二十一話 戦い方
ルヴィエさんの脅迫じみた「分かっているわね?」を聞かされた次の日、まったくもっていく気にはなれなかったけど、行かなかったらルヴィエさんにどんな目にあわされるか分からないので最近通っている場所――第五訓練室に足を運んだ。
第五訓練室の扉を開けたときはルヴィエさんがいないといいなという期待を込めていてけど、そんなはずもなくルヴィエさんがいたときはさらに気分が落ちた。
ただ、僕が特訓しているときは特にルヴィエさんから何か言われることはなかったのが不幸中の幸いだったな。
二日目、三日目もそんな感じ特訓して、学校を通うという感じで一日が過ぎ去った。
で、今日はとうとうルヴィエさんに約束させられた模擬戦の日となった。
なんか今日は調子が悪いし、若干頭が痛い。
勿論憂鬱な気分になって調子が悪くなっているという面はあるとは思うけど、単純に最近は特訓した後に学校に通うという、少なくとも僕にとっては結構ハードな生活をしているというのも関係していると思う。
「調子悪かったから、今日は来られなかったって言って逃げられないかな?」
そうすれば逃げられはするだろうけど、どうせ次の日に模擬戦をすることは変わらないよな……。
それにもし今日さぼった場合、人がいそうで嫌だった放課後に模擬戦をさせられる可能性があるし。
もっと言うと、さぼるかもしれないからと強制的に放課後に特訓することを強制させられる可能性もあるよな……。
なんで、同級生にそんなことを強制させられなきゃならんのだとは思うけど、ルヴィエさんに逆らえる気がしないからな……。
「はぁ、行くか」
どう考えてもさぼってもいいことがないのが分かってしまったので、頭が痛いなと思いつつ僕はいやいやながらも重い腰を上げ、いつも通りに特訓が終わった後にすぐ学校に直行できるように教材の入ったカバンを持ち向かった。
「福崎君。しっかり来たようね」
「はい」
ルヴィエさんの言い方、まるで僕が来ないと思っていたかのような物言いだな。
まあ、あまりよく考えていないうちは九割がたさぼろうかなとか思っていて、よく考えた結果、その考えが四割ぐらいになったから来たので、間違いじゃないというか僕のこと分かっているなって感じだけど。
……というか、ルヴィエさんが僕のことを理解され始めている気がするんだけど、最近。
なんか、いろいろと逃げられなくなりそうで怖いな……。
「じゃあ、始めるわよ」
ルヴィエさんはいつも戦うときに使っている剣を抜き、構えをとる。
「すみません、ちょっと待ってください」
「……なに?」
ルヴィエさん、不機嫌そうというか、すげえ剣呑な雰囲気を醸し出しているんだけど。
しょうもないことだったら、分かっているわね?って感じで。
本当に僕と同い年な人間が出している空気感なのかと疑ってしまうくらいなので、めちゃくちゃ怖い。
「そのー、今日、朝から頭が痛くて」
怖いから、やっぱり何でもないですというか迷ったけど、頭痛い中でルヴィエさんにぼこぼこにされたくないから、素直に言うことにした。
「そう。それで?」
「いや~、なんか……。今日はなしな感じにならないですかね?」
「……福崎君。あなたは万全な状態の時だけしか戦うことはないと思っているのかしら?」
「まあなんか、生き方によっては……、いつでも万全とは限らないですよね」
僕が屁理屈を言おうとしたところで、ルヴィエさんが人を殺せるような凍てつく目をしていたので、ルヴィエさんが欲しいであろう回答をする。
「なら、分かるわよね」
「まあ、はい。……でもなんか、ルヴィエさん相手なら、その万全で挑みたいな~、という感じがあるので……」
「なら、今日も模擬戦して、明日は万全な状態で模擬戦すればいい話よね?」
「……はい」
「じゃあ、始めるわよ」
ルヴィエさんはそういうと、ゆっくりと歩いてきた。
「ちょっ」
始めるわよとは言ったよ、確かに。
でも、さすがに始めるのが唐突すぎないか!?
