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聖女(仮)を断固拒否!~推し活のために異世界で社畜になります~  作者: 済美 凛


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8/21

補給は来る、トラブルも来る

正午が近づくにつれて、村の空気が妙に張りつめてきた。


 理由は単純。

 補給隊が来るからだ。


 ……そして。


(補給が来る=絶対に何か起きる)


 これはもう、仕事人間の直感というか、

 経験則というか、

 呪いみたいなものだ。


「ルーナ殿」


 アリオスが、街道の先を睨みながら言う。


「今のところ、不審な動きはない」


「はい。

 なので、これからですね」


「……即答か」


「だって、“何も起きませんでした”で終わる現場、見たことあります?」


「……ないな」


 ゼノスも、腕を組んだまま頷いた。


「補給隊、来たな」


 遠くに土煙。

 馬車の列が、ゆっくりと近づいてくる。


(よし、定刻どおり。

 これは珍しい)


「全員、配置につけ!」


 騎士たちが、ばたばたと動く。


 私は、地図とメモを握りしめながら、

 嫌な予感と戦っていた。


(来るなよ……来るなよ……)


 ――来た。


 森の奥から、聞き覚えのある嫌な音。


「……吠えた」


「魔物接近!」


 騎士の叫びが上がる。


「やっぱり来たかぁ!」


 思わず声が出た。


「第二部隊、補給隊の前に出ろ!」


 ゼノスの号令。


「正面で止めないで!

 散らして! とにかく散らして!」


 私も叫ぶ。


 魔物は、小型。

 数は多い。

 完全に“足止め用”。


(はいはい、嫌がらせパターンね)


 騎士たちが魔物を引きつけている間、

 補給馬車は必死に後退する。


 その時。


「……人の動き、あります!」


 斥候の声。


 森の反対側。

 音が、明らかに違う。


(魔物とは別枠だ……)


「団長!

 西側です!

 人間が動いてます!」


 アリオスが即断する。


「ゼノス!

 魔物対応を第三部隊に引き渡せ!」


「了解!」


「第二部隊、私と来い!」


 剣が鳴る。


 私は、補給隊の方へ声を張り上げた。


「馬車、止まらないで!

 止まると“止められた”って言われます!」


「そんな理屈あるか!?」


「あります!

 後で言いがかりつけられます!」


 御者が、必死に手綱を握る。


 数分後。


「……魔物、制圧!」


「補給隊、無事です!」


 ほっとしたのも束の間。


 森の奥から、ゼノスたちが戻ってきた。


「捕まえた」


 縄で縛られた男が三人。


(はい、現行犯)


「私兵?」


「間違いない」


 私は、頷いた。


「魔物で足止めして、

 混乱したところで補給を奪う。

 すごく分かりやすいですね」


「頭がいいのか、悪いのか」


「悪いですね。

 証拠が残りすぎです」


 アリオスが、男たちを見下ろす。


「誰の命だ」


「……領主様です」


(即落ち二コマ)


 私は、心の中で拍手した。


(よし、これで言い逃れ不可)


 村人たちが、遠巻きにこちらを見ている。


 不安と期待が、混じった目。


 私は、できるだけ明るく言った。


「補給は無事です!

 今日から、ちゃんと食べられますよ!」


 その瞬間、

 空気が、ふっと緩んだ。


 そして――


「……やれやれ」


 後ろから、涼しい声。


 シリウスだった。


「すべて、想定どおりですか?」


「最悪想定の、ちょっとマシ版です」


「十分、恐ろしいですね」


「褒め言葉として受け取ります」


 私は、捕縛した私兵たちを見ながら、軽く肩をすくめた。


(補給成功。

 証拠確保。

 でも――)


「次は、王都ですね」


 アリオスが、重く頷く。


「逃げ場はない」


「ですね。

 ここからは“剣じゃない戦場”です」


 私は、メモを閉じる。


(……異世界でも、

 結局やるのは“会議”かぁ)


 初案件は、

 ようやく終盤。


 でも、社畜の一日は――

 まだ、終わらなかった。


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