第23話 戻れない水の迷宮
穴の中は、想像以上に狭く、湿気がひどかった。彼は、懐中電灯の光を頼りに、慎重に進んでいった。足元はぬかるんだ土。壁からは、水が滲み出している。
しばらく進むと、彼は古い石造りの階段に出た。 「これだ…!ここが、水時計へ続く道…!」 彼は、喜びと興奮に震えながら、階段を降り始めた。しかし、階段の途中、彼が踏み出した石が、ぐらりと揺れた。 「うわっ!」 彼は、体勢を崩し、階段から転げ落ちた。彼の体は、水路へと投げ出された。
水路は、地下水脈から溢れ出した水で満たされており、彼の体を、まるで意志を持ったかのように奥へと引きずり込んでいく。彼は必死に藻掻いた。しかし、水の力は強かった。 水路は、彼を水の底へと導き、彼の意識は次第に薄れていった。
その瞬間、水の中から、亮介の顔が浮かび上がってきた。
『兄ちゃん…どうして…』
亮介は、悲しそうに言った。
「お前を…迎えに…」
『兄ちゃんは…俺じゃない…』
亮介は、そう言い残すと、水に溶けていった。 水の中で、源三郎は弟の方へ手を伸ばした。指先は、亮介の肩に届く寸前で、見えない壁に阻まれて引き戻される。何度伸ばしても、同じだった。
源三郎の喉から、声にならない呻きが漏れた。代わりに、なれない。代わりになろうとして調べ続けた十三年の歳月が、その水の壁の前で、ただ無力に沈んでいった。
源三郎は、伸ばしていた手を、ゆっくりと自分の胸へ戻した。亮介の場所ではなく、自分の場所で、この呪いと向き合うしかない。手のひらの中の、まだ温かい自分の心臓を、彼は強く握りしめた。
奇跡の生還と「最後の地図」
水の中で意識が朦朧とする中、源三郎はかすかに、別の声を聞いた。
『…父ちゃん…帰ってきてくれ…!』
それは、まだ幼い息子(翔太の父)の声だった。 その声が、彼の魂を水の中から引き上げた。 「ああ…あああ…!」 彼は、最後の力を振り絞り、水路を這い上がった。 体は冷え切り、手足の感覚はほとんどない。全身に水を吸い込んだ体は、鉛のように重かった。
彼は、水路の入り口まで何とか辿り着いた。 息も絶え絶え、彼は持っていた調査ノートを取り出し、震える手でペンを握った。 水に濡れた地図に、彼は地下水路の危険な箇所と、唯一の脱出経路を書き加えた。それは、彼が命と引き換えに得た、呪いの設計図の「裏側」だった。




