三十六話 別の場所で
「なんで保険医の僕がこんなことをしているんだろう?はぁ……」
白衣を着た人物はそんなことを言いながらも、サイズは違うが福崎たちが苦戦していた白い化け物と同じ見た目の生物の脳天をナイフで突き刺した。
その攻撃を受けた白い化け物の巨体が地面に倒れこみ、動かなくなる。
「そこのところどう思う?」
白衣を着た人物は誰もいないように見える廃墟の方角に問いを掛けると、建物の物陰から体をマントで覆いフードをかぶった男が姿を現した。
その男の人相はフードで隠れていてよく見えない。
「……なぜ気づいた?」
「なんとなく、かな?」
白衣を着た人物は人に神経を逆なでするようなおどけた言い方をした。
「……ちっ、ふざけたやつだ」
「初対面の相手にその言い草はひどくない?……あ、そうだ、僕たちは初対面なわけだし、お互いを良く知るために名前ぐらいは知っておいた方がいいと思うんだ。僕はテオン・クロデル、君は?」
「言うわけないだろ」
「それは残念だ」
テオンは本当に少しだけ残念そうにする。
「それよりも貴様、ここまでどうやって来た?ここら辺にはゴルドリクスが三十匹はいたはずだ」
「へえ、これかなりいたとは思ったけどそんなにいたんだ」
テオンは先ほど倒した白い化け物――ゴルドリクスに目を向ける。
「……貴様、化け物の類か」
「いやいやそんなことないって。僕程度なんかじゃ、化け物なんて名乗れないよ」
「……ふん、まあいい。周りにいる程度のゴルドリクスではふざけた貴様の相手にはならないようだが、まだ二匹しか生み出せてない特別な個体のゴルドリクスならどうかな?」
マントを纏っている男がリモコンのようなものを取り出すと、廃墟の中から先ほどテオンが倒したのよりも一回りでかいゴルドリクスが出てきた。
「ウォォォー!!」
「……相変わらず、威圧感のある鳴き声だね」
テオンはあきれが混じったような言い方をした後、涼しい顔をしながら特別な個体であるらしいゴルドリクスへと走りだす。
ゴルドリクスの方もテオンより少し出だしが遅れはしたが、両腕を広げながら突進した。
お互いの距離がどんどんと近づいていき、テオンとゴルドリクスがすれ違った瞬間、ゴルドリクスの首が飛んだ。
「……なるほど、特別っていうのはそういうことね」
何か納得したような態度をしたテオンの視線の先には、首がないにも関わらずテオンの方を振り向いて突進してくるゴルドリクスがいた。
そんなゴルドリクスは顔がないのにもかかわらずにかなりの勢いで突進するが、テオンには攻撃を当てられず右腕を切断されてしまう。
「そんなことをしても無駄だ!」
マントを纏っている男が叫ぶと、ゴルドリクスの切断された首と腕から変な肉みたいのが生えて、そこからだんだん顔と腕の形になっていき完全に元通りになった。
「うわぁー……」
テオンが引きつった顔をする。
おそらくゴルドリクスの腕と特に顔が再生される光景が、人によっては吐き気を催すレベルでグロテスクだったからだろう。
「ハハハ、どうだ!お前はこれからどうする?」
テオンの反応に勘違いしたのか、マントを纏っている男は勝ち誇ったかのように笑う。
ただ、ゴルドリクスが際限なく再生できる能力を持っているなら、どうにかできる手段がないとテオンがピンチなのは間違いない。
「うん、まあそうだな……」
テオンは白衣についているポケットの中に手を突っ込んだ。
目当てのものが見つかったのかテオンはポケットから手を出すと、注射器のようなものが握られていた。
ゴルドリクスは何かしようとしているテオンのことに対して、一切警戒してないからか何も躊躇せずに近づいていく。
テオンはゴルドリクスの攻撃を避けて、先ほど取り出した注射器のようなものをごる踊りクスの腕に針を刺す。
ただ、テオンが恐らく毒物と予想されるものをゴルドリクスに注射したはずなのに、特に反応が現れなかった。
「無駄だよ、無駄!ゴルドリクスは毒物にはかなり耐性があるように作られてるんだよ!」
テオンは興奮しているマントを纏っている男を無視して、ゴルドリクスの足を切り落とす。
