三十七話 いつもよりはましな帰還
僕たちはあの白い化け物を倒した後、途中で別れたウィンパーさんたちとすぐに合流した。
幸いなことに白い化け物と同じ個体に再度、遭遇するといったようなこともなくギルドまで帰還できた。
一体だけでも出会ってる時点で幸いなことではないのかもしれないけどね……。
とにかくそういった経緯を経て、今僕はギルドの中にある食堂で食事を取り終わったところだった。
ここのごはん、そこそこうまかったな。
何よりも依頼中は保存食と村の食事だったから、久しぶりに自分が食べたいものを選べるっていうのがいい。
そう考えるとそういうご飯関係も含めて今回も結構大変ではあったにしても、なんか妙に疲れがたまってる感じがする。
今まで以上に。なんでだろうな……?
いつもはやばい怪我して起きたらベッドに寝かされてたけど、今回は大した怪我をしなかったから、自力で帰らなきゃならなくなったからか?
死ぬかもしれない傷を負う代わりに自動的にベッドまで連れてってくれるよりも、しんどいけど致命的な傷を負わないで済む代わりに自力で帰ってくる方がましではあるんだろうけど……。
これがいつもよりもましって……。
「はぁ」
いかにこの世界に来た僕が不幸な目に合っているのかということを分かってしまって、ため息が出てしまう。
それとも、こんな一歩間違えば死が訪れるような世界だったら当たり前のことなのか?
この世界の人なら、それこそ僕みたいな危険が訪れることは人生に数回はあるのかもしれないけど、一年もたってないのに四、五回ぐらいそういう目に合ってるっていうのは当たり前のこととは思えないけどな……。
「福崎君、ため息なんてついてどうしたの?」
「え?」
自分が不幸か不幸じゃないのかという論議に結論が出たところで、エルディーさんに話しかけられた。
「あ、ごめんね。いきなり声を掛けて」
「いえ、全然大丈夫です」
僕はそう言いながらも確かに最近は全然交流がなかったわけだし、かなり唐突ではあるよなと思った。
何の用だろう?
「さっきはどうしたのって聞いたけど、あたしも気持ちは多分福崎君と同じだから分かるわ。一昨日に白いのに襲われたことででしょ?」
「まあ、そうですね」
ご飯関係とか、移動距離とかそういったことも含めてではあったけど、わざわざそんなことは口にしない。
「前に魔王軍とか名乗ってきたやつを相手にした時よりはましだったとは思うけど、だからと言ってあの白い化け物の相手したのも、相当なことだったのは間違いないからね」
「まあ、そうですね」
「それで、今回のことの話なんだけど……」
エルディーさんは言いづらいことなのか、言葉を詰まらせる。
今回のことで言いづらいことか……。何だろう?
というかこれ、僕から聞きに行った方がいいのかな?
「あの、何ですか?」
「……その、今回は結構あたし頑張ったと思うの」
「えっと……、僕もそう思います」
僕がなんて答えればいいんだろうと思って迷っていたら、エルディーさんがどこか不安そうな顔しながら見つめていたので肯定的なこと言うと、安心したのか胸をなでおろした。
エルディーさん、何が言いたいんだろう?
確かに、今回は僕よりもエルディーさんの方が活躍したのは間違いないと思うけど。
だからと言って、褒めてほしいとか今回は自分の方が頑張ったとか言うような性格でもないだろうし……。
言いづらそうにしながら、わざわざ僕のことを煽るつもりもないだろうし。
「今まではあたし、福崎君の足を引っ張ってきたことは自覚してる。だから、今までは口にしづらかったんだけど……」
エルディーさんはまた言葉を詰まらせた。
僕はまた聞いた方がいいのかなと思ってエルディーさん方を向くと、何か覚悟を決めた表情とはこういうものなのかなという顔をしていた。
「あたしのことを福崎君の仲間として認めてほしい!」
「えっ?」
仲間として認めてほしいってどういう意味?
