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四十四話 夜に


 ルヴィエさんのお母さんは僕たちのことをかなり歓迎しているみたいで、夕食ではこの世界どころか前の世界でも食べたことないレベルのめちゃくちゃおいしい料理が出てきた。

 量も結構あったから、満腹になってもう食いたくないと思うレベルにまで腹に詰め込んで、今は用意された部屋でかなりの満足感を覚えながら寝転んでいる。

 しかも、ベッドも凄くフカフカで寝心地がいいし。

 ルヴィエさんのお母さん的には、ルヴィエさんが家に呼ぶくらいの仲のいい友達がいてくれて嬉しかったのだろう。

 本当は特訓するためという理由がなかったら、ルヴィエさんが僕たちのことを家に呼ぶことはないぐらいの関係性ではあるんだけど。


「福崎くん、少しいいかしら?」


「あ、はい」


 二十二時という人によってはもう就寝しているような時間帯にドアをノックされて何事かと思ったけど、聞こえてきたのはルヴィエさんのお母さんの声だった。

 わざわざこんな時間に訪ねてくる割には緊急事態でもなさそうだし、何の用だろう?

 

「えっと、開けますね」


 気持ちよくベッドに寝転がっていたところだったから起き上がりたくなかったけど、さすがにルヴィエさんのお母さんを外で待たせるわけにもいかないので、体を起こしてドアまで向かい解錠して扉を開く。


「こんな時間にごめんね、福崎くん」


 だったらなんでこんな時間に、なんて考えがすぐに消し飛んでしまうぐらいルヴィエさんのお母さん姿が……何というか凄い。

 ルヴィエさんのお母さんはルヴィエさんとエルディーさんよりも男が女性に対して魅力的に感じるような部位の肉付きがいいので、ボディーラインが分かってしまうような服を着ているから色気が凄い。

 着ているものはただの寝間着なんだけど。


「いえ、全然」


 僕はルヴィエさんのお母さんのことを直視するのはちょっとアレなので、ドアの枠に目の焦点を合わせながら答えた。

 

「それで何の用ですか?」


「ちょっと福崎くんとお話をしようと思って」


「……こんな時間にですか?」


「もう遅いかなとも思ったんだけど、福崎くんたちは明日からは大変だと思って」


「えっ……、そうなんですか?」


 まとまった話す時間さえ取れないぐらいにはきつい特訓をさせられるということなのかと思ったことで、言葉を口にした後自分の出した声のトーンがいつもよりも低くなった。


「だって、体を動かした後は疲れちゃっているでしょ」


「……確かにそうですね」


 どんなことをするにしても、体を動かした後はゆっくりとしたい気持ちになるだろうし、明日に時間を取られるよりはいいか。

 それにどんなことをさせられるのは知らないけどルヴィエさんが手を抜かせてくれるわけがないから、特訓が終わった後は疲労困憊であることは間違いないだろうし……。


「ねえ、いろいろと話したいことがあるから中に入れてもらってもいいかしら?」


「……分かりました。どうぞ」


 身内ぐらいにしか自分の寝室に人がいる経験なんてないのに、すごい色気を感じるルヴィエさんのお母さんを部屋に入れることに抵抗感があったけど、家主相手に断るわけにもいかないから了承した。

 というか、小心者で保身的な考え方をする僕だから何も起きないだろうけど、もう人が寝始める時間帯に初対面の男と二人きりになるとか警戒心が薄すぎないか?

 年齢差とかはあるけど、そんなのを感じさせないぐらいの美人なんだから気を付けないとだめでしょ。

 僕はそんなことを考えながらも、手で入るように促す。

 そしたら、ルヴィエさんのお母さんは部屋の中に入ってベッドの上に座る。


「ありがとうね」


「いえ」


 ルヴィエさんのお母さんがベッドの上で僕の目の前に座ってるんだけど、この状況、どう切り抜ければいいんだ?

