表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女(仮)を断固拒否!~推し活のために異世界で社畜になります~  作者: 済美 凛


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
12/21

王都では、会議が魔物より手強い

王都の門をくぐった瞬間、私は無意識のうちに背筋を伸ばしていた。

 農村とは空気がまるで違う。人の数も、音の種類も、漂っている緊張の質も、すべてが「日常的に権力がぶつかり合っている場所」のそれだった。


 石畳の道を進むたび、周囲から視線が集まる。

 騎士団の護送隊、拘束された私兵、そして書類を抱えた私。

 目立たないわけがない。


「……見られてますね」


 小さく呟くと、隣を歩くゼノスが肩をすくめた。


「思ったより静かだと思いますよ。

 石を投げられてないだけ、まだ優しいです」


「基準が怖いんだけど」


 アリオスは前を向いたまま、低く言った。


「王都では、

 声の大きさと立場が、事実より重く扱われることがある」


「ですよね。

 現場でどれだけ正しいことをしても、

 会議で負けたら“なかったこと”になるやつ」


「……経験談か?」


「山ほど」


 王城の一室に通されると、そこには既に何人もの官僚と貴族、そして神殿関係者が集まっていた。

 豪華な調度品と、無駄に広い空間。

 そのすべてが「ここで決まったことが世界を動かす」と主張しているようだった。


(ああ、これは長い)


 直感が、はっきりそう告げていた。


 形式的な挨拶が終わり、官僚の一人が咳払いをする。


「では、北方農村に関する一連の件について――」


 その瞬間、私は小さく息を吸った。


「すみません」


 場の空気を切るように、手を挙げる。


 何人かが露骨に眉をひそめ、何人かは面倒そうにこちらを見た。


「……聖女補佐殿、でしたかな」


「はい。

 本件の実務整理と現地対応を担当しました」


 私は、にこやかに、しかし一歩も引かない声で続ける。


「その前に、議題を整理させてください。

 今のままだと、話があちこちに飛んで、

 今日一日が消えます」


 ざわ、と空気が揺れた。


「……ずいぶん、言い切るな」


「この手の会議、

 私のいた世界でもよくありましたので」


(地獄の記憶が、今も鮮明です)


 机の上に、あらかじめ用意していた紙を置く。


「本日の論点は三つで十分です。

 魔物被害の実態。

 補給遅延の原因。

 私兵の行動責任」


 指で、順に示す。


「それ以外の“立場”や“感情”の話は、

 結論が出てからで問題ありません」


 数秒の沈黙。


 ゼノスが、横で小声で囁いた。


「……今、王都に喧嘩売ってません?」


「時間に対して売ってます」


「それも危険だ」


 だが。


「合理的ですね」


 静かに割って入ったのは、シリウスだった。


「神殿としても、

 本日は事実確認に集中するべきだと考えます」


(この人、本当にどっち側なんだろ)


 官僚は少し渋い顔をしつつも、頷いた。


「……分かった。

 本日は、その三点に絞ろう」


(よし、無駄な前振り削減成功)


 会議は、ようやく本題に入った。


 魔物の侵入経路。

 補給の停滞。

 帳簿の不一致。


 途中で何度も「前例が」「慣例が」「規定が」という言葉が飛び交ったが、そのたびに私は一つずつ、丁寧に潰していった。


「前例がないなら、今回が前例になります」


「慣例は守るためではなく、

 更新しなければ意味がありません」


「規定は――」


 少しだけ言葉を区切ってから、続ける。


「人が死なないためにあります」


 空気が、ぴたりと止まった。


 言ってしまった、という自覚はあった。

 でも、ここで曖昧にすれば、農村で見た光景が無駄になる。


 やがて、官僚が深く息を吐いた。


「……本件は、王の裁断を仰ぐ。

 領主は王都へ召喚。

 拘束した私兵は、証言者として扱う」


 決まった。


 会議室を出た瞬間、私は思わず壁に手をついた。


「……疲れました」


「まだ午前中ですよ」


 ゼノスが、容赦なく言う。


「嘘でしょ」


「本当です」


「異世界、時間の流れおかしくない?」


 アリオスが、珍しく柔らかい表情で言った。


「よくやった。

 あの場で、あそこまで通せたのは見事だ」


「ありがとうございます。

 でも……」


 私は、王城の奥を見上げる。


「ここから、

 もっと面倒になりますよね」


 背後で、シリウスが静かに笑った。


「王都は、

 “勝った後”が一番危険ですから」


「知ってます。

 嫌になるほど」


 私は深く息を吐いた。


(推しのライブまで、

 まだ日数はある)


 でも。


 この世界は、どうやら

 定時という概念を、

 最初から持っていないらしい。


 異世界社畜の戦いは、

 まだ、続く。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