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三十二話 早朝


 昨日は作戦会議の後にウィンパーさんからの提案で、全員で食事をとることになった。

 陽気な感じの兄の方のバークさんがエルディーさんとダンフォードさんにセクハラまがいの発言をして、ウィンパーさんにとがめられたり、ゴブリンとの戦い方や注意点とかの話をしたりといった感じの食事会だった。

 僕は当然そういう輪に入れるわけがないので、愛想笑いをしながら話を振られたらちょっとだけ話すという感じだった。

 弟の方のバークさんとここ最近おとなしいモルトハウスさんも、僕と似たような感じだった。


「ふあぁー、ねみぃー」


 昨日のことを思い出していると、いつもよりも早めに起きたからか眠気が襲ってきた。

 僕一人だけだったら寝ていたけど、ビネートサンの人たちとか僕のパーティーメンバーが起き始めてくるような時間に、二度寝をするのはどうかと思うし。

 ただ、じっと座っているだけだと眠気が強くなってくるだろうから、少しここらをぶらぶらと歩きまわるか。


 僕は五分ぐらい特に何も意味もなくそこらをうろうろと歩いていると、弟の方のバークさんが木に寄りかかっている姿が見えた。

 

「あの、何か用ですか?」


 ……!?

 気持ちよさそうに木に寄りかかっている弟の方のバークさんを見て可愛いなとか思ってたら、僕のことを認識していないだろうなと思っていたところに声を掛けられたから、心臓がキュッとなった。

 ……というか、いくら弟の方のバークさんが女の子っぽい顔をしているとはいえ、可愛いと思いながら見ているとか我ながら気持ち悪いな……。


 まあ、見つかっちゃったわけだし、とりあえず弟の方のバークさんと話せるぐらいの距離まで近づくか。


「あ、いや別に……。あの、汗かいているみたいですけど何かしていたんですか?」


 可愛いと思って見ていたとはさすがに言えないので、どう答えようかなと考えていたところに弟の方のバークさんとの距離が近づいたことによって汗をかいているのが分かった。 

 体を動かしたあとなんだろうなと思いつつも話題としてはちょうどよさそうだなと思い、僕が弟の方のバークさんのことを見ていた理由を、なんで汗をかいているのかが気になったということにした。


「えっと、さっきまで朝の特訓をしていました」


「なるほど……」


 何と返せばいいのかわからない、というか何も考えずに適当に相槌をしちゃった。

 いかに自分のコミュニケーション能力が低いかが分かるな……。


 いつもだったら、相手から会話を続けようとしてこなければ、自分からは話しかけないから会話は終わる。

 だけど、今回の相手はこれから命を預け合うような関係だし、この後はやることもなく暇なので僕は話を続ける気になっていた。


「その朝の特訓っていうのは、どのくらいやってたんですか?」


「大体、二時間前からついさっきまでやっていました」


「えっ、二時間前から!?それって、毎日やってるんですか?」


「はい、一応」


「なるほど……。いや、真面目にすごいですね」


 お世辞とかじゃなくて、本気ですごいな。二時間前からやってるって聞いて、本気で驚いちゃったし。

 だって、今大体、六時半だから、朝の四時半ぐらいから始めてるんでしょ。しかも毎日。

 何もよりも、自主的にやってるのが凄いわ。

 一週間ぐらい前――つまりはしごかれていた時は、僕も朝の六時から八時まで体を動かしていたけど、今はルヴィエさんがいないから、何もしてないもん。

 今日の朝だって早めに起きはしたけど、ぼーっと考え込んだ後にちょっとそこらを歩き回ってただけだったし。


「そんなことないですよ。今みたいに体を本格的に鍛えるような生活を始めたのが、一年前にビネートサンの見習いとして入った時からなので、人一倍頑張らないといけないですから……」


「だとしてもすごいと思います」


「そうですか?」


 弟の方のバークさんは照れくさそうにする。

 死にそうな目に合ってからやる気が出て、それでも今はさぼっている僕と、真面目に毎日特訓している弟の方のバークさん。

 なんかもう、人間としての差を感じるよな。


「……その、頑張んなきゃいけないなと思うようなこととかあったりするんですか?」


 二人で黙ったまま時間が過ぎていたから質問してみたけど、人によっては地雷になるようなこと聞いちゃったかな?


「さっきも言ったように、人よりも遅れているからです」


 人よりも遅れているから、か。

 

「そういう理由もあるのかもしれないですけど、どうにもそれだけだと理由として薄いと思って」


 僕もやっていたから分かるけど、毎日しっかりと欠かさずに二時間も体を鍛えているっていうのは結構きついから、明確な何かがあると思う。具体的な何かが。

 ……まあ、毎日しっかりとやれる性格だからと言われればそこまでだけど。


「……ずるいから、ですかね」


「ずるいから……?」


「はい」


「……なるほど」


 僕はさらに質問をしようと思ったけど、弟の方のバークさんはどうにか言葉を絞り出して答えたという感じだったのと、少し困っているように見えたので、追及しないことにした。


「……すみません。お腹が空いてきたので、朝食をもらってきます」


「……あ、はい。分かりました」


 おそらく、冒険者ギルドから配給される朝食を弟の方のバークさんはもらいに行った。


「あー、やっちゃったなぁ」


 最後はブレーキを掛けたけど、深く聞こうとしちゃったな。

 ……というか、何やってるんだろう、僕。

 いつもだったら会話が続くような行動すらしないのに、今回に限ってはかなり踏み込んだところまで聞いちゃって。

 次に顔を合わせた時に気まずくなるというか、相手がどう思っていたとしても僕が気にしちゃうわ。

 それになんか恥ずかしいし。


 ……はぁ、これからはこういうことにならないようにしよ。


「福崎君だよね?久しぶり」


 はあやっちゃったなと、自己嫌悪というか恥ずかしい!となっていたところに、白髪の男の人に声を掛けられた。

 

「えっと……、お久しぶりです」


 知らない人、いやなんか見覚えはあるような気がするけどという感じで思い出せなかったが、久しぶりと挨拶を返した。


「最近、結構大変だったらしいけど、調子はどうなの?」


「まあ、ぼちぼちです」


 今さっきへこむことがあったけど、覚えだせないような人にそんなことは伝える気はない。

 知っている人だったとしても、同じ返しをしていたかもしれないけど。


 ……というか、ほぼほぼ初対面なはずなのに僕のことをまあまあ知ってそうだから、この人うちの学校の関係者か何かかな?。

 まあ、そりゃそうか。学校以外で誰かと関わる機会なんてないし。

 じゃあ、二十代ぐらいに見えるから先生なのかな?


「じゃあ、僕はこれからやることがあるから行くね」


「あ、はい」


 そういって、白髪の男の人はどこかに行ってしまった。

 僕は、いやだったらなんで声を掛けてきたんだよと思いつつ、ずっと誰だろうと考えていたら誰だか思い出した。

 名前は忘れたけど、多分初めて学園で会った保険医の人だよな?……多分そうだ。


 僕は保険医を思い出せたことでちょっとしたクイズを当てた気分になって、少し気持ちよかった。


高評価とかでなくていいので、評価してくれたらうれしいです。

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