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第22話 地下から、水が囁く
昭和六十年、夏。
源三郎は、梅雨が明けたにもかかわらず、湿気が肌にまとわりつく東林山の廃寺に立っていた。彼の背中には、調査記録、地図、そしてあらゆる道具が詰め込まれた大きなリュックが背負われている。十三年の歳月が彼の体に深く刻まれていたが、その瞳には、未だに燃えるような執念が宿っていた。
「亮介…俺は、真実を突き止める」
彼は、風化した本堂の前に立った。戸籍簿や古文書の記述を頼りに、地下水路への入り口があることを突き止めていた。しかし、その入り口は分厚い石の扉で塞がれ、開く鍵が見つからない。
彼は、廃寺の裏手にある朽ちた祠の裏に、別の入り口を発見した。それは、古文書にも記されていない、秘密の抜け道だった。 穴に懐中電灯の光を当てると、光は途中で吸い込まれるように消え、代わりに奥から冷たい風が吹き上げてきた。その風には、鉄錆と苔、そして微かに腐敗臭が混じっていた。
「これだ…」
彼は、躊躇した。この穴に入れば、もう戻れないかもしれない。 だが、彼の耳に、遠い日の弟の声が聞こえてきた気がした。
『兄ちゃん、大丈夫。俺がついてる』
それは幻聴だった。しかし、彼の背中を押すには十分だった。 彼は、一人で穴の中へと入っていった。




