第41話 二人で逃げる計画
五月になると、美代子と健一は毎日のように会うようになった。 学校が終わると、健一がバイクで迎えに来る。二人はよく海辺を走った。潮風を浴びながら、どこまでも続く海岸線を。
海辺で見る健一は、いつも生き生きとしていた。波打ち際を裸足で歩きながら、将来の夢を語った。
「俺、東京でゲーム作りたいんだ。自分が設計した世界で、みんなが遊べるような」 彼の目が輝く。それは創造への情熱だった。
「すごいね」 「美代子も一緒に来いよ。東京で暮らそう」 ある日、砂浜に座りながら健一が言った。夕陽が二人を赤く染める。海面に反射する光が、まるで燃える水のように見えた。
「東京?」「来年、就職が決まってるんだ。渋谷のゲーム会社。プログラマーとして」
健一は、不良っぽい外見とは裏腹に、コンピューターの天才だった。大学では首席の成績を収めていた。
「プログラミングってさ、水みたいなんだ。データの流れを設計して、制御して、新しい世界を作る。でも、俺が作る水は、冷たくない。温かくて、生きてる水なんだ」
その言葉に、美代子の心が震えた。水。この家を支配する冷たい水とは違う、温かい水があるのだと、健一は教えてくれた。
「うん、行く」 「本当か!」 「健一と一緒なら、どこでも」
二人は、砂浜でキスをした。夕陽が、二人を赤く染める。唇が触れ合う瞬間、美代子は感じた。これが生きているということなのだと。冷たい水の底ではなく、温かい光の中で呼吸することなのだと。
「でも、母が...祖母が...」「大丈夫。俺が守る」
健一の腕が、美代子を包み込む。その腕は強く、温かかった。
この瞬間が、永遠に続けばいいと思った。
波打ち際で、潮が、ふだんと違う方向へ、ひたひたと引いていくのを、二人は、気づかなかった。




