたのは南神苑であった。
「ここは南神苑のエリアなんですけど、今は咲いてませんけど『紅しだれ桜』が有名みたいですね。それ以外にも、平安時代の庭園の特色である『野筋』といって入り組んだ細い道筋や、『遣水』といった幾重にも流れ込んでいる小川などの様式が特色で、特に『平安の苑』は平安時代に著された書物、伊勢物語・源氏物語・古今和歌集・竹取物語・枕草子なんかに記されている200種余りの植物が、その一節の紹介とともに植栽されているみたいですよ」
さとしの説明を聞いた美波は、すかさずさとしの耳元へ顔を寄せ、内緒話をするように囁いた。
「なら今度は春先に一緒に『紅しだれ桜』を二人だけで見に来ましょうね、さとしさん」
「美波。今のささやき、お母さんを仲間外れにするような内容じゃなかったかしら?」
美鈴は、どこか優雅に、しかし氷のように冷たい微笑みを浮かべて美波を見つめた。
ーーー
続いてやってきたエリアは西神苑で、ここは「白虎池」を中心とした、静かで落ち着いた雰囲気である。
「この西神苑は6月ごろに来ると、水辺に約200種・2,000株の花菖蒲がきれいに咲いているらしいですよ」
さとしの説明を聞いた美鈴が次は美波に負けじと、さとしの耳元でささやいた。
「私菖蒲のお花が好きなの。是非さとしさんと一緒に見に来たいわ」
その母の行動を目ざとく見ていた美波が抗議する。
「お母さん、抜け駆けは禁止よ!」
「さっき美波もやったんだから、これでおあいこよ」
大人の余裕で受け流す美鈴であった。そして、その美鈴の態度に悔しがる美波の姿があった。
そんな二人のやり取りを見ていたさとしは、(二人ともこの庭園がホントに気に入ったんだな。連れて来て正解だったよ)と見当違いなことを考えているのであった。
ーーー
続いてやってきた中神苑は視界が開け蒼龍池の風景が広がります。池に浮かぶ珊瑚島までは「臥龍橋」と称する飛び石が配置され、周囲にはカキツバタが群生している。
飛び石の前でさとしが説明を行った。
「この飛び石は臥龍橋といって豊臣秀吉が造営した三条大橋・五条大橋の橋脚を利用したものらしいよ。この橋を渡る人には、『龍の背にのって池に映る空の雲間を舞うかのような気分を味わっていただく』というコンセプトのもとに作られたみたいだね」
さとしの説明を聞くやいなや、美波は「なら早速、龍の背から見る世界を感じてみなきゃね!」と元気よく飛び石を渡り始めた。
「あんまりはしゃぎすぎて落ちないようにな」
そんな注意を意に介さず、美波は軽快な足取りで池の真ん中にある小島へとたどり着いた。
「さとしさんも早くおいでよ」
小島から叫ぶ美波の声を聞いて渡る決意をするさとしであった。
彼は隣に立つ美鈴に向き直った。
「美鈴さんはどうしますか?あれなら池沿いを歩いていけば反対側に行けますけど」
少しだけ思案した美鈴は妖艶な笑みを浮かべてさとしの手を握った。
「私もわたってみたいんですけど、怖いから手をつないでもらっていいですか?」
何の疑いも持たずにさとしは了承する。
「ええ構わないですよ。では、いきましょうか」
そう言って握られた美鈴の手を引いて飛び石をゆっくりと渡っていく二人であった。
それはあたかも恋人が仲良く手をつないで渡っているようにしか見えなかった。
(お母さん、さとしさんと手をつないで渡るなんてやってくれたわね!)
美波はさとしの隣にピタリとくっつくと、美鈴を鋭い眼光で射抜いた。
「お母さん、随分と楽しそうに渡ってたけど。手を引いてもらう必要なんて、本当はなかったんじゃないの?」
美鈴は全く動じる様子もなく、むしろ優雅に微笑んでさとしの腕を軽く引き寄せた。
「あら、何のことかしら? 飛び石は少し滑りやすかったから、さとしさんに支えてもらわないと不安だったのよ。さとしさんはとっても頼もしかったわ」
「美鈴さんは結構心配性なんですね。役に立てたなら何よりです」
と少し的外れなこと言い、ここでもぶれない鈍感さを発揮するさとしであった。
「さとしさん、この後の飛び石は私と手をつないでもらいますからね!」
「美波は手をつなぐ必要ないだろうに?」
「文句言わない!いきますよ」
そう言うと強引にさとしの手を取って飛び石を渡り始めた。
そこでさとしは美鈴を止め、美鈴を振り返った。
「美鈴さんは一人で大丈夫ですか?」
「それなら私も手をつないでもらって三人で仲良くわたりましょ」
そう言ってさとしの空いている方の手を握った。
三人で仲良く渡る姿は周りからはとても微笑ましく見えたことであろう。
しかし、さとしの左右から伝わってくる手を握る強さは、この二人が抱える「本気度」を無言で物語っているかのようであった。
「二人ともそんなに強く握らなくて大丈夫だよ」
さとしはここでも安定の鈍感さを発揮するのであった。
ーーー
最後のエリアである東神苑にやってきた三人。
ここは最も広大な「栖鳳池」を中心としたエリアで、東山を借景にしたダイナミックな景色が広がっている。ここには京都御所から移築された「泰平閣」という池をまたぐ立派な屋根付きの橋あり、橋の中に腰掛けるスペースがある。
三人は泰平閣の腰家スペースに腰を下ろして休憩をしていた。さとしは、自身の両脇に座る二人におだやかに話しかけた。
「ここから見える景色は最高ですね。きっと桜が咲いているときならもっとすごいんだろうな……」
「確かにそうよね。ここにいると時間がたつのを忘れそうだわ……」
そんな大人の会話をする二人。
それとは対照的に美波はさとしの手を引っ張り、池の中を優雅に泳いでいる鯉を指さしてはしゃいでいた。
「さとしさん、鯉がたくさん泳いでるよ。あそこで鯉のエサ売ってるから餌やり一緒にやろうよ」
そう言ってさとしの手を引っぱっていく美波であった。
鯉への餌やりを楽しんだ後、三人は神苑の出口へと向かって歩き出したのであった。
第2章第8話をお読みいただきありがとうございます。
今回は平安神宮の神苑について書かせていただきましたが私自身、庭園の方には行ったことがなかったりします。そこでネットなどで調べながら書いたもので、もしかしたら少しおかしなところとかあったりするかもしれないです(-_-;)
今回の話では親子での恋のライバルとしてのやり取りと、それに全く気が付かない主人公を描いてみました。実際の私はここまで鈍感ではないと思いたい……。
※明日も朝、1話分を作成が間に合えば投稿させていただきますので、ブックマークの更新通知機能をセットしていただけると助かります。




