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三十五話 知ってしまったことによる弱さ


「お前ら、大丈夫か?」


 あの白い化け物から逃げるために、先頭に立って僕たちを誘導していた兄の方のバークさんは足を止めた。

 兄の方のバークさんの問いに、周りにいる人たちは頷く。

 白い化け物から逃げ出してすぐは何を言われても頷く余裕すらないという感じだったのに、今この瞬間の周りの人たちの顔色は幾分かましになってきているように見える。


「エヴァンにい、これからどうするの?」


 スタンディングさんが兄の方のバークさんを見て言う。

 そんな光景を見て僕は、スタンディングさんって、兄の方のバークさんのことをエヴァンにいって呼ぶんだなと思った。今はそんなどうでもいいことを気にしているような場合じゃないけど。

 でもまあ……、そんなどうでもいいことを気にすることが出来るぐらいには、僕の心に余裕が出来てきたっていうことなのかもしれないな。


「そうだなー……。とりあえず、ギルドと連絡が取れるところまで行って、救援でも頼むか!」


 絶望感で暗かった雰囲気が薄くなったとはいえまだまだ気が抜けないような状況の中、兄の方のバークさんはいつもみたいに軽い口調だった。

 持ち前の気質が明るいというのもあるんだろうけど、暗い空気を変えようという意図があるような気がした。

 

「それって、ヴェロニカさんたちを見捨てるってことかよ!」


「何言ってんだ、アーヴィン。そうじゃなくて、姐さんたちを助けるために一刻も早く助けを呼ばないといけないだろ」


 スタンディングさんが怒りに任せて声を上げた中で、兄の方のバークさんはいつも通りの調子で返す。

 そんな姿を見せる兄の方のバークさんは平静を保っているように見えるけど、僕はウィンパーさんたちの所に一番加勢したいのは兄の方のバークさんなんじゃないかと思っている。

 だって、一番力になれて、一番付き合いが長いだろうから。

 僕がそう思って兄の方のバークさんを見ていたからか、どこか自分に言い聞かせているようにも見えていた。


「グウォォー!!」


 いや、まじか……。

 このままだと兄の方のバークさんとスタンディンさんの間で厄介なことになりそうだなと感じていたところに、さっきと同じような骨にまで響く雄叫びが聞こえてきた。

 もしあの化け物が襲ってきたんだったら二人の間で気まずい空気にはならなくなるな、なんて思いながらその雄叫びが聞こえてきた方向を見てみると、予想通りさっきと同じ白い化け物がいた。

 ただ僕の予想と違っていたのは、さっきのやつよりも一回りぐらいでかかったことだ。


「はぁ。なんでこんなことになっちゃうのかね?目の前にいる奴が、姐さんたちが相手しているのとも違うというのも良いのか、悪いのか」


 兄の方のバークさんはそう言いながら、背負っている矢筒に入っている矢を一本抜き取り、弓を構える。

 兄の方のバークさんが遠距離攻撃をするなら僕は前を張るべきだよなと思って、いつも通り恐怖とか言う余計な感情を考えないようにとしながら前を出ようとすると、足が動かなかった。


 前までだったら、これで動けたはずなのに……。

 あの白い化け物の前に立つと考えてしまうと、恐怖なんて考えない、そう思っていたはずなのに魔王軍を名乗る男にぼこぼこにされた記憶がフラッシュバックして足がすくんでしまった。

 ……今までは自己暗示みたいなことをしてこういう場面でも動けていたけど、本当の恐怖というものを味わったせいで、それが出来なくなったのか?

 ……とりあえず近づきさえしなければ、冷静に物事は考えられそうだ。


「アンブローズ!前は頼んだぞ!」


「うん!」


 兄の方のバークさんに前衛を指示された弟の方のバークさんは、こっちに向かってくる白い化け物の懐に目にもとまらぬ速さで潜り込み、僕がいつも使っているような剣で片足を切断した。


「いやいや、まじかよ」


 僕は今起きたとこにびっくりして兄の方のバークさんを見ると、僕と同じく驚いていた。

 そんな様子から、弟の方のバークさんの実力が考えていた以上だったのかなと思った。


「ウオォォー!!」


 雄叫びを上げた白い化け物の方に視線を戻すと、バークさんの驚きは僕が考えていたものと違っていたことが分かった。

 もしかしたら弟の方のバークさんの動きにも驚いたのかもしれないけど、多分それ以上に、切断されたはずの白い化け物の足が新しく生えていっていることに驚きを覚えたのだろうと。


「……もうちょっと引き付けてくれ。出来るか?」


「はい!」


 弟の方のバークさんは自分が切断した足が再生している姿を見ても、動揺を感じさせないはっきりとした返事をする。

 ただ、白い化け物は弟の方のバークさんを狙って突進していってるので、わざわざ引き付ける必要性はなさそうだけど。

 そんな突っ込んでくる白い化け物に対して、弟の方のバークさんは華麗にかわしながら、腰に差しているダガーぐらいの長さの刃物を抜いてわき腹を切りつけた。

 切りつけられた脇腹は赤い筋のような傷となっているように見えたけど、傷が浅すぎたからか一瞬でその傷は塞がる。

 

