第12話 妹に告げられた予言
和子が立ち上がった。座敷の奥、仏壇の横にある古い水瓶に向かう。瓶の中の水は、不思議なことに澄み切っている。五十年前から一度も替えていないはずなのに。
「水は、おぼえているのよ」
和子が水面に指を浸すと、水が青白く光りはじめた。その光が次第に強くなり、部屋全体を冷たく照らしていく。
水面に、映像が浮かび上がった。亮介の顔。五十年前の、あの最後の瞬間の顔。映像はゆっくりと移り変わる。聡。浩介。健一。そして、見たこともない無数の男たちの顔——みな、この家系の女たちに捧げられた者たちだった。
「お祖母様、これは……」
和子は、答えなかった。ただ、その声が急に若返り——いや、何人もの女の声が重なって、ひとつの言葉だけを残した。
「——もう、戻らない」
水面が激しく波打ち、映像が消えた。部屋が、再び薄暗くなる。
香織には、何が起きたのか、何を見せられたのか、まるで分からなかった。分からないのに、背筋だけが、芯から冷えていた。
「もうすぐよ」
真紀が、妹の肩に手を置いた。その手が、異様に冷たい。まるで、死人の手のように。
「あなたの番が」
窓の外で、雨が降り始めた。最初は、ぽつり、ぽつりと。そして次第に激しくなっていく。
でも、その音の中に、規則正しいリズムが混じっている。
ぽたん、ぽたん、ぽたん。
三十秒に一滴。まるで、見えない水時計が時を刻んでいるように。
香織の顔に、汗が滲んだ。いや、汗ではない。もっと透明で、もっと冷たい何か。体の中から、水が滲み出し始めていた。
そして、廊下の奥のどこかで——誰かが、男の声で、静かに、香織の名前を呼んだ。