 そもそも女の人と二人きりという状況でさえどうすればいいか分からないのに、ルヴィエさんのお母さんのような美人――さらに言えばお母さんと表現しているけど、見た目でいったらちょっと年上のお姉さんっている感じの相手だからどこに視線を向ければいいのかで困るし、やっぱりいい匂いもするしで凄く落ち着かない。


「ほら福崎くん、立ってないでここに座ったら?」


 ルヴィエさんのお母さんは自分の隣を手でポンポンと叩く。

 

「いえ、大丈夫です」

 

 ルヴィエさんのお母さんの隣に座るなんてこと出来るわけがないので断った。

 

「でも立ったままじゃ話にくいし、ほーら」


 ルヴィエさんのお母さんはこっちに飛び込んできなさい見たいな感じで、手招きする

 いやこれ天然なの?

 誘っているって勘違いされてもしょうがないと思うんだけど。

 ……真面目にどうすればいいこれ?

 ルヴィエさんのお母さん相手に手を出すわけにもいかない――別の人だとしてもそんなことしないけどさ。

 とにかく、立ったままじゃ話しにくいとか言われたら断る理由が思いつかない。


「ほら、隣来て」


 ルヴィエさんのお母さんはそう言って、固まっている僕の手を掴んで隣に来させる。

 どうすればいいのか分からないからか、それとも欲に負けたからかは自分でも分からないけど、僕はすんなりと隣に座らせられた。


「福崎くんに聞きたいことがあるんだけど。いい?」


 いや近い!

 冗談抜きに集中できない!


「ねえ、福崎くん。聞いてる?」


「え?……あ、はい大丈夫です。……それで聞きたいことって何ですか?」


 このままだといろいろと不味いから、ルヴィエさんのお母さんの話を聞くことに集中することにしよう。

 近いとかいいにおいがするとかそういうことに意識を割かないようにすることが重要なはずだから。


「レインちゃんのことを聞きたいの」


「……えっと、一応さっき話したと思うんですけど」


「聞いたけど、表面的なことしか話していないでしょ?」


「いえ、別にそんなこと――」


「お願い、教えてほしいの」


 ルヴィエさんのお母さんは少しこっち側に体を傾けてまっすぐと僕の目を見る。

 ……ルヴィエさんって、ルヴィエさんのお母さんのことをアリアーヌさんって呼んでたよな。

 ということはいろいろと複雑な理由――例えば、実の親子じゃないとかでよそよそしい関係性とか。

 で、ルヴィエさんのお母さんは良くも知らない僕に真剣な表情で頼んでいると……。

 僕がルヴィエさんの立場だとしたら、知らない間に自分の学校生活のこととかを話されるとかめちゃくちゃ嫌だけど、目の前でこっちを見つめてくるルヴィエさんのお母さんを無視できるような肝の据わり方を僕はしていない。


「えっと、まあそうですね……。人付き合いは同じパーティーである僕とエルディーさんぐらいですけど、かなり優秀なので人の注目を集めるような存在であると言えますね」


 容姿もいいからっていう理由もあるけど。


「そうなの。じゃあ、福崎くんから見てレインちゃんってどんな人物?」


 ……昼にも同じ質問をされたんだっけ。


「自分に厳しく、他人に厳しい人物ですかね」


 ルヴィエさんのお母さんはまだまっすぐと僕のことを見つめてくる。

 本当にそれだけかといわんばかりに。

 僕としては踏み込んだところの領分の話は脳内で完結させるぐらいで、口に出すのは気恥ずかしい気持ちもあるんだけど……。

 今この雰囲気で口に出さないという選択肢はないよな。


「ちょっと違いますね。自分に厳しく、他人に興味がない。いやそれもちょっと違うか……。自分に厳しく、他人のことを期待していない人物ですかね」


「……どうしてそう思ったの?」


「僕とルヴィエさんでパーティーとして組んでまだ日が浅い時、ある依頼で何匹いたのかさえ分からないぐらいの大量のゴブリンに襲われたことがあるんです」


 今考えれば、あれはかなりの異常事態だったよな。

 それこそ、事態の深刻さで言ったら僕がここに来てから一番だったと思う。


「ルヴィエさんは依頼でも何でもないのにその大量のゴブリンを前にして一人で立ち向かいました。しかも、僕が気負わないようにするためか村に連絡するという口実を与えてその場から逃げやすいように気を遣ってくれたんです」


