妄執の帝国2
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「カイト殿」
「ん?」
謁見の間を出ると外で待っていたらしいリサが駆け寄ってきた。
報告が終わってしまうと貴族でもないリサには会議の内容を聞くことが許されないので、記念式典のタイミングで離席させられていたのだ。
「これからどうなさるので?」
「いやぁ、面倒だけど帝国まで行くことになったわ。今日中に出発するけど、せっかくだからリッタナ村までは乗っけてってやろうか?」
王都への報告が終わった以上、リサが俺と一緒にいる理由はない。
王都観光もしたかったようだし、帰りは急ぐ必要もないリサとはここで別れるのもありだろう。
「帝国までですか?」
「まぁな。今回のことは俺が担当することになったよ。出来れば戦争なんて避けたいけど、帝国さんがどう考えているのか……」
「そうですか……私も一緒に行ってもいいですか?」
「そりゃダメだな。現状戦端が開かれたわけでもないが、行き先は因縁ありありの帝国だ。向こうさんがやる気満々だったら危なすぎる」
帝国は、大陸統一を目論んでいたが、ドコカノン王国との戦争に敗北したことで大陸統一の一歩目から頓挫してしまったのだ。
その原因が俺なのだから、帝国はさぞや俺を恨んでいることだろう。
ただでさえ戦争になりかねない状況で俺と一緒に帝国なんかへ行けば、リサの身が危ないので一緒に連れて行くわけにはいかない。
「そうか……残念だ。だが、戦爵閣下と一時とは言え道を同じく出来たのは素直に嬉しく思う。ありがとう」
「んな風にお礼言われてもねぇ……ま、戦爵になったのに前と変わらずに接してきたことは評価してやるよ。また、なんかあったら会おう」
「あ、いや……リッタナ村までは送って欲しいんだが……」
え、観光しないの?
お別れだと思っていい感じにまとめようと思ったのに、なんか締まらないな……
はい、というわけでやって参りました帝国の首都、帝都『グラウブルク』でございます。
こちらは現場のカイトです。
今回はきっちり戦爵のマントを羽織り、威厳たっぷりの感じで歩いているわけですが、帝都の人たちは冷たいですね。
ドコカノン王国の国章を刺繍してあるマントを見るだけであからさまに不機嫌な表情を浮かべます。
これで俺が、あなたたちの野望を打ち砕いたカイトですって名乗ったら俺はどうなってしまうのでしょうか?
怖いので試したりはしませんので期待しないでください。
いや、しかしすごいですね。
大陸統一なんて馬鹿みたいな話ですよ?
もしも義兄がそんなことを言い出したら、俺は鼻で笑う自信があります。
しかし帝国はどうでしょう。
帝国では貴族どころか民衆の1人1人が大陸統一を本気で成し遂げられると思っていたのか、統一を阻んだドコカノン王国を非常に敵視しているのですよ。
もしかしたら、大陸統一とは別の形で民意を誘導してドコカノンを悪だと思い込ませているのかもしれませんが、国章が刺繍されたマントを見ただけでここまで嫌そうな顔を浮かべるぐらい見事に洗脳が完了しているんだから民意誘導のお手本にしたいですね。
それにしても帝国の首都、政経の中心足る帝都グラウブルクのわりにずいぶんと賑わいが足りません。
どこか別の街でお祭りでもあって、そちらに人が行ってしまっているのでしょうか?
おっと、そうこう考えているうちにグラウブルク城が見えて参りました。
帝都に入る門で用件を簡単に話してあるだけに、門衛が今にも剣を抜いて襲いかかってきそうなぐらい敵意満々です。
敵しかいない城の中に入るのかと思うと今から緊張してきちゃいますね。
「How do you do、わたくしドコカノン王国のカイトと申します。おたくの皇帝さんにご面会させていただきたいのですが、ご予定はいかがなものかお聞かせください、シルブプレ?」
帝国の門衛は野蛮ですね。
せっかくこちらがこれ以上ないほど丁寧にお尋ねしたのにこちらへ返すのは言葉ではなくまず殺気ですよ。
もしかして皇帝をさんづけで呼んだのがいけなかったのでしょうか?
