↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
水に取られた ー零れる刻限ー (改訂版)  作者: 大西さん
エピローグ 永遠の境界
PR
95/97

第95話 季節は巡り、境界に生きる

二人の新しい生は、季節と共にあった。


雨が降る日、彼らは姿を現すことができる。田辺家の庭、廃寺の境内、二人が出会った図書館、最後のデートをした海辺。水のある場所に、半透明の揺らめく姿で。 しかし、その姿を認識できる者は限られていた。水の呪いに触れた者、あるいは深い喪失を抱えた者だけが、彼らの存在を感じ取ることができた。


晴れが続く乾季は苦痛だった。地下水脈の中、意識は保たれるものの、個としての輪郭を失い、ただの水の一部として流れ続ける。自分が自分でなくなっていく恐怖。その中で、二人は互いの意識だけを頼りに、次の雨を待ち続けた。


『寒い?』


水脈の中で、翔太の意識が香織に問いかける。


『ううん……あなたがいるから、大丈夫』


香織の意識が応える。それは音声ではなく、水の振動として伝わる思念だった。


満月の夜、廃寺の地下水脈では、歴代の犠牲者たちの意識が集う。 亮介、聡、健一、佐助……。彼らはもはや水そのものであり、人間の形を保つことはできない。しかし、その意識は水の中に溶けている。記憶も、感情も、愛も、すべてが水の一部となって流れ続けている。


そこに、香織と翔太も加わる。彼らだけが、かろうじて人の形を保っていた。それは完全な人間でも、完全な水でもない、境界に留まる存在だった。


『新しい道か』


亮介の意識が、水脈全体から語りかけてくる。


『……どうか、和子に。もう、何も苦しくはないのだと、伝えておくれ』


香織と翔太の存在は、この水底の世界にも、微かな変化をもたらしていた。怨嗟と嫉妬の渦だった場所に、諦観と、そして静かな受容が生まれ始めていた。死者たちは、永遠の孤独から、永遠の共同体へと変わりつつあった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。