四十二話 組む相手
「ねえ、福崎君」
「はい」
エルディーさんと仲が悪くなる――というよりは、ちょっと距離感をどうとればいいか分からないという感じになる前から僕とエルディーさんは依頼のこと以外で会話することはなかったけど、最近はそういう感じじゃない会話がちょくちょく増えてきている。
まあ、僕が話しかけるのが苦手なので、エルディーさんから話しかけてくれるという感じではあるけど。
「二週間後の対抗戦、一緒に出ない?」
「え?いいんですか?僕なんかと一緒で?」
「こっちから誘ってるんだから、いいに決まってるでしょ」
そりゃそうなんだろうとは思うけど、エルディーさんは人気がありそうだから僕なんかでいいのかなと思ってしまう。
「ならお願いします」
基本的には元々組んでいたパーティー同士で対抗戦に臨む人たちが多いみたいだけど、エルディーさんとかルヴィエさんレベルの実力者だと他のクラスからでも引き抜きされることは結構あるらしい。
実際、エルディーさんが他のクラスメイトに誘われている姿とかを見たことがあるし。
だから自分なんかでいいのかな、なんて思ったわけだ。
ただ僕としてはエルディーさんとルヴィエさん、他には前に組んだダンフォードさんとモルトハウスさんぐらいしか接点がないから、誰と組もうかと右往左往するのは目に見えていたので、正直エルディーさんの誘いはありがたい。
「えっ?いいの?」
エルディーさんは驚いたような表情で聞き返してきた。
「何がですか?」
「だって、福崎君ってルヴィエさんとチームを組んでるんじゃないの?」
え?どういうこと?
「別にそんなことないですけど」
「えっ、でも最近は朝一緒に来たりとかしているのは、対抗戦に関連することじゃないの?」
「まあ、そうっちゃそうですけど……」
「ねえ福崎君、朝はルヴィエさんと一緒に何をしているの?」
エルディーさんはどこか不思議そうな感じで聞いて来た。
「特訓をしています」
「え?特訓って、対抗戦に向けて?」
「別にそうとは言われてないですけど……。そうかもしれないです」
「えっとまって、それでルヴィエさんとは一緒に対抗戦に出るわけではないの?」
「いやまあ……」
……エルディーさんに言われて気づいたけど、確かに一緒に対抗戦へ出るつもりがない人に特訓を付けたりしないよな。
人の手助けをすることが好きとかいう物好きならともかく、あまり他人にかかわりを持とうとしないルヴィエさんが。
ルヴィエさんが僕と一緒にそういうところに出るという風に考えるということが想像できないというか、そんなこと考えているという可能性があることすら考えもしなかったな……
よくよく考えてみれば、今回の対抗戦は一人だけの出場が出来ないから誰かと組まないといけなくなる中で、ルヴィエさんって本当に僕とエルディーさんぐらいしか交流関係がなさそうだから、僕と組もうと考えるのは意外と自然なことなのか……。
「ルヴィエさんは、僕と一緒に出るつもりなのかもしれません」
「はぁ……、そりゃそうでしょ。……それで、あたしと一緒に出れるの?」
エルディーさん、僕に呆れているな。
まあ僕でも他人がこういう感じだったら、あほだなと思うだろうしね。
「……分からないです」
別に三人で出れる部門もあるから大丈夫だとは思ったけど、ルヴィエさんがどう思うのかが本当に分からないから明言することは避けた。
「なら福崎君、明日の朝に二人で特訓をしているところにお邪魔してもいい?」
「大丈夫だとは思いますけど」
「なら、場所を教えて」
「えっと、第五訓練室です」
「第五訓練室ね。分かったわ」
別にルヴィエさんとエルディーさんで不穏な空気になったことはないから大丈夫だとは思うけど、変なことにならないように僕は願った。
「おはよう、福崎君」
第五訓練室に入るときにいつも聞こえてくる声とは違ったからびっくりしたけど、そういえば今日はエルディーさんが来ると言っていたことを思い出す。
「おはようございます」
授業であまり使われてない方の教材を片手で持ちながら挨拶してきたエルディーさんに、僕は挨拶を返した。
