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聖女(仮)を断固拒否!~推し活のために異世界で社畜になります~  作者: 済美 凛


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15/21

裁断の後は、仕事が増える

朝の王都は、やけに澄んでいた。

 澄みすぎていて、逆に信用できないくらいに。


 窓を開けると、冷たい空気が一気に流れ込んでくる。

 遠くで鐘の音が鳴り、街が「いつも通り」を装って動き始めているのが分かった。


(……はい、今日は絶対に“いつも通り”じゃない日)


 私は軽く顔を洗い、身支度を整えながら深呼吸した。

 鏡に映る自分の顔は、寝不足のわりに意外と落ち着いている。


(不思議だな。

 もっと胃が痛くなると思ってたのに)


 いや、違う。

 これはたぶん――

 もう覚悟が決まってしまった後の静けさだ。


 部屋を出ると、廊下の先にアリオスが立っていた。


「……早いな」


「眠りが浅かっただけです」


「それを早いと言う」


 その横では、ゼノスが壁にもたれて腕を組んでいる。


「俺、夢で剣振ってました」


「健康的ですね」


「現実逃避とも言う」


 三人並んで歩き出すと、王城の中枢へ向かう通路は、昨日よりも明らかに人が少なかった。

 少ないのに、視線の密度だけは増えている。


(見られてないのに、見られてる感じ。

 これ一番疲れるやつ)


 扉の前に着くと、重厚な金属音とともに衛兵が一礼した。


「陛下は、すでにお待ちです」


「……そりゃそうですよね」


 逃げ場はない。

 というか、最初から無い。


 大広間に入ると、空気が変わった。

 昨日までの“探り合い”ではなく、“決めに来ている”空気だ。


 玉座の前に立つ王は、思っていたより静かな人だった。

 威圧感はあるが、声を張り上げるタイプではない。


「報告は、すでに目を通している」


 その一言で、場が締まる。


(うわ、

 このタイプ一番怖いやつだ)


「確認したいことがある」


 王の視線が、まっすぐこちらを向いた。


「北方農村の件、

 そなたは“誰を罰すべきだ”と考える?」


 来た。


 私は、一瞬だけ呼吸を整えた。


「罰すべきかどうかは、

 私が決めることではありません」


 場が、わずかにざわつく。


「ただ」


 言葉を続ける。


「“何が起きたか”と

 “次に何をすべきか”は、はっきりしています」


 私は、一歩前に出た。


「魔物被害は、補給の遅延によって拡大しました。

 補給の遅延は、私兵の介入によって意図的に引き起こされています」


 視線が、自然と集まる。


「この二つを切り離して考えると、

 また同じことが起きます」


 王は、黙って聞いている。


「ですから、

 必要なのは“誰かを悪者にすること”ではなく、

 “同じことが起きない仕組み”です」


 少しだけ、間を置く。


「正直に言えば、

 罰より、改善のほうが面倒です」


 ゼノスが、横で微かに息を詰めたのが分かった。


(今の、

 下手すると怒られるやつ)


 だが、王は怒らなかった。


「……続けよ」


「補給の監査権限を、

 騎士団と王都で分散してください。

 現地判断を“越権”にしないための、

 明文化された手順が必要です」


 王が、ゆっくり頷く。


「領主については?」


「裁断に従います。

 ただし」


 私は、視線を上げた。


「処分が軽くても、

 情報が公開されなければ意味がありません」


 ざわり、と空気が揺れる。


「人は、

 “何が起きたか”を知らなければ、

 次に備えられません」


 沈黙。


 長い沈黙。


 やがて、王は深く息を吐いた。


「……よく分かった」


 その一言で、場の空気が少し緩む。


「本件については、

 責任の所在を明確にし、

 再発防止策を即時施行する」


 私は、内心でそっと息を吐いた。


(通った……たぶん)


 王は最後に、こちらを見て言った。


「そなたは、

 ずいぶん厄介な働き方をするな」


「よく言われます」


「だが」


 ほんの一瞬、口元が緩む。


「必要だ」


 その言葉で、すべてが決まった。


 広間を出た瞬間、

 私は壁に手をついた。


「……終わった?」


 ゼノスが聞く。


「一区切り、です」


「胃が痛い」


「同感です」


 アリオスが、静かに言った。


「国が、一歩動いたな」


「動かしましたから」


 三人で歩きながら、私は天井を見上げた。


(……異世界でも、

 結局やるのは調整と説明と後始末)


 それでも。


 誰かがやらなければ、

 また同じ夜が来る。


 そう思えただけで、

 この残業は――

 ほんの少しだけ、報われた気がした。

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