僕はそんなことを思いながらも剣を複製して、近づいてくるルヴィエさんをどうにかする策を考える。
僕はとりあえず腰に差している剣を抜いて、両手でしっかりと柄を掴む。
そして、火とか雷などといった属性魔法は使えないけど、身体強化の魔法は使えるので使用する。
ルヴィエさんはゆっくりと来ているなか、僕はルヴィエさんなら特に小細工なしに垂直に剣を振り下ろして来るだろうと予想した。
だから、ルヴィエさんが予想通り垂直に振り下ろしてきた剣を受け止めることが出来た。
「おもっ!?」
ルヴィエさんが剣を振り下ろしてきたけど、その力は僕よりも細い体型でどこにそんな力があるのかが疑問になるほどのものだった。
それに僕はめちゃくちゃ焦っているのに対して、ルヴィエさんは一切そんな様子がないのも絶望感がある。
……けど、時間は稼げた。
僕はルヴィエさんにとって視覚外の場所で複製した剣を、後ろから突き刺そうとする。
「えっ」
実は後ろにあるからチェックメイトですよと言おうと思っているといきなり腕にかかっていた負担がなくなり、今度は上方向に腕が持ってかれて剣を握っていた手の感覚がなくなった。
「チェックメイトよ」
ルヴィエさんは僕に向かって剣を突きつけた。
ここでようやく僕はどういう状況か把握することが出来た。
ルヴィエさんはあの一瞬で僕の持っていた剣を弾き飛ばして、僕に向かって剣を突きつけてきたのだと。
なんだそれ。そんなこと出来るんだったら、どうやっても勝負にならないだろ……。
「まいりました」
理不尽は感じるけどこれで終わりなわけだし、素直に負けを認めることにした。
それに、これで終わってくれるならむしろありがたいか……。
「やはりあなたは一対一が苦手ね」
「……まあ、そうですね」
僕は唐突だなと思いながらも、否定する要素がないので肯定した。
「それはどうしてだかわかる?」
「……遠距離戦で戦う魔術師だからですかね?」
「それだけじゃないわ」
「じゃあ、僕の魔法が一対一よりも、多数相手に向いているからですか?結局、僕の魔法は火力が出づらいですし」
「それは間違っているわね」
「えっ、どうしてですか?」
「あなたの魔法は確かに多数相手にも有効だけれども、それ以上に一対一、特に対人戦に向いているからよ」
「えっ?」
ルヴィエさんの発言に思わず疑問符が付いた。だって、それほど一対一が向いているというのが意味分からないからだ。
そもそも、僕の魔法は火力が出ないけど、物量と魔法の燃費の良さが売りだから多数相手が向いているのは間違いない。
……でも、だからといって一対一が苦手ということにはならないのかも?
あー、もしかしたら今の僕にある条件が整えば、確かに一対一――対人戦になら向いているのかもしれない。
でもそれって……。
「何か気づいたようね」
「……いえ」
もし僕が予想した通りだったら、面倒くさいことになりそうだから分からないふりをした。
「いいのよ別に、間違っていても」
「いや、分からないです」
「本当に?」
「……はい」
「……その間なに?」
「……いえ、特に」
「無駄な嘘をつくことは、私の心証を下げることにしかならないわよ」
素直に気付いたことを言った方が良さそうだな……。
「……まあなんか、今のやり取りで思いついたんですけど。僕の魔法は火力が出しづらいけど手数がかなり多いです。そして、対人戦においては手数が多ければ多いほど相手の隙をつきやすいし、隙を作れる機会が多くなるので、向いているという感じですかね?」
「その通りよ。それに、あなたの魔法は多数相手に向いているといったけれど、正確には魔力消費が比較的に少なく手数が多いから多数相手にも対応できるというのが正しいわね。普通の魔術師が使うような炎の魔法といったような面制圧が出来る属性魔法の方が多数相手には向いているのだから」
「確かに」
「ただ、あなたが一対一の方が向いているということが分かったとしても、すぐには得意にならないということも分かるわね」
「そうですね……。一対一で戦う上での読み合いとか、武器の使い方、剣術とか身のこなしとかそういう感じですよね」
「その通りよ。よって、私があなたを鍛えるわ」
「はい、……えっ!?」
さらっと言われたから了承しちゃったけど、いきなりぶっこまれるような内容じゃないよな!?
「福崎君も了承してくれたみたいだし、まず一対一で心がけることを教える――」
「ちょ!?待ってください!その、僕、了承したつもりはないです!」
「……嫌なの、私に教えを乞うことが?」
「いや、ルヴィエさんだから嫌とかじゃなくて。その、そういうのが苦手というかなんというか……。それに、ルヴィエさんに手間をかけさせるわけにもいかないですし」
「私のことは気にしなくていいわ」
「いや、それでもなんというか……」
「要するに、私に師事を請うのが嫌というわけよね」
ここで言葉を濁すのは良くないか……。
「……嫌か嫌じゃないかといわれたら、嫌です」
「そう。でも、あなた負けたわよね」
「えっ、でもそんなこと約束してないですし……」
「でも、あなた負けたわよね」
「……はい」
負け確定の試合をさせられて、負けたら条件を突きつけられるとか理不尽以外の何物でもないよな……。
別に試合に負けてなかったとしても、結局ルヴィエさんにこういう風に迫られたら断れる自信はないけどね……。
正直ルヴィエさんが直接指導するとかまでは考えてなかったけど、絶対に剣術とか体術とかそういうのを強制させられるとは思ってはいた。
確かにこれから安心して生きていくためには人に頼らないで戦えるようになった方がいいのは間違いない。
でも、魔法って別に使いすぎると疲れるぐらいしかデメリットないからしんどいなって感じだけど、体を鍛える――剣術とかを覚えるとなるとしんどいとか言っていられるようなレベルじゃ絶対ないよな……。
「じゃあ、始めるわよ」
「……はい」
なんか今起こっている出来事は実は夢で、これからちょうど目を覚めるとかいう状況にならないかな……。




