第一章最終話 【生死を彷徨った二人がすることなんて、これ以外あるの?って話】
湊達が寝静まった深夜の市役所は、もう静まり返っていた。割れた窓から吹き込む風が、血の匂いと腐臭をかき混ぜている。地面に転がるゾンビの死体。壁に飛び散った黒ずんだ血。そして、その片隅で、、
もぞ……もぞもぞ……芋虫みたいに蠢く影が一つ。大和だった。全身ぐるぐる巻き。口にはガムテープ。手足も動かせない。「んんんんっ……!!」必死に地面を這う。進まない。ほとんど進まない。涙が滲む。
(なんで俺だけ置いてかれてんだよぉぉぉ!!俺が報告したんだろうよ!)その時だった。ぴくっ。暗闇の奥で何かが動いた。一体のゾンビが振り向く。「……ぁ……」大和の顔が凍る。その一体に続いて、二体、三体。ぞろぞろと集まってくる。
「んんっ!!んんんんんっ!!」逃げられない。もぞもぞするしかない。だが遅い。大和が覚悟した時、涙がぽろっと落ちた。(あぁ……俺の人生……こんな終わり方ぁ……)ぎゅっと目を閉じた。ゾンビたちの影が覆いかぶさる。「んんんんんっ!!!」
◇◇◇
市役所から離れた夜道。止まったジープから少し離れた所で、巻島とアンナが息を荒げていた。巻島の目は血走り、全身の血管が浮き上がっている。
「ぐっ……クソ……身体が熱ぃ……!もう限界だぞっ!!」アンナは冷静に注射器を取り出した。ぷすっ。まず自分の首に刺す。続けて巻島にも刺した。
「ぬぉっ!?」数秒後、巻島の呼吸が落ち着く。「……おお……助かったぞ、アンナ」アンナは白衣の袖で注射跡を押さえながら言う。「はぁ……隊長……ゾンビの向こう側、見えましたか?」眼鏡を押し上げる。巻島は腕を回しながら考える。「いや……視界がぼやけて……猛烈な殺意しか込み上げてこんかった」眉間に皺を寄せて首を傾げる。アンナがじっと見る。
「ふーん…隊長って何型でしたっけ?」淡々と言う。「B型だが?」アンナは箱の中を漁る。薬剤を確認する。そして、止まった。「……ワクチン切れです」巻島が眉をひそめる。「……なぁ、アンナ」アンナが顔を上げる。「“アルテミスショット計画”ってのは……あいつが居ると邪魔なのか?」一瞬、風が止まる。アンナの目だけが細くなる。「……それについては黙秘します」巻島が苦笑する。「……俺、隊長だけど?」アンナがぱたんと箱を閉じる。「帰りましょう」巻島が目を見開く。「はぁ!?答え聞いてねぇし!それに今が捕まえるチャンスだったんだぞ!?また探すの大変だろう!この近辺を追い詰めて捕まえるぞ!!」アンナは無表情。
「はぁ、脳筋巻島…こっちがゾンビになったら元も子もないです。ほら、帰りますよ」巻島が舌打ちする。「ちっ……」少し考えたあと聞く。「あいつらの分はあるのか?」ゾンビになった隊員を指差す。アンナはスタスタと歩き出した。「ありません」「……え?」「どうせ戻しても役に立たないでしょう」淡々と言う。「たとえあったとしてもワクチンの無駄使いです」巻島が苦笑する。「あはは、相変わらず冷酷だなぁ」アンナは振り返らない。「合理的と言ってください」二人は無傷の車を見つける。乗り込む。エンジンがかかる。ブロロロロ……闇の中へ走り去った。その先にあるのは、執着か、復讐か、計画か、、まだ誰も知らない。
◇◇◇
朝日がカーテンの隙間から差し込んでいた。じわじわと暑さが肌にまとわりつく。床の上、裸のまま抱き合って眠っていた二人が、同時に目を開けた。
「「いやっ!あっつぅ!!」」同時に飛び起きる。汗ばんだ肌がぺたりと離れた。しばらく見つめ合って、、吹き出す。「湊……丸出し♡」ルナが笑う。湊も笑った。「ふふ、ルナちゃんもね♡」ルナが立ち上がる。「あぁぁ、喉乾いた!体臭っ!」そのまま冷蔵庫へ向かう。裸の背中。揺れる金髪。揺れる腰とお尻。湊の鼻の穴がぴくっと膨らんだ。そそそ、と音もなくルナに近づく。振り返ったルナの前で、湊はぴしっと正座していた。「ん?」ペットボトルをゴクゴク飲んで、持ったまま首を傾げる。「どうしたの?正座なんかして」湊の顔を見る。「……って朝から鼻の穴パンパンかよ」湊が真顔で頭を下げた。
