王都へ――仕事は、まだ終わらない
農村を出発したのは、翌朝だった。
護送用の馬車が二台。
一台には、拘束された私兵たち。
もう一台には、証拠の書類と、押収した装備。
私は後者の馬車に乗り込み、揺れに身を任せていた。
(……現場は収束。
でも、これで終わるほど、仕事は優しくない)
馬車の外では、アリオスとゼノスが騎馬で並走している。
農村の人々は、最後まで深く頭を下げて見送ってくれた。
それが、少しだけ胸に残った。
「ルーナ殿」
アリオスが、馬車の窓越しに声をかけてくる。
「王都に着けば、すぐ評議が開かれる。
証言、証拠、すべてを提示することになる」
「はい。
感情論にならないよう、整理してあります」
私は、膝の上の書類束を軽く叩く。
「“魔物被害”
“補給遅延”
“私兵の待ち伏せ”
それぞれを切り離して説明し、
最後に一本の線で繋げます」
「……慣れているな」
「炎上案件の事後報告、百回以上やってますから」
アリオスが、わずかに苦笑した。
そのとき、前方の騎馬からゼノスが近づいてきた。
「……あんた、本当に王都に行く気なんですね」
「逆に行かない理由あります?」
「いや……」
ゼノスは言葉を探すように視線を逸らす。
「王都は、現場と違う。
剣が役に立たない場所だ」
「知ってます。
だから、私が行くんです」
ゼノスは、しばらく黙っていたが、やがて小さく言った。
「……あんたが行くなら、
俺たちは“守る側”に徹します」
「助かります。
裏方が前に出ると、矢が飛んできますから」
「それ、冗談じゃないですよ」
「ええ。冗談じゃないです」
道は次第に整備され、石畳が増えていく。
遠くに、王都の外壁が見え始めた。
高い城壁。
複雑に入り組んだ門。
人と物資の流れ。
(……でかいな)
王都は、農村とはまるで違う“別の生き物”みたいだった。
門をくぐると、視線が集まる。
騎士団の護送。
縛られた私兵。
そして、馬車に積まれた証拠品。
噂は、もう回っている。
「……見られてますね」
「好奇心と警戒だ」
アリオスが、低く答える。
「この件は、王都の均衡を揺らす」
評議の場は、神殿と王城の中間に位置する広間だった。
貴族、神官、官僚――
全員が、すでに席についている。
空気が、重い。
(……うん。
これは“戦場”だ)
剣も魔法もない。
代わりにあるのは、立場と発言権と、視線。
「証言役は、私が務めます」
私がそう言うと、数人の貴族が眉をひそめた。
「聖女補佐が?
騎士団ではなく?」
「はい。
事実を、順序立てて説明できるのは、私です」
ざわ、と小さな波が広がる。
その中で、シリウスの視線だけが、静かにこちらを見ていた。
(……見られてる)
でも、今さら引くつもりはない。
私は一歩、前に出た。
「北方農村における一連の事案について、
事実関係を報告します」
声は、思ったよりも落ち着いていた。
「まず、魔物被害。
次に、補給遅延。
最後に、私兵による待ち伏せ行為」
一つずつ、淡々と。
感情は挟まない。
数字と証拠だけを積み上げる。
(……大丈夫)
ここは、私の得意分野だ。
初案件は、
いま――“王都の仕事”へと姿を変えた。
そして私は、
この場が次の戦いの始まりだと、はっきり理解していた。




