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妄執の帝国6

23

「入れてくださいますか?」

「まぁ、そういう話なら仕方がないな」


 あまりにも予想外だが、願ってもない言葉だったので俺は頷いて返した。

 半開きだった扉を大きく広げると、計算通りとでも言いたげな表情でアビゲイルは部屋に入る。


「耳の調子はどうなんだ?」

「大丈夫です。何も考えていない馬鹿ぐんぶはダメですが、諜報部は現実がしっかりと見えておりますので」

「根回しは十分って事か」


 いくらアビゲイルがお姫様とは言え、国の重要機密を漏らせば処罰を受けるのは免れない。

 しかし、そもそもアビゲイルが機密を漏らしたことを誰も知らなければ、罰せられるようなことはなくなる。

 当然ハインリヒとしては誰かが俺に機密を漏らさないよう監視させているはずだが、その監視がすでにアビゲイルの手に落ちているのだから機密が漏れたことをハインリヒに知らせる人間はいないということだ。


「ま、それならいいさ。その馬鹿とお前の兄貴の狙いを聞かせてもらおうか?」

「そう、焦らないでくださいませ」


 焦りたくもなるって。

 お前に時間を与えると学生時代と同じように再び俺の貞操が危うい目に遭うからさっさと話を終わらせたいんだ。

 しかし、帝国は軍部が完全に馬鹿なのか……

 やっぱ外の国を見る機会がある情報部が現実を知るのはどこの国でも同じなんだな」


「あら、カイト様も何も見えていない馬鹿ぐんぶに悩まされた経験がお有りなのですか?」

「前の戦争でちょっとな。諜報部が俺の援護したのも同じだ」

「そうですか……それよりもカイト様がお隠しになっていたものはどこですの? やはりカイト様も殿方ですから艶本でも読んでいらしたんでしょう?」


 そんなことを宣いながらキョロキョロと部屋を見回し始めるアビゲイル。

 艶本エロほんってあなた……お姫様なのに……

 しかし、そんなものは読んでいなかったし、持ち込んですらいない。

 俺が隠したがっていたドラゴンベイビーの存在に気づいたところでアビゲイルは凍り付くかのように動きを止めた。

 受け止めることは出来るだろうが、最初はそうなるだろうな。

 欠片も動じなかったリオンが異常なんだ。


「ちなみにそれが俺の隠したかったものだな」

「…………これは、たしかに隠したくなるのもわかりますわね。でも、わたくしにまで隠すことはなかったのではありませんこと? わたくし、カイト様のお力の全てはわかっておりませんが、カイト様のお力を正しくは理解しているつもりですのよ?」

「いや、俺が懸念してたのはそっちじゃなくて、未婚の男女が密室で二人きりになる方だな。お互い邪推されたら困る立場だろ?」

「あら……ヤることはヤるのですから邪推ではないのでなくて?」

「助けて! ●される!」


 慌てて部屋から逃げだそうとするが、扉が開かない。

 なんでだ!?


「メイドにいって外から鍵をかけさせましたの。朝まではこのままでしてよ」

「お前それほんとやめろよ! 何考えてんの!?」

「いつまでたってもあなた様が迎えに来てくださいませんから……わたくしが影でなんと呼ばれているかご存知ですの?」

「…………」


 扉の向こうでメイドさんが呟いたのが聞こえちゃったので知ってます。

 お嬢様もこれでようやく嫁き遅れとは呼ばれなくなるって……

 ねぇ、なんで自分で聞いたのにそんな怖い笑顔になるの?」


「ターニャはあとでお仕置きが必要のようですわね。さて、カイト様メインディッシュの前には前菜が必要ですわね」


 ねぇ、なんか言い方おかしくない?

 俺の耳がおかしいの?

 メインディッシュってのがあきらかに食べ物とは別の言葉を指してるように感じるんだけど?

 まぁいい。真面目なお話のお時間だ。


「ドラゴンの赤子を連れてらっしゃるなら、わたくしが言いたいことの半分はすでにわかってらっしゃるのではなくて?」

「……ああ。まぁな」


 そこまでは俺も推理できているんだ。

 最大の謎にして最も重要な情報はその次だな。


「でしたらもう半分の話ですわね」

「その前に……アビゲイル」

「なんですの?」

「どういうつもりだ?」


 俺の知っているアビゲイルという女は、王女という立場にあることに誇りを持ち、その立場に相応しい行いをする女だった。

 今どう思っているのかはわからないが、留学当初俺に接近したのは自分の身を餌にして俺を帝国に取り込むのが目的だったぐらいだ。

 まぁ、そう言った打算を持ちながらも本気で俺に好意を寄せるようにはなったが、それは本来の目的と自分の感情どちらを優先する必要もなく求める結果が同じだったから態度に大きな変化はなかった。

 そんな彼女は、本気で俺に惚れたからなんて理由で国を――民を裏切るような安い女じゃない。


「カイト様のため……という言葉を聞きたいのではないのでしょうね」

「そうだな」

「ふぅ……兄上は妄執に取り憑かれておりますの」


 苦々しげにアビゲイルは続けた。


「先の戦争が終わってから5年ですが、我が国は戦前と比べて明らかに国力を落としていますわ。それでも兄は目的のために進もうとしていますの」


 確かに国土で言えばドコカノン王国よりも広く、ドコカノン王国と同じように戦後の復興が進んでいれば総人口も多いはずの帝国だ。

 首都なんていう政でも経済でも中心になるはずの場所は、国力に応じて賑わいが大きくなる。

 しかし、この帝都グラウブルクはドコカノンの王都よりも賑わいが小さかった。


「民を蔑ろにし、十分な復興も、軍の立て直しも出来ていないというのに、新たな争いへと進もうと考えている。それが民のためになると思いますの?」

「……なるほどな」


 正しく皇族をやっているようで感心なことだ。

 なんでアビゲイルの親父さんは、あの馬鹿ハインリヒを後継者に指名したのかね。

 ……大陸統一なんて夢物語を本気で追いかけるような同類バカだからか。


「ま、理由は分かったよ。信用する」

「ありがとうございます。では、話を続けましょう」

「ああ、頼む」

「では、残されたもう半分ですわね。兄は魔王と手を組んだのです」

「………………はい?」


 ……え!? あの変態ガライアスと手を組んだの?


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