四十五話 朝食
「福崎様、福崎様」
僕は気持ちよく寝ていたところに僕の名前を呼ぶことが聞こえてきた。
ああ、ふかふかで気持ちいし、まだ眠い……。
「もう少し……」
「福崎様、朝の七時半ですよ」
今の時刻を聞かされて、僕は一気に目がさえた。
理由としては、今ルヴィエさんのうちに泊まっているということと、朝の八時に朝食にするという話を思い出したからだ。
他の人の家で朝食の時間に遅れるのはさすがにまずい。
「すみません!」
僕は体を起こしながら、朝食の時間に遅れそうになったことと、わざわざ起こす手間を掛けさせたことに謝った。
謝った後に僕の目の前に見知らぬ女の人がいてびっくりしたけど、昨日になんかお世話係として紹介されたのを思い出す。
僕はお世話とかはいいですとやんわりと断ったんだけど、今目の前にいる人は特に何も言わなかった。
僕としてはそれで断れていたと思っていたんだけど、今ここにいるということはそうではなかったみたいだ。
「いえ、謝られなくとも大丈夫です。それでは起きていただけますか?」
「あ、はい。ええっと……」
もう僕の中では関わらないと思っていたので、名前が思い出せない。
「フォスティーヌ・シェロンです」
「……すみません、名前を覚えるのが苦手で」
「そうですか」
見た目的には可愛い系なんだけど、この淡泊な感じ、真面目なのかな?
「お着替えはどうされますか?」
「えっと、どうされるとは?」
「お着替えの手伝いは必要でしょうか?」
「いや、いらないです」
女の人に着替えるのを手伝われるとか、どんな羞恥プレイだよ。
貴族とかでは当たり前なのかもしれないけど、僕は普通に嫌なので断った。
「あの、昨日世話はいらないと言ったつもりなんですけど」
「確かに福崎様はそうおっしゃりましたが、福崎様のお世話が今の私の仕事なので」
「なるほど……」
つまりは僕が何を言っても意味がないということか。
強く断ったら別なのかもしれないけど、そんな波風を立てるようなことをするほどのことでもないし。
……べつに害があるわけでもないし、まあいいか。
「あの、着替えるので……」
「了解しました。では、部屋の外でお待ちしております」
シェロンさんは部屋から出た。
おそらく部屋の外で待っているのだろう。
「早めに着替えるか」
本人があまり気にしていないとしても部屋の外に待たせているのは申し訳ないので、すぐ着替えられるように枕の横に置いていた服を手に取った。
それにしても、シェロンさんに起こしてもらってよかったな。
全員で食事を取るらしいから、僕が遅れると他の人に迷惑をかけて不味いからな。特にルヴィエさんがいるし。
僕はそんなことを思いながらシェロンさんの後をついて行っていたら、シェロンさんはドアの前で足を止めて扉を開いた。
「福崎君、おはよう」
「あ、おはようございます」
ルヴィエさんのお母さんに挨拶をされて昨日のことを思い出した。
思い出したところで特に何ってわけでもないけど、そのことを話題にした方がいいのかが分からない。
「おはよう」
「福崎くん、おはよう」
「おはようございます」
ルヴェエさんとエルディーさんにも声を掛けられた。
僕の後ろにシェロンさんが控えてるんだけど、二人も同じように使用人っぽい人がいるな。
娘のただの友人というだけでこの好待遇は、貴族だからなのか、それともルヴィエさんのお母さんの性格が関係しているのか。
まあ、ルヴィエさんのお母さんだからというのは、少なからず理由としてありそうではあるけど。
「福崎君も来たことだしいただきましょうか。自然の恵みと支えて下さる方たちに感謝を」
「自然の恵みと支えて下さる方たちに感謝を」
聞き覚えのない口上をルヴィエさんのお母さんが言ったのに続いて、ルヴィエさんも言った。
「自然の恵みと支えて下さる方たちに感謝を」
遅れて僕も言うことにした。おそらく、いただきます的なことなんだろうと思って。
「えっと、いまのはどういう意味なんですか?」
「この食卓にある食べ物を育んだ自然と、それを食べられる形にして私達にまで運んでくださった方々に感謝をするという意味よ。食事をする前にはいつも口にしているの」
「これはアリアーヌさんが考えたことなのよ。なのにどうして福崎君は知っていたの?」
えっ!?常識的なことじゃないの?
