第2章 第四話:錦天満宮と撫で牛
伏見稲荷大社での過酷なミッションをクリアした三人は、電車に乗るため駅へと向かっていた。
今回乗るのは、京阪本線という電車である。
京阪本線は大阪府大阪市の「淀屋橋駅」から京都府京都市の「三条駅」までを結ぶ、京阪電気鉄道(京阪電車)の主要路線である。
一行は京阪本線の伏見稲荷駅から電車に乗り、5駅目の祇園四条駅に到着した。
祇園四条駅は鴨川のすぐ東側に位置しており、川を挟んで東側が祇園側、そして西側が河原町側となり東西でガラリと雰囲気が変わるのが最大の特徴である。
祇園四条駅から出てきた三人はここでの最初の目的地である錦天満宮を目指して鴨川を渡り始めた。
四条大橋の上でさとしが呟く。
「この大橋の上から見る鴨川はTVでよく見る「THE 京都」と言った感じだね」
「確かによくTVに映ってますよね」
美波がさとしに同意した。
三人はスマホのカメラで鴨川の景色を撮ったのち、交代で鴨川を背景にして写真撮影を行った。
ちなみに鴨川であるが、賀茂川と高野川の二つの川が合流してY字になっている部分を鴨川デルタと呼び、ここが鴨川のスタート地点となる。鴨川は人が渡れるように所々に「カメ」や「千鳥」の形をした可愛い飛び石が配置されており、子供たちの遊び場やフォトスポットとして大変人気があるようだ。また、アニメ『けいおん!』や、映画『パシフィック・リム』、数々の小説(森見登美彦作品など)の舞台・ロケ地としても広く知られており、『名探偵コナン 迷宮の十字路』でも出てきたりしている京都を代表する聖地と言っていいだろう。
そして、通行人に頼んで撮ってもらった三人が一緒に映っている写真をスマホの待ち受け画像に設定するさとしであった。
「さとしさんはその写真を待ち受けにしたんですね。なら私はこれにしちゃおっと」
そう言って選んだのはさとしの腕に抱き着いているツーショット写真であった。
「美波がそれにするなら私はこっちの写真ね」
美鈴も対抗してさとしとのツーショット写真を待ち受けにするのであった。
(どうせなら三人で映っている写真にすればいいのに……)
そんな親子の無言の火花など露知らず、さとしは単純に考え、首を傾げた。
ーーー
錦天満宮の前にやってきた三人は鳥居を見上げていた。
「この鳥居、なんか隣のビルに刺さってませんか?」
美波が首をかしげながら指摘した。
「そうなんだよ。実は昭和10年に石の鳥居を再建した際に『鳥居の柱と柱の幅』だけを基準に道幅を計算してしまったらしく、一番上の横棒(笠木)の長さがそれよりも外側に大きく飛び出すことを考えていなかったみたいなんだよ。その当時は周りの建物がそんな高くなかったから問題なかったんだけどね。その後再開発で、鳥居よりも高い建物ができてしまってね、その対応策として、鳥居の飛び出している部分を削るのではなく、ビルについ刺さるような形でビルの方を削ったんだよ」
「なんだか、いかにも京都らしい面白いお話ね」
美鈴はそう言って楽しそうに笑った。
ここ錦天満宮であるが、門前や境内には、地元の商店から奉納された提灯がびっしりと並んでおり、夕方以降になるとこれらに一斉に灯りがともる。すると、繁華街の中にパッと幻想的な和の空間が浮かび上がるらしい。この神社には、主祭神である菅原道真公(天神様)のお使いである「牛」のブロンズ像があり『撫で牛』と呼ばれて親しまれている。また、境内には、地下百数十メートルから湧き出る京の名水があり、1年を通じて約17〜18度に保たれている。無味・無臭・無菌の清らかな湧き水で、参拝者は自由に持ち帰ることができ、近隣の飲食店の方も水を汲みに訪れたりする。
「さとしさん、ここに牛の銅像がありますよ」
「美波、それはね、『撫で牛』って言って体の悪いところをなでると治るって言われているんだよ。美波ならここかな」
そう言って不敵な笑みを浮かべながら、美波の手を取り、牛の頭を撫でらせた。
「……さ、さとしさんっ!」
「頭が良くなるように、ね」
さとしは悪気なく微笑むが、美波は顔を真っ赤にして口ごもってしまう。
「ならさとしさんはここを撫でておかないとね」
そう言って美鈴はさとしの手を取り、牛の胸のあたりを撫でさせた。
「女心を弄んじゃう悪い心をしっかりと直してもらわないとね」
「ええー、俺そんなことしませんよ……」
その言葉を聞いて、内海親子がジト目でさとしを見た。
((無自覚にやってるってことなのね))
そんな二人の心のつぶやきとは裏腹に、さとしはひとり「何がいけなかったんだろう?」と自問自答していた。
そんな三人の様子を、神のお使いである『撫で牛』の銅像が静かに眺めていた。




