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二十二話 戦いとは


「福崎君、おはよう」


「……おはようございます」


 第五訓練室に入ったところで、ルヴィエさんから挨拶された。

 今まではそんなことはなかったので、僕は少し驚きを覚えながらも挨拶を返す。


「じゃあ、始めるわよ」


 昨日、ルヴィエさんに負けたからという理由で特訓させられることになったけど、僕の戦闘能力を調べるという意味合いを兼ねてもう一回模擬戦をしたら授業が始まる時間となって終わった。

 だから昨日は楽だったけど、ルヴィエさんストイックな感じがするからこれからすごく大変そうな気がするんだよな……。


「昨日あなたと戦ってみた感想は、体術や剣術が全くなっていないし、人と戦いなれていないと感じたわ」


「はあ……」


 そりゃそうだろうな。

 戦いなんて無縁な世界で生きてきて、この世界に来て三ヶ月しかたってないわけだし。

 まあ、そんなこと知らないルヴィエさんからしたら、重要な情報ではあるかもしれないけど。


「つまりあなたは、記憶を失う前から戦うことに慣れていなかったということなるわ。記憶を失ってしまったからという可能性もあるけど」


「……なるほど」


 あー、そういえばそういう設定だったな……。すっかり忘れてた。

 そういう設定だったら、確かに僕にとっても重要な情報になるのか……。


「まず、あなたに分かってほしいのは体術や剣術、魔術を体得していることと、人との戦いなれているということは違うということよ」

 

「……どういうことですか?」


「魔物と戦うことと対人戦というのは全くの別物なのよ。魔物は多人数で役割分担をして、火力役がとどめを刺すということが基本。それに対して、対人戦は相手がどのような動きをしてくるのかを予測して、隙をつくのが基本となる」


「なるほど……」


「そして、多人数戦になるとその対人戦の予測が相手の動きだけではなく、仲間との連携や状況判断能力が必要になってくるわ」


「……ん、でもそれって、多人数戦での対魔物と対人では何が違ってくるんですか?」


「究極的には対魔物は動きがテンプレートなものになるのに対して、対人は相手との読み合いになるのよ」


「あー……」


 つまり、対魔物戦は毎回の火力役、盾役、補助役の動きの最適解が決まっているのに対して、対人戦は相手との読み合いが発生して最適解が固定化しないということか。

 多分、ルヴィエさんが究極的にと言っているのは、対魔物戦は場所やなんかで動きは変えた方がいいけどそれも最終的にはどう動くのかという最適解がある。それに対して、対人戦はある程度テンプレートな動きをした方が強い場合もあるけども、罠を張るなどといったことで最終的には読み合いが発生するからだろう。


「なぜ私が、あなたが戦いなれていないということが分かったのかを理解したかしら?」


「なんとなく。……でも一応、後ろに剣を複製して攻撃しようとはしましたよ」


「それは気づいていたわ。でも、それは絡め手であって読み合いではないのよ」


「……それはつまり、僕がやったことは一回やったらばれてしまう手だったということですか?」


「そうね。そしてそれが次につながる複数の分岐があるとしたら、読み合いになるということよ」


「……なるほど」


「それに、福崎君があんな一瞬しか時間を稼げないような露骨な守りをしていたら、何かがあると警戒してしまうわ。それが分かっていない、悟らせないようにしていないというのも戦いなれていないと判断した理由になるわね」


「……まあ、なんとなくは分かりました。じゃあ、これから何をするんですかね?」


「一番効率がいいのは、実践をすることだけれども――」


「え!!それは、さすがに……」


「ええ、分かっているわ。それに、まだ戦いにおいての読み合いのことを分かってないうちに実践をしても、特に福崎君のように頭が回ると不意打ちじみたものになってしまうだろうし、そもそも読み合いを出来るような相手と戦っても相手にならないでしょうしね」


 こわ、ルヴィエさん。実践で経験値を詰めるとかいうことを僕の歳で言えちゃうとかどんな事を経験してきたんだろ。

 なんか今までも、ルヴィエさんが大人というか経験値が違うというか、そんな感じのことを漠然と感じていたけど、今回はマジで違う世界を生きてきたこと感じさせられた。

 あと、無駄になんか評価されてるな僕。

 元の世界でも平々凡々だった僕が、生きることすらしんどいような世界なんかでは絶対に評価されるような人間じゃないから、そういう信頼は気が重い。

 暗に小賢しいと言われてるだけかもしれないけど。


「えっと、じゃあ改めて聞くんですけど、これから何をするんですか?」


「そうね。今までごちゃごちゃといろいろなことを話してきたけど、まず剣の振り方と体の動かし方を覚えることからかしらね」


「なるほど」


 僕はルヴィエさんの回答に安堵した。だって、いきなり実践とか物騒なことを言うから。

 