「ルナ様!お願いします」「はぁ?何を」「今しかないルナさんを僕に感じさせてください」「ちょっと言葉の意味わかんない」ルナが呆れてペットボトルを差し出す。「取り敢えず水飲め!落ち着け」その瞬間、湊がぐいっと下半身抱きついた。「ちょっ!?」「我慢できません!失礼します!」「おいっ!ダメだって!絶対臭い!百年の恋も冷める臭いだぞ!」慌てるルナ。けれど次第に声が揺れる。「んっ……ばか、ちょ、待っ……」湊が顔を上げる。「ルナ様、ダメって言いながら頭押さえていますが?」「ち、違っ……これは……湊、口の周り…べちょべちょ…だよ」「僕の涎と言うことにしときます♡」耳まで真っ赤だった。「んんっ……もう……バカ……」
、、そして一時間後。洗面台の前で裸のまま並んで歯を磨く二人。シャコシャコ。ぼーっとした顔。その時だった。お風呂が沸きました♪「「………」」湊がふっと思い出したように紙袋を持ってくる。ルナが口いっぱい泡を含んだまま首を傾げる。「んっ? あにほれ?」湊が取り出したのは、あのピンクボトル二本だった。「二本取っといた♡」ルナが一度ぺっと吐き出し、口をすすぐ。そして湊を、じっと見る。にやっと笑う。「……早くお風呂行こっか♡」「うんっ!♡」
◇◇◇
浴室から笑い声が響く。
「えっ!?そんなとこそんな風に洗うの?」「いや……私も本職じゃないから見よう見まねだよ……」「ルナちゃんスペシャルってこれ?」「うん。気持ちよくない?いやだ?やめる?」「いや……もうダメ…持たなそうだけど」「何それ。ダメ禁止」「えっ?ほらもっとドシドシ作らないとここ空になっちゃうぞ〜♡」「あっ!待っ、、ぴゃああっ!?」「へぇ〜、ここも弱いんだ?」「言うなってぇ……!」湯気と笑い声が、狭い浴室に溶けていった。
(注:二人は昨日の疲れを癒すためオイルマッサージをし合っています……)
◇◇◇
二時間後。ソファに倒れ込む二人は湯上がりでふにゃふにゃのぼせ気味だった。
「あー……楽しかった♡」ルナが満足そうに伸びをする。湊はぐったりしていた。「……お腹空いた」「ご飯食べたらベッドで本気ね♡」湊が目を細める。「……もうふにゃふにゃかもしれないよ…」ルナが笑う。「あははっ!私、ふにゃふにゃも好きだから大丈夫♡」
その後、二人でカップ麺を作った。
「えっ?ルナちゃん二ついくの?」「たぬき食べたらきつねも食べたくない?」「え〜、、じゃあ俺は、UFOとペヤングいっちゃおう!」「「贅沢ぅぅぅ!!」」二人で汗をかいて、笑って、カップ麺すすって、生きてる味がした。食べ終わると、そのままソファで少しモゾモゾして眠る。ソファの上、カップ麺の余韻と風呂上がりの匂いがまだ部屋に残っていた。二人は裸のまま、ぐったり寄り添って眠っていた。
静かな午後。時計の針だけが、かち、かち、と進む。その時だった、、「ぎゃあああああああっ!!」外から悲鳴が響く。続けて「やめろぉぉぉ!!来るなぁぁぁ!!」ドタドタドタドタッ!!外の道路を誰かが全力で駆け抜けていく音。その後ろを追う、複数の低い唸り声。「ぁぁぁぁ……」「あ”るるるる……」ルナがうっすら目を開けた。「……ん…寝言?」寝ぼけたまま顔を上げる。また悲鳴。「た、助けてぇぇぇぇ!!」ルナが湊を見る。「……助け行く?」湊は無言だった。次の瞬間、すっ、と両耳を手で塞ぐ。ぎゅうううっと強く。目を閉じる。「何も聞こえない……」ぼそり。「何も……聞かしてくれない……」ルナが吹き出す。「ぷっ!いやっ!!徳永かよっ!!」湊が薄目を開ける。「だって今ステルスオフプラス、音声通知オフだから……」「いや、サイボーグかよ!あとステルス機能のオンオフしらんわ」
外からまた悲鳴。「うわあああああああっ!!」湊がルナの胸元に顔を埋める。「ほらもう聞こえない」「現実逃避の仕方が最低なんだけど」「あー……ルナちゃん柔らかい……」ルナが笑いながら頭を撫でた。「まぁ……今日は休んでもいいか」湊が顔を上げる。「うん。明日からまた頑張る」ルナがにやっと笑う。「じゃ、今日はもうお終い?」湊も笑った。「今日はベッドで頑張る♡」「そっちか♡」二人は顔を見合わせて笑う。そしてまた、ゆっくり昼寝モードに入った。
