第36話 神になろうとした女
岡田浩介は、真紀に初めて会った日から、彼女の虜になった。 図書館の棚の向こうで、古書を静かに読む彼女の姿は、まるで絵画のようだった。
「田辺さん、って、この大学の学生なんですか?」
声をかけると、彼女は感情のない目で浩介を見た。完璧に整った顔立ちと、無表情の奥に潜む人間離れした静謐な佇まい——その底知れなさに、浩介は狂気じみた憧れを抱いた。
「僕は、君のことが知りたい。君のすべてを知りたいんだ」
浩介は、真紀にのめり込んでいった。彼女の知性、言葉の選び方、そして時折見せる、人間離れした静謐な佇まい。それは、彼が今まで出会ったどんな女性とも違っていた。彼は、真紀を愛するというよりも、崇拝していた。彼女を、この世に現れた女神か、あるいは、遠い世界の王女かのように感じていた。
「真紀さんは、完璧だ。神様みたいだ」
浩介がそう言うと、真紀の瞳が、一瞬だけ水のように揺らいだ。
「私は、ただの人間よ」
彼女は冷たく言ったが、浩介は信じなかった。
「違う!あなたは、僕がずっと探していた存在だ。この空っぽな世界に、僕を満たしてくれる唯一の存在だ!」
彼の愛は、真紀の美しさを消費し、彼女の神秘性を讃えることだった。
その視線を浴びながら、真紀はふと思う。——次に、この完璧さに翳りが差したとき、私はまた、誰かを水へ沈めるのだろう。何の感情も伴わない、ただの予定として。