普通のことだと思って続けていってみたんだけど。
なんか疑われている?もしかして?
「知らなかったんですけど、言っておいた方がいいのかと思って」
「なら、なんで手を合わせたの?私たちはやっていないのに?」
しまった!
いつもご飯を食べるときにいただきますとかいちいち言わないけど、丁寧にやっといた方がいいのかなとか思ってやっちゃった。
「言っている内容的に祈りをささげる的なことなのかなと思って、なんとなくですね……」
「それはいい考えね!今度から取り入れることにしましょう」
なんか、なんとなくやった手を合わせる行為がルヴィエさんのお母さんに気に入られたみたいだ。
自分が思い付きで考えたことを取り入れたんだったら本当にいいのって思っちゃうけど、前の世界の挨拶だから別にいいか。
……あとルヴィエさんが疑わしいという感じでめちゃくちゃこっちを見てくる。
僕の言っていることって筋は通っているけどって、感じなんだろうな。
僕だったら変だなと思うし。
だからと言って、僕が他国のスパイでルヴィエさんの家のことを調べていたから思わずやっちゃったとかは、あまりにも間抜けすぎてそんな考えが浮かんだとしてもそれはないと思うだろうし。
それに僕が異世界から来た人間だから似たような挨拶があったらすぐに理解が出来たとか突拍子もないことを考えるわけもないし。
そう考えると、別に疑われてもって感じか。
「自然の恵みと支えて下さる方たちに感謝を。とっても素敵でいいですね」
「そう言ってくれると嬉しいわ」
エルディーさんのお世辞――お世辞かは分からないけど、ルヴィエさんのお母さんは本当にうれしそうにする。
……なんか、平和だな。
こうやって集まってご飯を食べるとかなんか久しぶりな感じがするな。
この世界に来てから誰かと一緒に食事をすることなんてほとんどなかったし、前の世界でもそんな家族全員集まってとかもそんな多くなかったから、実際久しぶりという感覚は正しいんだけど。
「それにしても昨日は夜遅くにごめんね」
「いえ、全然」
今日からかなり忙しくなることもあって一人でゆっくりしたいという気持ちもあったけど、だからと言って迷惑だったというわけでもない。
仮に迷惑だったとしても、ここで迷惑だったと伝えられるわけもないけど。
「昨日の夜……?何のこと?」
「別にちょっと会話しただけです」
ルヴィエさんは本当に何のことなのかと言う感じで聞いてきたんだけど、見た目が若いルヴィエさんのお母さんと二人っきりというシチュエーションを考えて、変な誤解を招かないようすぐに答えた。
「そう」
ルヴィエさんはちゃんと納得したのか、疑いの目を向ける感じもなくうなずく。
もともと僕が人に手を出すようなリスクを負うような人間じゃないと分かっているからだろう。
「ふふ、レインちゃん。二人で何を話していたか気になる?」
「いえ、そう言ったことは」
ルヴィエさん、しっかり過剰な反応をしないな。
僕との仲という話じゃなく過去の自分の話をされていたんじゃないかとかで少しぐらいは思うところはあるだろうけど、こういうのに反応すると面倒になることが分かっているからだろうな。
「……!?」
「どうしたの?」
僕がいきなりきょろきょろと辺りを見回したから、エルディーが声を掛けてきた。
なんか、すごい寒気がした気がしたんだけど……。
「いえ、特に何でもないです」
気のせいの可能性が高いから、エルディーさんには寒気については言わなかった。
高評価とかでなくていいので、評価してくれたらうれしいです。
マイナスなものだとしても、感想も書いてくれるとうれしいです。