 白い化け物は大木のような太い腕で弟の方のバークさんに向けて、風を切る音がこっちにまで聞こえてくるようなパンチを繰り出した。

 そのパンチに対して弟の方のバークさんはしっかりと避けている姿が見えた。それと、なんかよく分からないけど、キーンという金属音のようなものが聞こえてきた。

 

「うわ!?」


 何の音だろうと思っていたら、僕の目の前で剣の刃の部分が地面に刺さって本気でびっくりした。

 何この刃、危なすぎるだろ!と思ったが、今何が起きたのかを考えたらこの刃が何なのか予想がついた。

 僕の予想が正しいのか確かめるために弟の方のバークさんの剣を見てみると、長い方の剣の刃の部分が欠けていた。


 いやなんで、折れた刃が僕の目の前にピンポイントで飛んでくるんだよ……。

 ……ん?いやでもこれって……、弟の方のバークさんの剣が折れるような出来事が今あって、さらには有効打を与えられるかもしれない方の剣が使い物にならなくなったっていうことだよね?

 ……それって普通に不味くない?


 僕は不安に思いながら弟の方のバークさんに視線を向けると、しっかりと化け物の攻撃を危なげなく避けていた。 


「避けろ!アンブローズ!」


 攻撃は避けられるのかもしれないけど、決定打がないからこのままだとラチがあかないなと思っていたところで、兄の方のバークさんの声が聞こえてきた。

 弟の方のバークさんは避けろという声の後、右方向に避けた。


「ウオォォー!!」


 シュッという周りが静かじゃなきゃ聞こえないような音の後、白い化け物は目を抑えながら今までで一番の叫び声をあげる。

 ……もしかして、結構いいやつ入った?


「ガァァァー!!!」


 うるせえ!さっきよりも声がでかくて、鼓膜が破れるかと思った。……破れてないよな?

 白い化け物は鼓膜が破れたんじゃないかと思うレベルの叫び声をあげ、こっちの方――いやそれよりも後ろの方を今にも飛び出しそうな勢いでにらんでいた。

 目は再生されてないから、攻撃らしいまともなのを食らったことで怒り狂ったのだろう。


 これ、弟の方のバークさんは白い化け物の攻撃を避けることはできるんだろうけど、長い方の剣も折れちゃってるから致命打を与えられなそうだし、別の所にヘイトが向いたらやばいよな……。


「行かせるか!」


 弟の方のバークさんは短剣を振って傷をつけたが、白い化け物はそれをものともせずに恐らく兄の方のバークさんに目掛けて走り出した。


「アースウォール!」


 突然、白い化け物の進行方向に回り込んだり飛び越えたりするには難しい、四つの土の壁が現れた。

 白い化け物は一枚目、二枚目の壁を突進した勢いでぶち破ったが、三枚目の壁で勢いが止まり、目の前にある壁に右腕を振りかぶって破壊しようとした。

 そんな隙を弟の方のバークさんが見逃すはずもなく、白い化け物の頭に短剣を突き刺した。

 

「グハッ!」


 白い化け物は頭をぶっ刺されたのにもかかわらず、頭の上にいる弟のバークさんを掴んで、地面に叩きつけた。

 そして、白い化け物は頭に突き刺さった短剣を抜くと頭の傷がなくなり、弟の方のバークさんを見て握りこぶしを作り、殴ろうとしたら――、

 

「アーススパイク!」


 地面から土でできた支柱の先端をとがらせたような物が、白い化け物の体を貫いた。

 僕はこの魔法を唱える声が聞こえた方向に視線を向けると、エルディーさんが杖を構えて次の魔法を使う準備をしている姿が見えた。

 そして、白い化け物はエルディーさんの方に視線を向けた。


 ……はあ、何やってるんだよ、僕。

 あのエルディーさんが戦いに参加して、僕が何もしてないなんて。

 確かに今の僕はあの化け物の前に立って戦うことができないけど、遠距離から剣を飛ばすことぐらいは間違いなくできた。

 それにバーク兄弟が特別な可能性もあるけど、しっかりと攻撃が通っていたわけだし、やってみる価値はあったよな。

 ああもう!!……いや、今はそんな反省みたいなことをしてないで、今僕が出来ることを考えるべきだな。

 

 僕が何をするべきなのかを気づき始めたところに、白い化け物が魔法で体に突き刺さったものを強引に折った後に引き抜き、エルディーさんの方に向かおうとしている姿を見て――、


「エルディーさん!僕があいつを引き付けるので、あいつが突進してきたところにまたさっきと同じような壁を作ってください!」


「……分かったわ!」


 あの化け物は弟の方のバークさんの攻撃が基本的に通っているところを見ると、そんなに固いわけではないと思う。

 ただ、一回だけ弟の方のバークさんの攻撃を防ぐどころか剣を折っているという事実があるから、何かしらの防御手段はあるかもしれないけど……。

 ただ、その防御手段はあの化け物が意識していないとできないことであることが、弟の方のバークさんの攻撃が通っていることから分かる。

 だからと言って、僕の使っている剣は安物だから攻撃が通らない可能性がある。

 ……でも、これなら!