ちなみにあんまり授業で使われてない理由は、授業で三年間使えるものと先生が言っていたからおそらく今の僕たちのレベルだと難易度が高すぎるからだと思う。
「あ、ルヴィエさんはまだいない感じですか?」
「うん、まだ来てないみたい」
まだ約束の六時である十分前なので、別にルヴィエさんが遅刻しているわけではない。
僕がまだ来てないとしたら遅刻する可能性はあるなと僕自身が思うけど、ルヴィエさんが遅れるという風には思わない。
もし遅れることがあったとしても、何かしらの事情があるんじゃないかと思うくらいには、ルヴィエさんのことをしっかりしていると僕は思っている。
「そうなんですか。……そういえば、今でも結構早い時間だと思うんですけど、エルディーさんはどのくらい前にここに来たんですか?」
「大体……、一時間半ぐらい前かな?」
「えっ!?一時間半前って……。ここ開くのって五時からですよね?」
「うんだから困っちゃたんだけど、しょうがないからここを開けてくれる管理人さんが来るまで部屋の前で待ってたんだよね」
「なんでそんな早く来たんですか?」
「いや、福崎君たちがいつごろ来るか分からなかったら、早めに行こうと思って」
「ああ、なるほど」
別に僕とルヴィエさんが特訓している間にという選択肢もなくはないけど、僕たちより早く来ようとするのが普通か。
そう考えたら、昨日そのことに気づいていつから始まるのか言えばよかったな。
……というか、わざわざ今日来るのはえらいな。
だって今日僕にいつから始まるのか聞いて、明日にすればいい話だから。
こういうことを先送りにするのは良くないと思ったから今日かなり早めに来たんだろうけど、僕だったらめんどくて、絶対に明日に回しちゃうわ。
「福崎君、おはよう。それと、エルディーさんも」
「おはようございます」
「おはよう」
僕は立てかけてある時計を見た。
ちょうど、約束の五分前ぐらいだな。
「それでエルディーさん。今日ここにいるのは私に用があるからかしら?」
「うん、そうなの。ちょっとだけ時間いい?」
「……別にいいわよ」
ルヴィエさんはちらっとこっちを見た後に同意した。
こっちを見てきたのは、僕との特訓時間を使ってもいいかという気づかいじゃなくて、その時間を使ってもいいかどうかの判断をするためにという感じがする。
もしくはエルディーさんを連れてきやがってみたいな意図の可能性もあるけど、そうではないことを願いたい。
「その、ルヴィエさん達と一緒に対抗戦に出たいと思っていて」
「ルヴィエさん達って、これも一緒にということ?」
ルヴィエさんは僕のことを指す。
いや、普通にこれ呼ばわりはひどくないか。まあ別にいいけど。
「そうだけど、一緒に出るわけじゃないの?」
「……福崎君とは一緒に出るつもりではあったけど、別にそれが確定していたわけではないわ」
ルヴィエさん、確定していたわけではないと言っているけど、絶対に決定事項だと思ってたよな……。
まあ、僕は組む相手なんて他には今回誘ってくれたエルディーさんぐらいしかいないだろうから、別にいいんだけど。
「……そうなんだ」
僕にはちょっとだけあきれているようにも見えたけど、エルディーさんは笑顔で答える。
僕がエルディーさんは貴様らそのくらい決めておけよ、とか考えているんじゃないかと思っているからそう見えるのかもしれないけど。
わざわざ朝に集まって一緒に特訓をしているのに対抗戦に一緒に出るかどうか決まってないという事実が、あまりにもどっちもがコミュ障すぎて。
「それでどうなの?」
「……別にいいけれど、条件があるわ。それは、うちに来て特訓を受けてもらうことよ。この条件を受け入れる気がなかったり、特訓の途中でリタイアしたらその時点で話はなしにさせてもらうわ」
「……分かった」
エルディーさんはどこか覚悟を決めたような表情をする。
はあ……。それにしても薄々分かってはいたけど途中でやめたくなるぐらいにはしんどいことをやらされることを知ってしまい、僕から拒否するような度胸はないけど、ルヴィエさんの家に行く前からリタイアしたくなってきた。
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