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第67話 最後の夜
「佐助、逃げましょう。二人で、どこか遠い場所へ」
姫は泣きながら訴えた。しかし、佐助は静かに首を振った。
「姫様、もう逃げられませぬ。城の周りには、父上の兵が見張っております」 佐助もまた、すべてを知っていた。
「ならば、どうすれば……」「姫様。俺は、覚悟を決めました」
佐助の目は、驚くほど澄んでいた。
「俺の命で姫様が救われるのなら、喜んでこの身を捧げましょう。それが、俺にできる唯一の、愛の証ですから」
「嫌……嫌です!あなたを失って、私だけが生き永らえるなど!」
「いいえ、姫様。俺は死にませぬ。水時計の一部となり、永遠に姫様と共にあります。姫様の渇きを癒す、水の一滴となって」
佐助は、懐から小さな木彫りの人形を取り出した。彼が彫った、松姫の姿の人形だった。
「これを、俺だと思ってください」
二人は、夜が明けるまで寄り添っていた。言葉はなかった。ただ、互いの温もりだけが、そこにあった。
朝日が昇る頃、姫は言った。
「分かりました。参りましょう。あなたと一緒なら、どこへでも」
その顔には、もう涙はなかった。悲しみを超越した、静かな決意が浮かんでいた。姫は、佐助が彫ってくれた人形を、白無垢の懐に、しっかりと握りしめていた。




