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二十三話 風紀委員


「はぁ~」


 僕は今から朝の特訓をして、そのあとに授業を受けなきゃいけないのかという思いと、昨日から残っている疲労感を感じてため息をつく。

 この世界に来てからは体力がつくような生活をしてきたとはいえ、さすがに二時間ぶっ続けで体を動かし続けた後にもう六時間も授業を受けるのは、体的にも精神的にもしんどいものがある。

 常日頃から一日ゆっくりしたいとは思ってるけど、今日は本気で休みたい気分だ。


「だから、我々がいつも利用している場所であるから、去れと言っているだろう!!」


「うるさ」


 いきなり骨の芯まで響くようなバカでかくて野太い声が耳に入り、思わず声が出た。

 なんか声が聞こえてきたあたりを見ると、人だかりができていた。

 いつもだったら、少し気はなるけどあの人だかりの中に入るのは面倒くさいと思って近づかないが、……まあなんか、時間稼ぎとかそういうことじゃなくて、今回はなんかそういう面倒ささを度外視にしても気になるのでのぞいてみることにした。


「はあ~?いつも使ってるからと言って、ここはお前らのものじゃないんだっつーの」


「確かにそういう言い分はあるだろうが、我々はちゃらんぽらんな貴様らとは違って柔魔導部は魔導部に打ち勝ち、優勝するという目的があるのだ」


「俺たちだって対抗戦で成績を残して、部費を増やすっていう目的があるんだけど」


「ふん、結局お前らは金のためだろう。我らが純粋に武を高めるという崇高な目的のもとここを利用するのだ」


「なにが部を高める崇高な目的のもとだよ。どうせ魔導部に二年間も負け続けてるから、今年は勝ちたくて力を入れてるだけだろ。それを崇高な目的とか言って、まじダセーな。しかも、別に俺たちはこっちにも訓練室を使わせろって言っているだけで、お前らには使うなとは言ってねえし」


「ぐっ!!」


 チャラい印象を受ける金髪でピアスをしている人が言っていることが図星だったのか、がっちりとした体の柔魔導部とかいうのに所属しているらしい人が悔しそうにして言葉を詰まらされていた。

 見た目的には柔魔導部の人の方が正しそうな感じがするけど、言っていることは金髪の人の方が明らかに正しいな。


「何ですかこの騒ぎは!」


 後ろから声が聞こえて振り返ってみると、腕に風紀と書かれた腕章がまかれている女の人がいた。

 確か、風紀委員とか確かあったような気がするから、そういう感じの人かな?


「ちょっと、開けてください」


 風紀委員の女の人がそういうと、人だかりができていたところに人が三、四人ぐらい通れるぐらいの道が出来た。

 風紀委員の人はその道を通って、金髪の人と柔魔導部の人の間に立つ。


「で、何があったんですか?」


「その前に、おぬしは一年の風紀委員か?」


「はい、そうですけど」


「我々は二年と三年だ。一年のおぬしに聞かせてもしょうがなかろう」


「な!何ですかそれは!確かに私は一年ですけど、風紀委員を任されたんですから。それに、こんな騒ぎを起こしているような人がそんなこと言う資格はないですよ!!」


「なに!生意気だぞ、おぬし!」


 柔魔導部の人が怒鳴る。

 あの風紀委員の人は仲裁に入ろうとしたみたいだけど、この一瞬だけでなんとなく頭にすぐ血が上りそうな性格をしてそうと分かってしまうぐらいだから、さらに混沌としそうだな。


「まあ、その一年生の言うとおりだな。なに、年下に図星だからって怒鳴ってんだあんた。マジでダセーな」


「私はあなたにも言っているんですよ」


「……サーセン」


 あの金髪の人、フォローしたのにかわいそうだな。


「はあ、もう!このままではラチがあかないので、早く説明してください!」


 金髪の人が頭を掻きながら――、


「そこの柔魔導部主将が、俺たちが対抗戦の練習をしようとしていたところに、いきなりここは我らが使うから出ていけとか言いだしたんだよ」


「ふん、そんなの当然だろう。我らがここの訓練室を使うのだから」


「何言ってんだ、てめー。ここはお前らだけの場所じゃねーんだよ!」


「確かに正確には我々の場所とは言えないが、最もこの訓練室を有用に使えるのが我々なのだ」


「……はあ~、話になんねー」


 やっぱり、話を聞く限りは金髪の人の方が正しそうだな。

 しかも、関わるだけで面倒くさそうなのを相手に実力行使をしようともしてないし、わざわざ風紀委員の人をフォローしたのを仇で返されたのに何も反論しないし、金髪の人はめちゃくちゃいい人っぽいな。

