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十七話 魔王軍の男1


「アイスバレット」


 エルディーさんは氷の魔法でここら一体にたくさん沸いているゾンビみたいなやつに唱え、僕は無言でその光景を眺めながら、大体五万円程度の剣――かなり安めのものを複製してそのゾンビ達に射出していた。


 なんで、そんな状況になっているかといわれると、帰り道の最中にいきなりゾンビが湧いて出てきたからだ。

 ちなみに複製できるのならそこそこいい剣を使うのもいいんじゃないとか思うかもしれないけど、いくら複製できるといっても複製元がなくなってしまうと複製できなくなっちゃうから、高いのを買って失くしたときのことを考えると立ち直れなくなりそうだから安物にしている。


「……」


 どっから湧いているのかもよくわからないゾンビ達はたいして強くはないので、僕とエルディーさんの無双状態になっている。

 ただ、だからと言って楽勝なわけではない。

 まず、目の前には多分三十匹ぐらいいるのんだけど、どこからかは分からないけどめちゃくちゃ湧いてくるので、そんな状態が五分ほどたっているということ。

 ただそれ以上に、肉が腐ったような腐臭がすごいのがしんどい。


 僕が一切言葉を発さずに黙々と戦っているのも、気持ち悪い腐った空気を口に取り込みたくないからだ。

 エルディーさんは魔法の詠唱をしないといけないために声を出しているが、僕と同じく鼻をつまみながらなため、いつもと声が違う。

 そんなエルディーさんの姿を見ていると、僕の魔法が詠唱するタイプじゃないことに心からありがたく思った。


「ここらを拠点にしている雑魚にしちゃー、なかなかやるじゃねーか」


 白いスーツを着用し、半袖から見える細いながらもがっちりとした腕をした男がいきなり現れ、同時にゾンビ達の動きがピタッと止まった。


 凄く関わり合いたくないな……。

 見た目がなんかヤクザの若頭みたいな感じだからという偏見だけで関わり合いたくないわけじゃなくて、今の発言とかわらわら湧いてきたゾンビ達は僕たちが見えないところまで引いていったことから、ヤバそうな感じがプンプンする。


「……あんた、なにもんなの?」


 エルディーさんも僕と同じように感じているのか、不信感とか警戒心が伝わってくる。


「まーそうだな。名前は言わねえけど、魔王軍の一員ってところだな」


「……まおうぐん?なにそれ?魔国の軍団ってこと?」


「まあ、そんな感じだ」


 魔国という国――場所については最近授業で習ったので僕でも知っている。

 確か、今まで僕たちが相手してきた魔物とは比べ物にならないくらい危険な奴がそこらでうようよといる場所だと。

 なんで、僕は国ではなく場所という風に言い直したかというと、魔国という国自体はあるのだか、一般的には魔国というと危険すぎて魔国以外の国々が手を出さなかった場所すべてを指すからだ。

 一応、うちの国は魔国と付き合いがあるらしいが、付き合いが始まったのも最近の話のため、どんな場所かはよくわかってないらしい。

 そんな何があるかどんな場所かもよく分からないところで暮らしている奴が、魔王軍とかいう不吉でしかない名前の軍隊を名乗ってきたとかやっぱり嫌な予感しかしないんだけど……。


「その魔王軍?の人が、こんなところにそんなアンデットを引き連れているのはどういうつもりなの」


「そうだな……。ま、こういうことだ」


 男は口元を歪めながら、こっちに向かって走ってきた。


「シールド!!」


 エルディーさんは防御魔法を唱える。すると、大体縦横十メートルぐらいの半透明な壁が五枚現れた。


「福崎君、お願い!」


 僕はエルディーさんの意図がビッグボアの対策として練り上げた策をやるつもりなのだと分かり、今手に持っている剣を複製して、半透明な壁にぶつからない上側と脇から魔王軍と名乗る男を狙い、胴体を刺そうとしたが――。


「悪くねー攻撃だけど、俺には通らねえなあ!」


 魔王軍の男は特に何かしているようには見えないのにも関わらず、剣が刺さらず弾き飛した。


 いやいやいや!まじか!!今まで、魔法とか剣とかで防がれたりとかはあったけど、なにもされてなくて通らなかったことなかったよ!?

 もしかして、格上すぎて攻撃が通らないみたいなことなのか?そんな感じだとしたら、僕じゃ話にならないってことになっちゃうよね。……やばくないか?


「じゃあ、まあまあ丈夫そうなこれ行くか」


 魔王軍の男は腕を後ろに引き握りこぶしを作るのが見えた後、パリーンと何かが割れる音がした。


「……!?」


 エルディーさんの驚きの表情と魔王軍の男が握りこぶしを作ったことから、多分目にもとまらぬ速さで突きを繰り出して、エルディーさんの防御魔法をぶち破ったのだろう。

 だとしたら、まだ魔法の壁はあるけど時間稼ぎ程度にしかならなそうだし、まじでやばくないか!?


「福崎君、何か手ある?」


 エルディーさんは懇願するような表情で僕の方を見る。

 僕の魔法は戦闘面に関してみればかなり使いやすいものだといえる。

 なぜなら、雑魚を狩るのが簡単だし、何よりもいくら武器を複製しても魔法を使いすぎて出る疲れがなかなか出ないからだ。

 それに魔法で複製した武器の精度も一定なため、安定した戦いをいくらでも続けることが出来る。

 ただ、逆に言うと同じものしか作れないとも言える。だから、出せる威力も一定なものしか出せない。


「……僕が出来る限りの足止めをするので、エルディーさんが出せる一番威力の高い魔法をお願いします」


「……分かったわ」


 僕がこの状況を打破することが無理だと感じ取ったからか、エルディーさんからどこか諦めたような雰囲気を感じた。


「そんな足止めとかしなくても、待ってやるぜ」


 魔王軍の男は、防御魔法を砕いたところから一歩も動かずに余裕綽々な笑みを浮かべる。


「……っ。ファイヤーストーム!!」


 エルディーさんが精神集中するために二十秒ほどかけた魔法で、魔王軍の男の周りが炎の渦に包まれた。

 僕はエルディーさんの唱えた魔法が、あと三年以内に習得できれば才能ある魔術師だと教師が言っていたことを思い出す。

 ……頼む!


「ちょっとあちいなー」


 ……なんとなく予想はしていたけど、炎の渦から出てきた魔王軍の男はぴんぴんどころか、着ているものさえ焦げた跡がなかった。つまり、本来僕たちの世代の三年先の魔法でもこの男には通じないということなんだろう。

 ……あまりにも理不尽すぎないか?


「……逃げましょう」


「えっ」


 明らかに、あれは僕たちがどうこうできるようなやつではない。だから、逃げるしか手がないが、普通に考えたら逃げられもしないだろう。

 それでも……。


「……」


 エルディーさんも多分逃げられないことは分かっているからだろう、この場から動こうともせず、返事もせず顔も上げようとしない。

 僕は無理やり、エルディーさんの手を握り引っ張ると、一応引っ張った方向に動いた。


「いいぜ、別に逃げても。十分ぐらいここで動かずにいてやるよ」


 いつもだったら、相手が舐めていての行動という以外にもなにか意図であったのではないかとかを考えるけど、そんなことは一切考える余裕もなくエルディーさんを引っ張りながら全速力で逃げた。


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