一時間後、目を覚ました二人は、何も言わず顔を見合わせた。そして、イチャイチャしながらベッドへ向かった。
◇◇◇
ベッドに並んで横になる。湯上がりの匂いと、柔らかいシーツの感触。自然と顔が近づいていく。
「……二人とも、いい匂いになっちゃったね」ルナがくすっと笑う。その瞬間、むにゅっ。むにゅむにゅ。
「って、揉みすぎ」湊の手をぺちっと叩く。「ほんと飽きないよね?」湊が即答する。「うん。飽きない!」ルナが吹き出した。「あははっ。気が済むまでどうぞ♡」枕元のタバコを取る。「ちょっとタバコ吸ってもいい?」「いいよ〜」湊がルナの胸元に顔を埋める。「俺はこっち吸うから♡」「……んっ」ルナが煙を吐く。白い煙が天井へ昇る。「お主……タバコ吸い終わったら覚悟しろよ」湊が顔を上げた。「え、まだ技あるの?」ルナがタバコを咥えながら笑う。「怖いんだけど…」湊がにやっとする。「今日で絞り切ってやるからな♡」ふぅーーっと煙を湊の顔に吹きかける。ルナがタバコを灰皿に押し付けた。じゅっ。
「はい♡ 湊のターン終わり」そのまま布団の中へ潜っていく。「……え?」次の瞬間、布団が揺れた。
「ちょっ、、」湊の声が裏返る。「ご、ごめんっ!ダメ、くすぐったい!俺の負け!」笑い混じりだった声が、少しずつ変わる。
◇◇◇
三十分後、、「んっんっ、んんっ、私の負けっ……負けでいいから……!」湊が笑いながら「あははっ!ん〜ダメ♡」「ちょっ……それ反則……!その角度でその深さは無理だって!んっんむ!そこトントンだめぇぇぇ!!」布団の中で息が絡む。
「んっ……んんっ……!ストップ……待って……マヂでほんとに待って、目のチカチカ止まんないって!おかしくなるって…んんっ」「ダ〜メ!許さない♡うるさいからキスしちゃお♡」「んむっん!ぷはっ、キスしながらそれは無理っ……!変なとこ逝っちゃうぅっぅぅ♡」ルナの足がピーンとした後、一気に力が抜けていった。下品な声がシーツに吸い込まれていく。その後、時計の針だけが静かに進んだ。
(注:二人は昨日の疲れを癒すため、マッサージをし合っています……)
◇◇◇
一時間後。ルナはベッドに蕩けるように横たわっていた。蕩け顔の目の焦点が少し合っていない。湊は隣でルナの腰をさすりながらタバコをくわえる。カチッ。火がつく。煙を吐きながらぽつりと言う。
「……豪鉄さん家、行けなかったね」ルナが薄く笑う。「はぁ……♡はぁ、♡」まだ息が乱れている。「今日……最初から行く気なかったでしょ……」湊が肩をすくめた。「……バレた?」ルナが笑った。「あははっ」シーツを引っ張り胸を隠す。「だって私たち……今日服着てないじゃん」湊が目を丸くする。「確かに!」「「あははっ!」」二人で笑った。湊がタバコを消す。待っていたかのようにルナが両手を広げる。甘えるように。
「湊〜♡」「ん?」「今日、腕枕抱っこして〜♡」「はいはい、俺のお姫様♡」ルナを抱き寄せる。頬が触れ合う。あたたかい。「……はぁ」ルナが小さく息を吐く。「今日も負けた……」湊が笑う。「あははっ!これって勝ち負けなの?」ルナが目を閉じたまま答える。「そうだよ☆」少し笑う。「今まで体の相性とか、そんなの気にしたことなかったけど……」湊の胸に額を押しつける。「ドンズバだわ♡完璧にサイズ変更されちゃいました♡」湊が吹き出した。「あははっ。光栄です」他愛ない言葉を交わしながら、二人はそのまま眠りについた。
壊れた世界の中で、そこだけはまだちゃんと温かかった。世界が壊れても、こうして推しの体温を覚えて眠れるなら、まだ世界は終わりじゃない気がした。
続
読んで頂きありがとうございます。ここで第一部完とさせていただきます。いつもとはちょっと作風を変えてみたのですがどうでしたか?第二部は熱烈なPV数になったら書きたいと思います。(本音は話しが思いつかない…)また異世界の話しをぼんやりとですが思い付いたので書くと思います。見つけた時は読んでやってください。
わーわーゆーとりますが、お時間です。またね。




