妄執の帝国3
20
「余がルファート帝国皇帝ハインリヒ・グラウブルク・ヴァン・ルファートである。頭が高い、控えよ」
そんな皇帝さんの言葉で謁見の間に集まった帝国の貴族連中が頭を下げております。
いやぁ、壮観ですね。
なんと言っても、皇帝さんがイケメンです。
ぜひ爆発して欲しくなるぐらいのイケメンですよ。
なんと言えばいいのでしょうか……
明らかに強キャラオーラだしてるカリスマっぽいくせに結局のところ敵だから最終的には負ける運命を背負っているキャラ……みたいな? そんな感じです。
何故でしょうか、皇帝さんがなんだか不機嫌な表情になっております。
「頭が高い、控えよ」
みんな頭を下げてるのにまだ頭が高いとか言ってるのはどういうことなんでしょうか?
まさか、家臣は頭を下げるなら額を地にこすりつけるような土下座をしろとでも言うつもりなのか!?
それではまるで暴君ではないか!
帝国の家臣でもない俺に頭を下げろって言うはずもないし、やはり暴君説が有力ですね」
「もうよいわ! 貴様は国を代表する者としての心構えがなっていないようだな。貴様の言葉1つで戦争になるのだぞ?」
「いや、そもそも戦争狙ってるのはあんたらなんだから、どうしたって難癖つけるだけだろ? だったら気分の悪くなることしない方がいいじゃん」
「我らが戦争を望んでいるなどという根も葉もないデタラメを外交のこの場で言うとは……どうやら死にたいらしいな」
図星を突かれたが誤魔化そうとしております。
ピッグ子爵……やっぱ違う気がするな……
なんだっけ?
あ、そうだ。マッセ子爵だ。
マッセ子爵をけしかけたことをなかったことには出来ないと言うのにどうやって誤魔化すつもりなのでしょうか?」
「えぇい! 貴様と話していると頭が痛くなる! 王国はこのようなまともに人と会話も出来ぬ阿呆を送りつけるとはよほど余を怒らせたいらしいな」
皇帝がそう言った直後、城がドンと大きく縦に揺れた。
笑えるね。
怒っているのはこっちなんだよ。
足を振り上げることなく寸勁のように床に衝撃を放ったので俺が立っている場所はへこみ、そこを中心に蜘蛛の巣状の亀裂が大理石の床に広がっている。
突然のことに帝国の人間は驚き、誰も口が開けないようだ。
「怒らせたいのはテメーだろうが! 俺のダチの領民犯そうとした屑はテメーの国の阿呆なんだよ。その落とし前どうつけるつもりなんだコラ!」
「な、な、な、なんたる不敬! 衛兵、この者を殺せ! 首を送りつけて開戦の合図としてくれる!」
皇帝、ハインリヒが叫ぶと控えていた兵士たちが喜々として一斉に剣を抜いた。
憎きドコカノン王国の人間だ。殺したくて仕方がなかったんだろう。
「まだ戦争が始まったわけじゃないが、殺そうとするなら殺される覚悟をしろよ? 抜き身の剣を持ってそれ以上近づくようなら殺意があると見なして反撃するからな」
ぐるりと俺の周りを囲んだ兵士たちにそう言うが、皇帝の命令に加えてドコカノン王国の人間を相手にするのだから躊躇う理由がないらしい。
せっかく忠告してやったのに、まずは正面に立っていた男が襲いかかってきた。
けっこう鍛えているようだが、ぜんぜんぬるい。
振り下ろされた剣を横にずれることで躱し、無防備な顎を掠らせるようにストレートを放つ。
きれいに入ったので、斬りかかってきた男は糸が切れた人形のようにその場で崩れ落ちた。
さすがに豚の連れていた兵士とは練度が違うな。
1人がやられたことで俺を囲んだ兵士の1人1人が警戒心を強めたのが分かる。
「おちょくったのは悪いと思うし、少しばかり感情的になったのは謝罪しよう。ハインリヒ皇帝、本当に我が国と争うつもりがないのなら彼らを下がらせてもらえないかな?」
「やれぃっ!」
返答は兵士への指示ですか。
まったく……兵士たちが可哀想だね。
俺を警戒すべき敵だと判断したのか、今度は1人ではなく四方八方から同時に襲いかかってくる。が、甘い。
ストレージから1対の小太刀を取り出し、襲いかかってきた兵の剣を持っている手だけを正確に切り落とす。
両手で持ってたやつはご愁傷様だな。
さすがに手を切り落とされた兵士たちは蹲って痛みに悶えているが、中には片手を失った程度ではひるまずに反対の手で落ちた剣を拾うやつもいる。
どうやら、俺の優しさは分かってもらえないようだ。
力の差が理解できないのか忠誠心に篤いのか、再度襲いかかってきた馬鹿はこの世からご退場願うしかないな。
「な、な……」
謁見の間に詰めているのだから精鋭だったんだろう。
その精鋭が為す術もなく一方的にやられたのがよほど驚きなのか、ハインリヒは口を大きく開けてまともに言葉も発せないようだ。
「え、え、え、永久殺戮機関だ!」
謁見に同席していた帝国の貴族からそんな叫び声が上がる。
おい!? 誰だその痛い二つ名叫んだの!
俺はその二つ名認めてないからな?
ていうか、せっかくだからその二つ名考えたやつ出せよ。ちょっとOHANASHIしようぜ?
「え、永久殺戮機関? こやつが!?」
皇帝陛下? あんたもその呼び方やめてもらえます?
何が嬉しくてそんな中二病全開の呼ばれ方しないといけないんだよ。
にしても、実際に剣を抜くまで気づかれないってのは嬉しいような悲しいような……
珍しい名前でもないし、姓まで名乗らなければ案外バレないんだよね。
「まさか、余を殺しに来たのか!?」
「ちゃうちゃう。今回は話し合いですからね。あんたらが手を出してこなければこっちから手を出すことはしませんよ。これだって正当防衛なんだから」
俺は足下に転がった剣をギャーギャーわめいている貴族連中の方へと蹴飛ばしながらそう言った。
飛んできた剣を慌てて避けようと貴族たちが左右に分かれる中で唯一人、鎧姿の偉丈夫だけは逃げようとはせず、飛んできた剣を片手でキャッチするとそのまま大理石の床に突き刺した。
大理石の床に剣を突き刺すとはなかなかやりますな。
「あんたもやるのか?」
「ご冗談を……いくらドコカノン王国の人間とは言え、他国の使者を相手にするなどとてもとても……」
「今にも斬りかかりそうな殺気を向けておいてよく言うよ。ま、いいや」
なかなか強いが、あくまでもなかなかだ。
勇者様や変態に比べれば雑魚もいいところなのだから、不意を突いてきたって俺の相手になりはしない。
殺気を飛ばしてきた偉丈夫には釘を刺したので、俺はハインリヒへと向き直った。
「さて、お話を再開しましょうか?」




