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聖女(仮)を断固拒否!~推し活のために異世界で社畜になります~  作者: 済美 凛


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9/21

補給が来る瞬間に

正午が、近づいていた。


 農村の外れ、峠へ続く街道の先。

 騎士たちはそれぞれ持ち場につき、緊張した空気が村全体を包んでいる。


 私は、仮設の見張り台の上から街道を見下ろしていた。


「……来ますね」


 遠く、土煙が上がる。


 馬の足音。車輪の軋む音。

 補給隊だ。


 アリオスも、ゼノスも、周囲の騎士たちも、誰ひとり声を出さない。

 静かに、しかし確実に――待つ。


(ここが、分岐点)


 補給が無事に届けば、

 領主の“遅延工作”は破綻する。


 だからこそ――

 向こうは、絶対に黙っていない。


「ルーナ殿」


 アリオスが、低く声を落とす。


「今のところ、動きはない」


「ええ。だから、これからです」


 私は、視線を街道から逸らさない。


 補給隊が、村の手前まで来た、その瞬間だった。


 ――森の奥で、空気が揺れた。


「……来る」


 私の言葉と同時に。


 獣の咆哮が、森を震わせた。


「魔物接近ッ!!」


 騎士の叫びが響き渡る。


 しかし、昨日とは違う。


 森の奥から現れたのは――

 単体ではない。

 小型の魔物が、明らかに“列”を成して突進してきていた。


「誘導……されてる」


 ゼノスが、歯を食いしばる。


「第二部隊、前へ!

 補給隊の前に立て!」


 騎士たちが、一斉に動く。


 私も、即座に声を張り上げた。


「正面で受け止めないで!

 左右へ散らして!

 補給隊の進路、絶対に空けて!」


「了解!」


 馬車の列が、必死に後退する。


 その時――


 森のさらに奥、別方向から、

 わずかな金属音と、足並みの揃った“人の動き”が伝わってきた。


(……来た)


「団長!」


 私は、すぐにアリオスを見る。


「森の西側!

 魔物とは別動です!

 人間がいます!」


 アリオスの目が、一瞬だけ細くなる。


「――私兵か」


「はい。

 魔物で正面を荒らして、

 混乱の中で補給を奪うつもりです」


「ゼノス!」


 アリオスが叫ぶ。


「魔物対応を第三部隊に引き渡せ!

 第二部隊は、私と共に西へ回る!」


「了解!!」


 ゼノスは、即座に進路を変えた。


 森の中で、剣と金属がぶつかる音が、重なって響き始める。


 私は、補給隊のほうに視線を戻す。


 馬車の御者が、蒼白な顔で必死に手綱を引いている。


「止まらないで!

 そのまま村の中心まで入ってください!」


 護衛の騎士たちが、必死に魔物を引き離す。


 数分――

 いや、体感ではもっと長く感じた時間の末。


 最後の魔物が、地面に倒れ伏した。


「……補給隊、無事か!?」


「無傷です!

 物資、すべて守り切りました!」


 安堵の声が、あちこちから漏れる。


 だが――


 森の奥の戦いは、まだ終わっていなかった。


 やがて、血と土埃にまみれたゼノスが戻ってくる。


「……捕らえました」


 その後ろには、縄で縛られた男が三人。

 粗末な鎧。

 だが、その腰に刻まれた紋章は――


「……現地領主の私兵ですね」


 私は、静かに言った。


 ゼノスが、苦々しく吐き捨てる。


「補給馬車を狙って待ち伏せしてた。

 魔物が失敗したら、俺たちが来る前に奪う算段だったらしい」


 アリオスが、捕縛した男たちを見下ろす。


「これで、“偶然の魔物被害”という言い訳は、使えなくなったな」


「はい」


 私は、小さく頷いた。


 証拠は揃った。


 ・魔物の誘導

 ・私兵の待ち伏せ

 ・補給の横取り計画


 すべてが、一本の線でつながった。


 その時。


 村の外れで、白い神官服が風に揺れるのが見えた。


 シリウスだ。


「……ここまで、すべて想定内でしたか?」


 私の横に並び、彼はそう問いかけてきた。


「正直に言うと」


 私は、少しだけ苦笑する。


「最悪の展開を想定して、それより少しマシ、って感じですね」


「それでも、十分に恐ろしい」


 シリウスは、私兵たちを見下ろしながら言う。


「これで、領主は完全に追い詰められました。

 あとは――」


「“王都での判断”ですね」


 私が言うと、アリオスも頷いた。


「拘束した者は、すべて王都へ送る。

 王の裁断を仰ぐ」


 農村の人々が、少し離れた場所から、こちらを見ている。

 不安と期待が、入り混じった目。


 私は、その視線を真正面から受け止めて、静かに言った。


「……もう、この村は“使い捨て”にはさせません」


 アリオスが、剣を収める。


「それが、そなたの初案件の結末だな」


 私は、深く息を吐いた。


「まだです。

 “判決”が出るまでは、終わりじゃありません」


 補給は届いた。

 証拠も揃った。


 だが、相手は“領主”だ。


(……ここからは、戦場じゃない。

 “政治”の時間だ)


 私は、補給馬車の積荷を確認しながら、静かに覚悟を固めた。


 推しのために。

 帰るために。


 そして――

 この世界で、生き延びるために。


 初案件は、

 ようやく“最後の局面”へと踏み込んだ。補給が来る瞬間に

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