 もっと言えば、自分に甘く他人にも甘くというルヴィエさんからすれば一番嫌いな人種であろう僕に。


「今回の特訓も別に僕とエルディーさんの手伝いなんてしなくていいんです。確かに大会の成績とかに関わってきますけど、ルヴィエさんはそういう結果とか気にしない、自分のベストを尽くせればいいっていうタイプだと思いますから。今回の特訓も百パーセント善意なんだろうし」


 僕からしたらお節介ではあるんだけど。

 ……まあ、自主練をし始める前はそういうことを押し付けてこなかったから、ある程度僕のことを尊重している面もあるのかもしれないけど。


「だから僕は、ルヴィエさんは自分に厳しく無頓着で、他人に期待はしていないけど優しい人物だと思っています」


 やっぱり、ちょっと恥ずかしくなってきたな……。


「そう。そんな風に思ってくれたの、あの子のこと。ありがとうね」


 え!?

 僕が何にびっくりしているのかというと、ルヴィエさんのお母さんがいきなり抱き着いてきたのだ。

 

「あの、ちょっと」


 あまりに唐突だったため、思考停止していた僕は柔らかいとかいい匂いとかそういうことを感じられるぐらいの思考回路が働くようになって、抱き着いているルヴィエさんのお母さんを引きはがす。

 

「ごめんなさい。こんなおばさんに抱き着かれたらいやよね」


「その別に……、ルヴィエさんのお母さんがとかじゃなくて、まあなんかちょっと。それに、ルヴィエさんのお母さんのことおばさんとして見る人なんてほとんどいないだろうし」


「ふふ、お上手ね、福崎くん」


 ルヴィエさんのお母さんは照れた感じで言う。

 誰にでも言われてそうなことを言われて嬉しそうにするなんて、さすがに可愛すぎないか?

 ……いやいや待て、この方向に思考をめぐらすのは良くない。やめよう。

 部屋で二人きりになった中で、抱き着かれたりとかしたせいでいろいろと勘違いしそうになっているんだ、僕は。


「それにしても、ルヴィエさんのお母さんっていうのは少し他人行儀過ぎないかしら?福崎くんとは仲良くしていきたいし」


「……じゃあ何て呼べば」


「アリアーヌって呼んでほしいわ」


 なんかそんな気はしたけど。


「えっと……、ルヴィエさんとかエルディーさんとかは苗字で呼んでいるのに、ルヴィエさんのお母さんだけ名前を呼びするのはさすがにおかしいので、今まで通りでお願いします」


 名前呼びをするということが特別なことだとは思ってない。

 だけど、僕が言った通りルヴィエさんは苗字で呼ぶのはおかしいし、貴族かどうかは知らないけど、高貴な感じの人になれなれしい態度を取るということで余計なトラブルを起きてしまう可能性があるかもしれないので、今まで通りの方がリスクは少ないと考えたから断ることにした。

 僕が人見知りだから、そういうなれなれしくできないというのも大きいけど。


「……ならしょうがないわね」


 ルヴィエさんのお母さんは少し寂しそうに言う。

 こういうところで、えっとなら、とか言い出したらなし崩し的に名前呼びになることは分かりきっているので、僕は何も反応しなかった。


「もう用事は終わったということでいいですか?」


「うんそうね。聞きたいことは聞けたし。本当は福崎くんとの会話は楽しかったからもう少しお話ししていたかったんだけど、もう時間も遅いし。また良かったら二人でお話ししましょう」


「はいまた」


 僕はルヴィエさんのお母さんがベッドから立ち上がって部屋から出ていくのを見守る。


「普通な人だったら役得だと思うのかもしれないけど……。面倒な約束しちゃったな」


 僕はそう口にした後、明日から忙しくなることも考えてベッドに寝転がり毛布を被った。


高評価とかでなくていいので、評価してくれたらうれしいです。

マイナスなものだとしても、感想も書いてくれるとうれしいです。

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