仲間として認めてほしいって言っても、元々パーティーメンバーだから仲間ではあるはずだから。
でも、エルディーさんの真剣な表情からそんなことを言いたいのではないというのは伝わってくる。
だからこそ意味が分からない。
「その、福崎君ってあたしのことを興味のないでしょ」
「いえ、そんなことは……」
「別にそれを問い詰めるつもりはないというか、あたしにはそんな資格がないと思ってる。今回は頑張ったけど、今までは足を引っ張ってきたから。でも、今回の活躍であたしのことを認めてほしいの!信頼できる仲間としてとは言わないから!」
エルディーさんの真剣な、まっすぐな思いを、僕は持て余した。
だって、僕はそんな思いをぶつけられるような人間じゃないと自覚しているから。
エルディーさんに興味を持ってないでしょ、と言われて僕はドキッとした。
別にこれはエルディーさんに限った話ではなく、根本的に僕は他人に興味が薄い。
もし僕がエルディーさんだけに嫌悪の感情を抱かないために興味をなくしたということなら、人として正しいことだと思う。
でも僕は全般的に人に興味がないから、エルディーさんには資格がないとかは関係なく、ただただ僕が最低なだけっていうだけの話だ。
僕がそんな人間だから、エルディーさんのまっすぐな思いがすごく、重い。
「えっと、あの……」
僕にとってそのまっすぐさは重くて、どう扱っていいか分からないから口ごもる。
実はなんとなくだけどエルディーさんが今回は結構頑張ったという話をした時から、こういう話になるかもしれないという予感はあった。
でもこういう風になったら厄介になると思ってしまったらから、分からないふりをした。
そう考えると我ながらやっぱり僕は最低な人間だな。
「その、僕は……、そんなことを言われるような人間じゃなくて……」
「……だめ、かな?」
「いや、そうい――」
僕が悪いということを伝えようとしてエルディーさんの方を見たら、悲しそうな、これじゃダメなんだというのが伝わってくる表情をしているのを見てしまい、自分が悪いんだということを言おうとしていた口が動かなくなった。
エルディーさんの悲しそうな表情を見て、これ以上言い訳するという僕にとって楽な選択肢を取っていいのかと。
多分、というか絶対にエルディーさんが今回のことを口にするのはすごく勇気がいることだったと思う。
少なくとも僕だったら、恥ずかしいとか相手に面倒くさいとか思われないかと言った感情に阻まれて絶対にできない。
そんな僕じゃ絶対できないようなエルディーさんの行為を、僕がなんとなくどうすればいいのか分からないという感情で踏みにじろうとしてしまっていいのか。
自分は最低だなと思いつつ、本当にこんな僕でいいのかなと思いながらも――、
「えっと、僕でいいんですかね?」
「それはあたしが聞いてるんだけど」
「……そうですね。じゃあ、これからよろしくお願いします」
気恥ずかしさがありながらも、僕は右手を差し出した。
だっていくら僕が最低でも、ここで思いに答えないなんてことは出来なかった。
それにエルディーさんとの関係をここで終わらせたくないという思いもあったのかもしれない。
ただ、エルディーさんがきょとんしているのを見て、もしかしてこの世界じゃ握手という文化がないのかなと思ったところで――、
「うん!これからよろしくお願いします!」
すごくうれしそうな表情でエルディーさんは僕の右手を握った。
握られた手からエルディーさんの人肌の熱が伝わってくるのを感じて、改めてエルディーさんの顔を見たら、すごく顔立ちが整っていた。
その気づきによって、エルディーさんみたいな可愛い人に自分から握手しようとしたことが急に恥ずかしくなった。
「ねえ、福崎君」
「……はい?」
感動の展開みたいな感じの所で相手の容姿が整っていたために自分から握手をして恥ずかしくなるということに情けなさを感じていたが、話しかけられてエルディーさんへと意識が向く。
「前から思ってたんだけど、その敬語辞めない?あたし達は仲間でしょ」
「えっ、まあそうですけど……」
「ほら、今も使ってるわよ」
「いや、まあ、はい……。えっと、善処します」
「今もうそれが善処出来てないじゃん」
エルディーさんは咎める感じではなく、笑って言う。
ため口を使うのって調子に乗ってるというかなんというか、ため口を使ってるから調子に乗ってるというわけじゃなくて、……単純に言うと自分で使うのは、なんか苦手なんだよな。
それに、エルディーさんみたいな人気がある女の子相手に、ため口を使っていると周りからヘイトを買いそうだし。
「えっと……、追々ということでいいですかね?」
「うーん、まあ……、それなら追々ね。お願いよ」
「……はい」
ため口を使う相手なんて家族以外にはいなかったし周りの目とかも気にしちゃうから難しいだろうなと思いつつも、もしからしたらそう遠くない未来には気軽な感じの言葉遣いをしているのかもしれないな、なんて、今の自分では考えられないことを想像した。
高評価とかでなくていいので、評価してくれたらうれしいです。