 

「……なんとなく、事情は分かりました。どう考えても、あなたの方が悪いです。みんなにこの場所を共有するべきです」


「何もわからぬ小娘ではそういう結論になるのは分かっていたが、我々に正当性があるのだから関係ないな。さあ、皆正拳突きを始めるぞ」


「何始めようとしてるんですか!!」


「そうだぞおま――」


「そういうのはよくないんじゃないか、ブラクリ―主将」

 

 先ほどの二人に、さらに風紀委員が加わって口論になりそうなところで、黒髪のなんとなく凛としたという表現が似合いそうな女の人が割って入ってきた。

 てか、風紀委員の人みたいに道を開けてとも言われてないけど、自然に人が通れるようなスペースが出来てるな。

 カリスマ性みたいのめちゃくちゃ感じるから、道をあけた人の気持ちは理解できるけど。


「瀬川か、何の用だ」


「なに、騒ぎになっているから何事かと見に来たら、下級生をいじめているブラクリ―主将がいたから、これはよくないと思ってね」


 なんか雰囲気があるな、瀬川っていう人。それに、日本人っぽい名前と見た目だな。

 僕と同じ世界の人かどうかは分からないけど、なんとなく僕以外に異世界転生か転移をしている人がいそうだし、関係あったりするのかな?

 まあ、関係あったとしても、関わる気はないけど。


「おぬしには関係なかろう」


「関係はないけど、見過ごすのも気分が良くないからね」


「……魔導部専用の訓練室を持っているおぬしに、そんな気分でどうこう言われる筋合いはない!」


「確かに魔導部には訓練室はあるけど、これは実力で手に入れたものだ。それに対して、君たちは手に入れられなかった。それだけのことじゃないかな?それにうちの部長は気前がいいから、剣道部が部屋を貸してほしいといったら貸してあげたりもしたわけだし」


「くっ……。分かった、この部屋の半分――。……我々はここから出ていく」


 柔魔導部の主将は、金髪の人、風紀委員、周りの観衆に冷ややかな視線を送られてか、口ごもった後に柔魔導部全員を連れてこの訓練室から出ていく。

 僕のそばを通った時はイメージ通りの汗臭さでちょっと気分が悪くなり、鼻呼吸から口呼吸に変える。

 それでも、汗を口で吸っている感じで気持ち悪いけど。

 

「私、風紀委員のミリアム・ダンフォードといいます!瀬川先輩、ありがとうございました!!」


「俺は文芸部のフランシス・ワッツっす。あざます」


「いや、礼はいらない。ただ、気が向いただけだから」


 風紀委員の人――ダンフォードさん、めちゃくちゃきらきらとした目をしてるな。

 ……風紀委員がそれでいいのか?

 まあ、あんな融通の利かなそうで上級生相手だったし、瀬川さんは女の人にもてそうなかっこよさがあるから、そういう反応になる理由は分かるけど。

 というか、あの金髪の人――ワッツさんって文芸部なのか。

 言葉使いと見た目はそんな感じしないけど、まともそうだからありえない話じゃないのか?それでも、いい人なスポーツが出来る感じの人って感じで、文芸部には見えないけど。


「あの、瀬川先輩!」


「何かな?」


「風紀委員に入ってくれませんか?その、先輩って強いし、今回のことですごく頼りになる人だってわかったので!」


「すまない。そういうのには興味がないんだ」


「そうですか……」


 ダンフォードさんからすごく残念そうなのが伝わってくる。

 僕も瀬川さんは風紀委員とか似合いそうだとは思うから、誘う気持ちは分かる。

 でもよくよく考えてみると、明らかに適性がありそうなのに風紀委員に入ってないから、今までも断ってきたんだろうな。


「では、行かせてもらうよ」


「あ、はい……。本当にありがとうございました」


 瀬川さんがこの場を離れた後、ダンフォードさんも去ってワッツさんが特訓をし始めたところで、集まっていた人たちは訓練室に入ってくる人もいれば、去っていく人もいた。

 さすがにそろそろ行かないといけないよなと思い、第五訓練室に向かった。



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