第11話 二人の男を捧げた姉
姉の田辺真紀、二十四歳。六年前、十八歳の時に最初の儀式を遂行した女。そして、その美貌を維持するために、二度目の儀式をも厭わない覚悟を決めた、哀れで狂った存在。
スーツ姿も凛々しく、都内の大手コンサルティングファームで最年少マネージャーとして活躍している。肩まで切り揃えた黒髪は、オフィスの蛍光灯の下でも青黒く輝き、その美貌は人間離れした領域に達していた。
肌は触れるまでもなく冷たいと分かる、樹脂のような滑らかさだった。毛穴も汗腺も塞がれ、生身の人間に必要なものは、もう、そこに通っていない。その美しさは、二人の若い男の命を糧としている。彼女はもはや単なる呪いの被害者ではない。自らの意志で呪いを利用する、共犯者だった。
「妹も、そろそろ覚悟を決める時期ね」
真紀の声には、感情の色がない。それは機械的な平坦さというより、あまりにも深い絶望の果てに感情を捨て去った者の、空虚な響きだった。
妹の田辺香織、十七歳。高校三年生。姉とは対照的に、地味で目立たない少女。肩より少し長い髪を後ろで一つに結び、度の強い眼鏡をかけている。制服も着崩すことなく、優等生然とした佇まい。
だが、その瞳には、姉にはない人間らしい輝きがあった。恐怖と、抵抗と、そして微かな希望が混在している。
「なぜ、私たちだけがこんな目に」
香織の声が震える。膝の上で握りしめた拳が、小刻みに震えている。
「理由など、誰も知らぬ」
和子が答える。その視線は、どこか遠くを見ている。五十年前の、あの日を見ているかのように。
「曾祖母から祖母へ、祖母から母へ、母から私へ。ただ、受け継がれてきた。血と共に、水と共に」
「でも、お母さんは……」
香織の視線が、乾いた咳の聞こえる襖の向こうへ向けられる。
「お母さんは、弱かった」
真紀が、感情のない声で言う。窓ガラスに映る自分の姿を見つめながら。その姿は、まるで水面に映る影のように揺らいでいる。
「逃げようとした報いよ」
「でも、健一さんは死んだじゃない!」
香織が反論する。声に怒りが滲む。
「それも含めて、罰なのよ」
真紀の瞳が、一瞬、水のように波打った。まるで、水面に石を投げ込んだような波紋が広がる。
「愛する人を殺しても、美を得られない。それが、最も残酷な罰」




