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第66話 水時計が、完成する
夏が盛りを過ぎた頃、水時計は完成した。 それは、人間の狂気が生み出した、荘厳にして冒涜的な装置だった。
高さは三丈(約10メートル)。黒曜石と御影石で造られ、表面には水の流れを模した不気味な紋様が刻まれている。
内部には、人間の髪と血を混ぜて作られたという特殊な機構が組み込まれ、まるで生き物のように、どくん、どくんと低い脈動を繰り返していた。
忠愛は、完成した水時計を前に、満足げに頷いた。
「これで、松が救われる」
そして、彼は娘に非情な宣告を下した。
「松よ。お前の病を治すための儀式を行う。お前の想い人、佐助と共に、寺へ参るのだ」
姫の指先が、ふいに冷えた。父の言葉の端々に、いつのまにか、自分と佐助を共に挙げる響きが混じっていた。喉の奥が締まり、座っていられず、姫は床に手をついた。生贄、という二文字が、頭の中で勝手に組み上がっていく。
部屋に下がったあと、姫はしばらく動けずにいた。乳母が運んできた水の椀に手を伸ばしたが、震えが止まらず、椀の縁を掴むことすらできなかった。水は、こぼれて畳に染み込んでいく。
あの夜、父が汲んでくれた水は、たしかに温かかった。それなのに、いまの水は、どうしてこんなに冷たいのだろう。
もう、あの父はいない。
その夜、姫は最後の逢瀬のために、佐助の待つ森の祠へと向かった。