いくらゴルドリクスに再生能力があるといっても、今までは生えてくるのに二、三秒はかかっていたのに、今回はコンマ数秒レベルで再生されたため、一瞬で体勢を直してテオンに殴り掛かる。
そんなゴルドリクスの攻撃をテオンはしっかりと、腕に傷をつけるおまけもつけて避ける。
「おいおい、お前の毒は逆にゴルドリクスのことを強化してしまったようだな!」
「確かにそうみたいだね。いや、困ったなー」
「はん!いつまでその強気が持つかな?」
テオンとマントを纏っている男の会話があった後、数分間テオンが攻撃をよけながら攻撃を与えて、ゴルドリクスがその受けた傷を超再生するという時間が流れた。
「そろそろ諦めたらどうだ?もう疲れただろう?」
「いやまあ、まだまだいけるかな。それに――」
テオンがゴルドリクスの腕を切り飛ばしたら、腕は再生されてない。
「何!?」
「そろそろ終わりそうだしね」
ゴルドリクスはテオンにとどめを加えられることもなく、その巨体が地面に倒れこみ動かなくなった。
「何故だ!?」
「いや何故って、本当に無限に再生するなんてことできるわけないでしょ。魔法的なもので再生しているにしても、物理的な法則で再生しているにしても」
「……」
「だから、再生できなくなるまで切り刻むことにしたんだけど、さすがにずっとそんなことしたくないから、ほんの一滴だけでも十分な効果がある自然治癒能力が上がる薬を大量に打ち込んだんだ」
「なっ!?」
マントを纏っている男の顔は隠れているため見えないが、唖然としているのが伝わってくる。
しかしテオンはそんなことを気にせず続ける。
「魔法的に再生しているのだとしたら、薬の量が量だからすぐ死んじゃうか何も効果が現れないかどうかのどちらかなと思っていたけど、再生能力が上がったことから生物的な特性なんだと僕は確信した。まあどっちであったとしても、力尽きるまで切りつけることには変わりなかったけど」
「……バケモノめ」
「まあ、確かに、君基準で考えると化け物なのかもしれないね」
テオンはそう言いながら、マントを纏っている男へと近づいていく。
「僕の答え合わせは終わったわけだし、今度はそっちの答え合わせをしないと不公平だよね」
「……どういう意味だ」
「つまりは、君はどこの手のものっていうこと」
「……」
「言えないかぁ……。ゴルドリクスとかいう生物は作られたものっぽいし、君一人じゃあんな数揃えるなんてできるわけないから、複数人、もしくはどこかしらの組織の一員なのは間違いないし……。あんま好きじゃないんだけど、痛い思いをしてもらうしかないかな?」
テオンはおもむろに白衣についているポケットに手を突っ込む。
マントを纏っている男はテオンに圧を感じてか後ろ歩きをし、廃墟の悪い足場につまずいて転んでしりもちをつく。
転んだ勢いでフードが外れ、特に特質して言うこともない平凡な顔がさらされた。
さらされた顔には恐怖に彩られていた。
「素直に言ったら痛い思いはさせないし、とりあえず今は死ぬようなことはないよ」
テオンは注射器を取り出し、マントを纏っている男に向ける。
「言います!言いますから!俺はハ――」
マントを纏っている男が素直にしゃべろうとしたところで、声を上げる間もなく爆散した。
「これ、どう考えても口封じだよね……。近くの自衛団に預ける前に、ちょっとどういうところが絡んでいるのかっていうのを知りたかっただけなんだけど……」
テオンはマントを纏っていた男が爆散した場所を見る。
「これ絶対、いろいろとヤバいよね。情報を与えようとしたら爆散するなんてことを本人に伝えないような組織だということと、爆散したことが。……見なかったことにしようかな。でも、さすがにこれを黙っておくのはもっと不味いような……」
テオンは兄から借りているゲーム機を壊してどうしようかと悩んでいる子供みたいに、爆散した場所を見つめる。
「いいことしたはずなのに、なんでこんなことになったんだろう。はぁ……」
高評価とかでなくていいので、評価してくれたらうれしいです。




