第71話 村ぐるみの、もてなし
佐倉は、町の商店街で聞き込みを始めた。
「田辺さんのお屋敷は、昔からちょっと…ねえ」
八百屋の主婦は、人差し指で耳をくるくる回す仕草をした。
「あの家の娘は、生まれつき体が冷たくてね。祭りの日でも、一人だけ屋敷に閉じこもってたわ」
「『水牢の娘』ってね。嫁にも行かず、行き遅れるのが決まりなんだと。なんでも、あの家の娘に惚れた男は長生きせんって、死んだ婆さまがよう言うとった」
佐倉は、町の人々が、この呪いをまるで昔話のように語ることに違和感を覚えた。その表情には、恐怖よりも、長年培われた諦めと、どこか優越感のようなものさえ滲んでいる。
「仕方のないことなんですよ。あの家のおかげで、この町は長いこと、水から守られてきたんですから」
その言葉を聞いて、佐倉は確信した。この町全体が、呪いの共犯者なのだ。
彼は、町の外れにある「音無神社」へと足を運んだ。 その神社は、水神を祀る廃寺とは異なり、風神を祀る小さな祠だった。境内には、古い石灯籠が並び、風が吹くたびに、かすかな音が鳴る。 「音無神社……」 佐倉は、古文書でこの神社のことを調べていた。この神社の祭祀は、水神の呪いを鎮めるために行われていたという。しかし、いつしか祭祀は途絶え、社は荒れ果てていた。 「水と音……。呪いに対抗する、別の力が存在したのか」 佐倉の好奇心は、頂点に達していた。




