補給は来る、トラブルも来る
正午が近づくにつれて、村の空気が妙に張りつめてきた。
理由は単純。
補給隊が来るからだ。
……そして。
(補給が来る=絶対に何か起きる)
これはもう、仕事人間の直感というか、
経験則というか、
呪いみたいなものだ。
「ルーナ殿」
アリオスが、街道の先を睨みながら言う。
「今のところ、不審な動きはない」
「はい。
なので、これからですね」
「……即答か」
「だって、“何も起きませんでした”で終わる現場、見たことあります?」
「……ないな」
ゼノスも、腕を組んだまま頷いた。
「補給隊、来たな」
遠くに土煙。
馬車の列が、ゆっくりと近づいてくる。
(よし、定刻どおり。
これは珍しい)
「全員、配置につけ!」
騎士たちが、ばたばたと動く。
私は、地図とメモを握りしめながら、
嫌な予感と戦っていた。
(来るなよ……来るなよ……)
――来た。
森の奥から、聞き覚えのある嫌な音。
「……吠えた」
「魔物接近!」
騎士の叫びが上がる。
「やっぱり来たかぁ!」
思わず声が出た。
「第二部隊、補給隊の前に出ろ!」
ゼノスの号令。
「正面で止めないで!
散らして! とにかく散らして!」
私も叫ぶ。
魔物は、小型。
数は多い。
完全に“足止め用”。
(はいはい、嫌がらせパターンね)
騎士たちが魔物を引きつけている間、
補給馬車は必死に後退する。
その時。
「……人の動き、あります!」
斥候の声。
森の反対側。
音が、明らかに違う。
(魔物とは別枠だ……)
「団長!
西側です!
人間が動いてます!」
アリオスが即断する。
「ゼノス!
魔物対応を第三部隊に引き渡せ!」
「了解!」
「第二部隊、私と来い!」
剣が鳴る。
私は、補給隊の方へ声を張り上げた。
「馬車、止まらないで!
止まると“止められた”って言われます!」
「そんな理屈あるか!?」
「あります!
後で言いがかりつけられます!」
御者が、必死に手綱を握る。
数分後。
「……魔物、制圧!」
「補給隊、無事です!」
ほっとしたのも束の間。
森の奥から、ゼノスたちが戻ってきた。
「捕まえた」
縄で縛られた男が三人。
(はい、現行犯)
「私兵?」
「間違いない」
私は、頷いた。
「魔物で足止めして、
混乱したところで補給を奪う。
すごく分かりやすいですね」
「頭がいいのか、悪いのか」
「悪いですね。
証拠が残りすぎです」
アリオスが、男たちを見下ろす。
「誰の命だ」
「……領主様です」
(即落ち二コマ)
私は、心の中で拍手した。
(よし、これで言い逃れ不可)
村人たちが、遠巻きにこちらを見ている。
不安と期待が、混じった目。
私は、できるだけ明るく言った。
「補給は無事です!
今日から、ちゃんと食べられますよ!」
その瞬間、
空気が、ふっと緩んだ。
そして――
「……やれやれ」
後ろから、涼しい声。
シリウスだった。
「すべて、想定どおりですか?」
「最悪想定の、ちょっとマシ版です」
「十分、恐ろしいですね」
「褒め言葉として受け取ります」
私は、捕縛した私兵たちを見ながら、軽く肩をすくめた。
(補給成功。
証拠確保。
でも――)
「次は、王都ですね」
アリオスが、重く頷く。
「逃げ場はない」
「ですね。
ここからは“剣じゃない戦場”です」
私は、メモを閉じる。
(……異世界でも、
結局やるのは“会議”かぁ)
初案件は、
ようやく終盤。
でも、社畜の一日は――
まだ、終わらなかった。




