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水に取られた ー零れる刻限ー (改訂版)  作者: 大西さん
第十五章 水時計の部屋 ― 最後の六十分
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第91話 硝子の教室(翔太の幻覚)

『これこそがお前の本来の姿』


松姫の声が、思考に直接響く。


『愛を支配する者となるのです。それが巫女の究極の喜びなのです』


喜び…?そうなのだろうか。でも、私は翔太君の瞳を覗き込んで、気づいてしまった。 そこに、光がない。魂がない。ただ、私という存在を反射しているだけ。 違う…!これは愛じゃない。あなたがいない世界で、私が美しいことに何の意味があるの?これは、ただの永遠の孤独…!私は、翔太君と笑い合いたい!


硝子の教室(翔太の幻覚)


僕は、高校の教室にいた。隣の席で、香織ちゃんが笑っている。呪いなんて最初からなかった世界。僕たちは普通の高校生で、普通の恋をして、平凡で幸せな未来を歩んでいく。卒業、大学、就職、結婚……。太陽の光に満ちた、温かいビジョン。


『お前が自ら水底に来れば、娘は救われます』


松姫の声が、優しく囁く。


『自己犠牲こそ、最も美しい愛の証明です。この幸せを、彼女に与えなさい』


そうだ、これが一番いい。俺が犠牲になれば、香織ちゃんは… いや、違う。隣で笑う香織ちゃんの瞳が、どこか空虚だ。魂の半分を失って、ただ笑っているだけの人形だ!魂のない幸せなんて、ただの地獄だ!俺は、苦しみながらでも、本当の君と一緒にいたいんだ!


覚醒


『私たちは、偽りの幸福はいらない!』


二人の拒絶の叫びが、一つになって精神世界に響き渡った。その瞬間、甘い幻覚はガラスのように砕け散り、二人の意識は水時計の部屋へと引き戻された。


だが——水は、まだ止まらなかった。


どくん。どくん。どくん。


水時計の脈動は、いっそう速く、貪欲に時を刻み続けている。拒んだだけでは、何も変わらない。水位はすでに二人の顎にまで達し、天井までは、もうわずかだった。松姫の支配は、揺らぎもしない。

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