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水に取られた ー零れる刻限ー (改訂版)  作者: 大西さん
第十三章 町が、沈んでいく
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第77話 「人間のままでは戻れない」

『水時計への道』


地図が描かれていた。廃寺への道順と、地下への入り方。そして、警告。


『一度降りたら、人間のままでは戻れない。だが、それでも行くなら、満月の夜を避けよ。水の力が最も強まる』


「今夜は満月じゃない」


香織が言った。


「だから、今日しかない」


山道の老婆と失われた記憶


放課後、二人は必要なものを揃え、廃寺へと向かった。 山道の入り口に、老婆が座っていた。霧に濡れた黒い着物、曲がった背中、白濁した目。まるで、この場所の番人のように。


「また来たか」


老婆の声は、水の底から響くようだった。


「また?」


「五十年前も、同じような二人が通った。男の子は帰ってこなかった」


老婆の体から、水が滲み出していた。着物が濡れ、地面に水溜まりができていく。


「百年前も、百五十年前も、同じだった。巫女と、巫女を愛する者。皆、水の底へ」


老婆が立ち上がった。その瞬間、彼女の姿が変わった。 若い女性の姿が、老婆の姿に重なって見える。着物姿の、美しい女性。そして、また別の女性。何人もの女性の姿が、次々と現れては消えていく。


「私たちは、道標」


無数の声が重なって響いた。


「水への道を示す者。引き返すなら、今」


香織と翔太は、互いの手を強く握った。


「進みます」 二人の声が、同時に響いた。


老婆たちは、悲しそうに微笑んだ。そして、水となって地面に吸い込まれていった。後には、濡れた足跡だけが、山道へと続いていた。

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