↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
水に取られた ー零れる刻限ー (改訂版)  作者: 大西さん
第十三章 町が、沈んでいく
PR
76/97

第76話 これが最後の日常

学校への道のりは、いつもより長く感じられた。 霧は相変わらず濃く、三メートル先も見えない。足音だけが、湿った空気の中で異様に響く。時折、霧の中から聞こえる声。


「また雨か」 「この町は呪われてる」 「十八歳の娘は気をつけろ」


断片的な言葉が、霧と共に流れていく。


教室に着くと、クラスメートたちの視線が痛かった。


「田辺さん、顔色悪いよ」


「なんか、透けて見える」


「触ったら、冷たそう」


香織の席の周りだけ、空気が違っていた。まるで、薄い水の膜で隔てられているような。


昼休み、屋上で翔太が言った。


「今日、行こう」


「廃寺に?」


「うん。もう時間がない」


翔太の手を見ると、青い筋がさらに濃くなっていた。脈打つように、水が流れているのが見える。


「僕の中で、大叔父さんの記憶が強くなってる。彼の最後の日の記憶が」


それと、と翔太はスマホを取り出し、画面を香織に向けた。古い個人ブログのページ。更新は、先月で途絶えている。


「さっき先生も言ってた、水に取られた研究者……佐倉さん。あの人のブログ、もう一度ちゃんと読み返したんだ。これが、最後の記事」


画面には、走り書きのようなメモが残されていた。


『水神=廃寺。だが、対になる存在がある——音無神社。風と音の祠。かつて笛の音で、水神の渇きを〝鎮めた〟という祭祀。水に抗う力は、〝音〟にあるのではないか。次はあの社をもう一度——』


記事は、そこで途切れていた。


「彼は、たどり着く前に水に取られた。でも、最後に残したこの〝水と音〟って発想が、僕にはずっと引っかかってたんだ」


翔太は、青く脈打つ自分の手を見つめた。


「呪いを〝鎮める〟だけじゃ足りない。〝満たして〟癒すんだ。藤田先生の巻物と、顔も知らない佐倉さんのメモ。その二つが繋がって、やっと、道の輪郭が見えてきた気がする」


翔太は、藤田先生から託された古文書を開いた。新しいページが追加されていた。いや、元からあったのに、今まで見えなかったページが現れたのだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。