第42話 呪いは、逃がさない
七月に入って、美代子は決意を固めた。 逃げる。健一と一緒に、この町を出る。十八歳の誕生日の前に。
しかし、その頃から奇妙な現象が起き始めた。
美代子が外出しようとすると、必ず雨が降り始める。それも、彼女の周囲だけに集中的に。まるで、見えない檻に閉じ込められているかのように。
健一とのデート中、レストランのグラスの水が突然溢れ出す。噴水の水が、美代子だけに向かって吹きかかる。プールサイドを歩けば、足元から水が湧き出る。
「なんか、最近変だな」
健一も異変に気づき始めていた。
「水が...俺たちを見張ってるみたいだ」
美代子は恐怖を感じていた。これは偶然ではない。何かが、いや、誰かが介入している。
ある夜、美代子は奇妙な夢を見た。 深い水の底に沈んでいく夢。そこには、無数の男たちの顔が浮かんでいた。皆、若く、美しく、そして悲しそうだった。その中に、健一の顔を見つけて、美代子は悲鳴を上げて目覚めた。
枕元に、和子が立っていた。 月光に照らされた母の顔は、能面のように無表情だった。
「七月二十日ね」 和子が言った。 「何が?」 「あなたの誕生日」 「知ってるわよ」 「その日に、すべてが決まる」 和子の影が、月光で壁に大きく投影される。それは巨大な水の化身のようにも見えた。
「健一と一緒に、東京へ行く」
美代子は宣言した。 和子の表情が、初めて変わった。悲しみとも、諦めともつかない、複雑な表情。
「行けると思う?」
その言葉と共に、部屋の中の湿度が急激に上がった。壁に水滴が浮かび、天井から水が滴り始める。
「これが、田辺家の女の運命よ」




