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第72話 逃げ場のない、水の罠
彼は、その日、雨の降りしきる中、一人で東林山へと向かった。 廃寺の本堂に辿り着いた佐倉は、本堂の床下にある地下水路への入り口を発見した。 彼は、持参した道具で鍵穴をこじ開けようとした。しかし、鍵穴はびくともしない。 「くそ…!」 彼はイライラしながら周囲を探し回った。 その時、足元に小さな水たまりができていることに気づいた。 それは、ただの水たまりではなかった。水面が、ゆっくりと佐倉の顔を映し出している。 水面に映る自分の顔が、一瞬、別の男の顔に見えた。
無数の男の顔が、水面に浮かび上がっては消えていく。 「な…なんだ…?」 彼は、恐怖に震えながら、後ずさりした。 しかし、彼の耳に、甘い声が聞こえてきた。
『おいで…あなたも…』
それは、古く、しかし若々しい、松姫の声だった。
『あなたは、真実を求めている。私たちも、仲間が欲しいの』
その声に、佐倉の好奇心と、知的な興奮が蘇る。
「そうか…!君たちは、私を求めているのか…!」
彼は、その声に導かれるように、地下水路への扉に手をかけた。 すると、扉は、音もなく、ひとりでに開いた。 彼の心は、高揚していた。この先には、世紀の大発見が待っている。 彼は、持参したカメラと懐中電灯を手に、一人で地下へと降りていった。