「じゃあ福崎君、いつも使っている剣を抜いて」


 ……あ、やばい。やっちゃった……。

 僕はあることを気づき、肝を冷やす。


「……あの、持ってきてません」


「……今日、使うことは分かっていたわよね?」


「はい。というか、大抵は持ってきているんですけど……。ただ今日は、忘れてきちゃった感じです……。すみません」


「はあ……。本来なら、普段使っている剣で練習した方がいいのだけれど……」


 そう言ってルヴィエさんは、剣とか槍とかが置いてあるところに歩き出す。

 いつもの僕だったら時間稼ぎになってラッキーとか思うかもしれないけど、今回はわざとじゃなくて本気で忘れてしまったというのもあって、ただただ申し訳ない。

 ルヴィエさんに武器を取ってきてもらうのも申し訳ないから、僕が代わりに取ってくるっていえばよかった。


「これとか福崎君が良く使っている剣と似ていると思うのだけれども」


「……はい、似ている気がします」


「そう。なら握ってみて」


 ルヴィエさんは僕に剣を渡してきた。

 手触りが違ったとしても、わざわざ持ってきてもらって申し訳ないから大丈夫と言おうかなと思っていたけど、握ってみた感じはいつものやつと変わらない気がする。

 というか凄いなルヴィエさん。見ただけで僕が使っている剣と似たやつ見つけられるとか。

 実力者とかになると、見ただけでどんな剣なのかとか分かるようになるのかな?


「どう?」


「はい。いい感じです」


「じゃあ、振ってみて」


 僕は剣術とか一切分からないからダメだしされるんだろうなと思いつつも、ルヴィエさんに言われた通り剣を振ってみる。

 

「……それ、本気でやっているのかしら?」


「……はい。一応」


「……はあ。正直言って期待はしていなかったけれども、思った通りひどかったわね」


 ルヴィエさんは相当僕の動きがひどかったのかため息をついた。

 覚悟はしていたけど、怒るでもなく呆れた感じで頭を抱えられるとさすがに心に来るものがある。


「……すみません」


「別にいいわ。思っていた通りだったから」


「すみません」


「そんな謝らなくてもいいわよ」


「すみま……、分かりました」


 何と言っていい分からなかったから謝り続けたけど、ルヴィエさんに止められた。

 はあ、なんかメンタルがしんどい。


「まず、剣の握り方からね」


「はい」


「あなたは握り方がなっていないのもあるし、全体的に力を入れすぎなのよ」


「はい」


「まず剣は――」


 ルヴィエさんはこっちに近づいてきて、僕の腕をつかんできた。

 人付き合いとかがあまりない僕は、いやらしい気持ちとかそういうのはなくドキッとした。


「こうやって――」


「……あの、すみません。ちょっと近くないですか?」


 教えているところにこういうことを言うのはよくないのは分かるけど、女の人で、さらに言えば美人なルヴィエさんここまで近づかれると気恥ずかしすぎて、僕はルヴィエさんの言葉をさえぎって声を上げる。


「そうしないと教えられないでしょ」


「いや、まあ、そうなんですけど……。その、ルヴィエさんが嫌じゃないですか?」


「別に嫌じゃないわ。嫌だったら、こんなことしないわよ」


「まあ、そりゃそうですけど」


「確かに何も知らない他の人だったたらこんな触って教えたりはしないけれど、あなたは変なことをしたりしないってわかっているからよ」


「……なるほど」


 確かに、僕がヘタレで面倒くさがり屋だと分かっているなら、安全だと思うか。

 それに、力で勝っているから無理やり押し倒されたりとかはありえないしな。


「じゃあ、再開するわね。剣を握るときは、こういう風にするのよ」


 ルヴィエさんは再度僕の指を触って、剣の握り方を教えてきた。

 こういう状況って、役得っていう風な感じになるんだろうけど、僕としてはただただ恥ずかしいから、早く終わってほしい。


「わかったかしら?」


「……はい。なんとなく」


 そんなにわかってないけど、今の状態が早く終わってほしいから納得したふりをした。


「そう。じゃあ、私の動きを見て」


 そういって僕から離れて、ルヴィエさんは構えて剣を振り下ろした。

 剣術とか一切分からないけど、素人目でも動きがきれいで洗練されたものに見えた。


「じゃあ、振ってみて」


「え、そういわれても……」


 いや、そんな動きを見させられても無理だろ、普通。


「いいからやってみて」


 絶対にマネとか無理だろと思いつつも、出来るだけいい感じになるようにと剣を振ってみる。


「……やっぱり駄目ね」


「いやでも、言われた通りやってみただけなんですけど……」


「駄目なのは分かっていたから大丈夫よ。……そうね、まずは体作りと体裁きからやりましょう」


「え!?じゃあ、今までの何だったんですか!?」


「……あなたに剣の握り方教えているときに気づいたのだけれど、体の動かし方から覚えていかないと剣の振り方さえできないのがわかったのよ」


 ルヴィエさんはどこかばつが悪そうにする。

 そんな風な態度を取られるとなんとも責めづらい。


「えっと、じゃあどうするんですか?」


「……そうね、まずここを五十周ね」


「えっ……。というか待ってください!まずっていうことは他にもやるんですか!?」


「そうよ。走った後は、体の動かし方をレクチャーして、また走ってもらうわ」


 ……あの、それどれくらい時間かかるんですか?

 もしかして、授業が始まるまでの二時間ずっとですか?


「いや、あの……」


「さあ、走って」


「……はい」


 僕は鬼畜すぎるだろ!と思いつつも、ルヴィエさんに逆らえるわけもないから、言われた通りに走り始めた。


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