 弟のバークさんが使っていた折れた剣の刃を複製して、白い化け物へと発射した。

 そして、その刃はしっかりと白い化け物の体に刺さる。


 発射した刃が白い化け物の体へと突き刺さったのを確認した僕は、顔――まだ矢が刺さっていない方の目を意識して発射した。


「ガァァァー!!」


 白い化け物は腕で顔を守ることで刃をはじきながらいったん立ち止まり、攻撃しているのが僕だと気づいたからかこっちの方を向かってくる。

 よし、来たな。


「エルディーさん、お願いします!」


「アースウォール!」


 よし!白い化け物はエルディーさんの作った土の壁にぶつかって、しっかり止まったな。

 あの化け物は切断された足も再び生やせるようなあほみたいな再生能力はあるけど、体を埋まっているものは一回取り除かないと再生できないだろ!

 だから、取り除きづらいは剣の刃の部分だけの攻撃は結構有効なはず!


 僕は複製した折れた剣の刃をエルディーさんの魔法の壁の上と横側から回り込ませて、突進してきた位置から白い化け物がいるであろう場所を予測し、その予測した場所へと向かわせた。


「グウォォー!!」


 白い化け物が苦しむような叫び声が聞こえてきて、僕は上手くいったことを確信した。

 しかし僕がもう一回同じ攻撃をしようと刃を複製している最中に、白い化け物は壁を突き破ってこっちに向かってきた。


 まじか!?

 僕はびっくりして、何も考えずに複製したものを白い化け物へと放つ。

 それに対して白い化け物は腕で顔を守りながら、ものすごいスピードでこっちに突っ込んで来た。


 いやこれマジで不味いぞ!


「おっと、俺のことも忘れないでくれよ」


「グワァァァー!!!」


 白い化け物は矢が刺さっていなかった方の目を抑えた。

 白い化け物に矢を当てた人の声が聞こえてきた方向を向いたら、兄の方のバークさんはエルディーさんが作った土の壁の上で弓を構えていた。


 兄の方のバークさんは僕が見ていたことに気づいたのか、こっちを向いて笑顔でピースをしてきた。

 はあ、何とか助かったみたいだ……。

 それにしても、一発で矢を目に当てた時からかなり弓の精度が高いなとは思っていたけど、腕で顔を隠しながら動く標的を上から見える少しの隙から当てたのって結構凄そうだよな。


「グウォォー!!」


 両目がつぶれてもう終わりかなと思っていたら、白い化け物はエルディーさんでも兄の方のバークさんでも僕でもない方向へと走った。


「キャー!!!」


 白い化け物は目が見えないはずなのに、今回の依頼で一緒にいた名前も良く知らない女の子がいる方へ走り出す。

 僕はここで白い化け物は目が見えなくなったことで、逆に標的を絞ることなく手あたり次第に暴れだしたのだと気づく。


「アースウォール!」


 エルディーさんが白い化け物の進行方向上に土の壁を張った。

 エルディーさんのおかげで被害は出なかったけど、この暴れている異様に再生能力が高い白い化け物の息の根を止めなければならないということだよな。……どうする?


「サンダーストライク!」


 これからどうやって倒そうかと考えていたところで、空から雷が壁を壊そうとしている白い化け物の頭上に落ちた。

 それによって、白い化け物は叫び声も上げることなく消し炭になる。


 誰がやったんだと思って魔法を唱えた声が聞こえた方に視線を向けると、モルトハウスさんが立っていた。

 え!?そんな魔法があるなら早く使ってくれよと思ったが、モルトハウスさんは金がかかるけど威力の高い魔法を使えると言っていたことを思い出した。


 多分、かなり高いやつを使った魔法だから戸惑ったんだろうけど、それでももっと早めにその魔法を使ってほしかったな。

 僕はそんなことを思いながら、危機的状況を切り抜けたことでマヒしていた感覚が元に戻ったことでか、どっと疲れが押し寄せてきた。


 ……はぁ、これから帰らなきゃならないのか。

 白い化け物との戦闘で一週間分のエネルギーを消費した気分だったのに、ここからウィンパーさんたちと合流してギルドまで帰えらなきゃいけないのかと思うと憂鬱になった。


高評価とかでなくていいので、評価してくれたらうれしいです。

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