第十五話:さとしと美波のぶらり散歩(広島)②
チーズタルトを食べた二人は、ホテルに帰る前に、広島駅の南口を出てすぐ目の前を流れる川へと来ていた。
猿猴川リバーサイドとして地元の人たちに愛されている場所であった。川沿いが綺麗に整備された遊歩道になっており、夜になるとレトロなデザインの街灯が優しく道を照らしている。特に大正時代に建てられたモダンな「荒神橋」や「大正橋」が美しくライトアップされ、それが川面にゆらゆらと映り込む景色は、歩いているだけで胸がキュンとする美しさと言われている。
川沿いを歩く人の半数ほどはカップルであり、手をつないで歩いている人が多く見られた。
それを見て刺激された美波がさとしの手を握っていった。
「私たちも手をつないで歩きましょうよ!」
「迷子の前科持ちの美波が迷子になるといけないからね(笑)。俺たちの場合は恋人というよりは親子に見られるかもな」
「私はもう子供じゃないんですからね!」
頬を膨らませて抗議する美波と、それを見て楽しそうに笑っているさとしの姿があった。
それはまるで周りの仲の良いカップルと同じようにしか見えなかった。
2人はライトアップされた荒神橋や大正橋で一緒に写真を撮って新たな思い出を作っていった。
「そろそろいい時間だし、コンビニで飲み物でも買ってからホテルに戻ろうか」
「はい!今からホテルでゼリーとチーズタルトの残りを食べるのが楽しみです!」
相変わらず色気より食い気の美波であった。
(多分、この食い意地が幼馴染の男の子に女性として認識されなかった最大の理由なのでは……)
昼間の車の中で幼馴染の男の子に女性として認識されていなかったという愚痴を聞かされていたさとしは心の底からそう思った。
大人の自分から見れば可愛いとすら思えるその食い意地であるが、同年代の若い男の子にはそうではないのだろうと考えた。
来た道を戻っていく二人に二人組の少しガラの悪い男性たちが声をかけてきた。
「君可愛いね。どこから来たの?……ってかお父さんと一緒にいるより俺たちが楽しいことしてあげるから一緒に遊ぼうよ」
そういうと嫌がる美波の空いている手首を握った。周りの人たちは遠巻きに事の推移を眺めていた。
「おい、君たち彼女が嫌がっているだろ!手を離すんだ。あまりしつこいようなら警察に通報させてもらうよ」
「マジうざいんだけど……。ちょっと黙っててくれるかな?」
そういうと美波の手を離し、さとしに右手で大ぶりのパンチを繰り出してきた。
それに対しさとしは殴りかかってきた相手の腕を掴んで抱え込むと、そのまま流れるように相手の懐に入り込み、体を反転させて、腰に相手の体重を乗せそのまま一本背負いの要領で投げ飛ばした。
いつもは穏やかな雰囲気を醸し出しているさとしであったが、これでもれっきとした柔道有段者であった。
(専門学校でみっちり叩き込まれた柔道が役立つときが来るとわな)
柔道整復師には柔道の初段レベルまで技術を磨かなくてはいけないという明確な規定があり、今回はそれが役に立った形であった。
投げ飛ばされた男はうまく受け身が取れず背中を思いっきり打ち付けており、一瞬息ができなかったように咳込んでいた。
「まだ何か用があるのかな?」
目を細めてもう一人の男に尋ねるさとしに、もう一人の男は委縮してしまう。
「何もないです。失礼しました」
そう言って倒れた男を起こしてそそくさと去っていった。
すると、周りの人たちから一斉に拍手が沸き起こる。
それで我に返り、急に恥ずかしくなったさとしは、周りの人に軽く会釈しながら、美波の手を握って駅の方へ移動していった。
美波はさとしをキラキラした瞳で見つめ、ほほを赤らめている。
(さとしさんが私のためにあんなに怒ってくれるだなんて……。これは完全に愛のなせる業だわ!)
「さとしさん、助けてくれてありがとうございます。すごい格好良かったです」
「本来はあまり褒められたことではないんだけどね。……つい美波の手を握っているのを見たら、カッとなってしまっていたよ……」
(これって嫉妬よね!……絶対にそうに違いないわ。私たちはやっぱり相思相愛なんだわ)
この後、タクシーを捕まえてホテルへ戻る二人であったが、その間、美波は終始ご機嫌で緊張感もなくさとしの腕に抱きついていた。
これから同じホテルの部屋に一緒に泊まるという一大イベントを控えていることもすっかり忘れて……。
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次の投稿時期は基本的に未定です。この作品はメインの「幼馴染の境界線」の投稿の合間に作成していきますので、ランダムな投稿になると思います。