「ご用件を……お伺いしましょう」
「え? 今言ったじゃん。馬鹿なの?」
おっといけない。素が出てしまいました。
馬鹿に馬鹿って言うのはいけないことだとおばあちゃんに教わったのに、馬鹿って言ってしまったのは痛恨のミスですね。
でも、馬鹿だから気づかないことに期待しましょう。
「わ、我が国の皇帝陛下は貴国の王とは違いお忙しいのだ。下らない用件に構っていられるほど暇ではない。特にお前のようなバ――いや、わけの分からんことを口にする人間と話している時間などないのだ」
「ふぅ~ん……つまり、予定を聞く前にどんな用件なのか教えろって事ね。わかったわかった。最初っからそう言えばいいのに、これだからお馬鹿さんはだめだな」
よし。こんどは馬鹿をキチンとオブラートに包めたぞ。
しかし、最初からそう言ってくれれば、馬鹿だなんて言わずに済んだのに、これだから馬鹿は嫌いなんだ。
「えぇ……世にも珍しい人間の言葉を喋る豚鬼がお宅の貴族を名乗ってたんですわ。そのオークはあろうことか我が国の村を自分の領土にすると宣言し、村人に無体を働こうとしたので人に害をなす魔物として処分したんですよ。しかしよくよく考えてみれば、人間の言葉をしゃべる豚鬼なんているわけないのでもしかしたら実は人間で、本当にお宅の貴族だったかもしれないんですよ。そのへんの確認と、本当にお宅の貴族だったらどういうつもりなのかお尋ねしたいんですよね」
たしか豚鬼は……なんつったっけ? マッズ子爵? あ、いやマッスル子爵? オーク子爵……ピッグ子爵……そう、たしかピッグ子爵だったと思う。
しかし、名前はうろ覚えだし、間違ってたらあれだから口に出すのはやめておこう。
「そのような話を我々は聞いていない。お引き取り願おう」
「あ、そう? 俺も面倒なことはしたくなかったし助かるよ。あ、そうだ名前教えてもらえる?」
「ん? なぜだ?」
なぜってお前、決まってるじゃないか。
鴨が自分でネギの栽培してるんだぞ? きちんと出荷できるように準備しなきゃダメじゃないか。
「万が一、あの豚鬼がお宅の貴族だった場合、当然殺されたんだから抗議に来るだろ? だけど、こっちはすでに俺って言うお伺いを立てた人間を送ってるんだ。その時に門衛だった誰々さんに知らん、帰れって言われたから、全責任はその人にあるって説明しなくちゃいけないんだよ。だから、名前知っておかないといけないんだ」
「ま、待て! 国の正式な使者ならば、書状をもっているはずだろう。見せろ」
「さっきそいつに渡したよ。聞いてないの?」
「っ!?」
俺と問答していた門衛の後ろでニヤニヤしている男――帝都に入る門で俺を担当していた男に書状はすでに渡しているのだ。
自分に矛先が向かないと思っていたのか、俺に指さされてめっちゃビビってる。
おおかた、あることないこと言って俺を偽物か難癖付けに来た男に仕立て上げて追い返そうとしたんだろう。
相変わらず帝国民は民度の低いことだ。
自分たちのやったことを顧みないで、全ての問題は相手にあるっていう思い込みでしか行動できないなんて悲しいことだぞ?
「見せろ! っく……しばし待て。謁見の手続きを進めさせてもらおう」
「あいあい、よろしく」
問答していた男は、非常に口惜しげな表情を浮かべたが、職務には忠実なのか書状をもって門の奥へと消えた。
最初からスムーズにはいかないのかね?
あ、レポーターごっこ忘れてたな。
まぁいいか。




