冒険者ギルド騒動
「上位種……!」
フィアの声は、
今までで一番緊張していた。
森の奥。
木々を揺らしながら、
“それ”が近づいてくる。
ドシン。
ドシン。
一歩ごとに地面が揺れた。
「お、おい……」
姿が見えた瞬間、
思わず声が漏れる。
デカい。
いや、
デカすぎる。
黒い毛皮。
鋭い牙。
赤黒い瞳。
狼。
だが、
普通の狼じゃない。
三メートルはある。
しかも周囲に、
黒い靄みたいな魔力が漂っていた。
《シャドウウルフ・ロード》
頭の中へ、
自然に情報が流れ込む。
《危険度:B級》
《群れの上位個体》
《高い知能を有する》
……なんで分かるんだ俺。
これも解析か?
フィアが低く呟く。
「最悪……」
「そんな強いのか?」
「B級魔物」
「へぇ」
「普通の冒険者パーティなら全滅」
「……」
へぇじゃなかった。
めちゃくちゃヤバいじゃん。
シャドウウルフ・ロードは、
こちらを睨みつける。
そして。
視線が止まった。
俺の右手。
紋章。
「……グルルルル」
低い唸り声。
明らかに警戒している。
「?」
なんだ?
その瞬間。
ロードが吠えた。
「ガアアアアアッ!!」
爆発的な速度。
デカいくせに速すぎる。
「っ!」
フィアが前へ出る。
剣閃。
だが。
ガキィィン!!
弾かれた。
「なっ!?」
フィアが後ろへ飛ばされる。
「フィア!」
「大丈夫!」
着地したフィアの顔が険しい。
「硬い……!」
ロードはニヤリと笑ったように見えた。
知能がある。
しかもかなり高い。
次の瞬間。
ロードの口元に黒い光が集まる。
「まずい!」
フィアが叫ぶ。
直後。
黒い閃光が放たれた。
ドゴォォォン!!
地面が爆発する。
「うおっ!?」
熱風。
衝撃。
普通に魔法まで使ってきた。
強すぎない?
ロードはさらに突っ込んでくる。
フィアが迎え撃つ。
剣と牙が激突。
火花。
速すぎて見えない。
でも。
押されてる。
フィアの方が不利だ。
「っ……!」
フィアが吹き飛ばされる。
地面を転がる。
「フィア!」
「来ないで!」
彼女は立ち上がる。
だが、
口元から血が流れていた。
かなりヤバい。
俺は右手を見る。
紋章が熱い。
使えば倒せる。
多分。
でも。
「……加減できる気がしねぇ」
またクレーター作りそう。
最悪、
フィアまで巻き込む。
迷ったその瞬間。
ロードがフィアへ飛びかかった。
速い。
間に合わない。
考えるより先に、
身体が動いていた。
「止まれ!!」
右手を突き出す。
瞬間。
空間が軋んだ。
ロードの動きが止まる。
完全停止。
「今だ!」
フィアが反応した。
銀閃。
剣が走る。
だが。
ガギィィン!!
弾かれた。
「硬っ!?」
ロードの首には、
浅い傷しかついていない。
その瞬間。
停止が解除された。
「ガァァァッ!!」
ロードが暴れる。
まずい。
近い!
咄嗟に、
俺はロードへ手を向けた。
頭の中で、
強くイメージする。
――吹き飛べ。
瞬間。
ドォォォン!!
見えない衝撃が炸裂した。
ロードの巨体が、
森の奥まで吹き飛ぶ。
木々が何本も倒れた。
「…………」
静寂。
フィアがゆっくり俺を見る。
赤い瞳が完全に引いていた。
「ユーマ」
「はい」
「本当に人間?」
失礼だな!?
だがその時。
森の奥から、
再び咆哮が響いた。
「グルァァァアアアアッ!!」
ロードが立ち上がる。
しかも。
さっきより魔力が増えていた。
周囲の空気が歪む。
《危険度上昇》
《暴走状態へ移行》
頭の中に情報が流れる。
「うわぁ……」
ゲームのボス第二形態みたいになった。
ロードの身体が膨れ上がる。
黒い魔力が渦を巻く。
フィアが青ざめた。
「逃げる」
「え?」
「今の私たちじゃ無理」
珍しく即決だった。
つまりそれくらい危険。
ロードが咆哮する。
空気が震える。
そして。
「……ん?」
突然、
俺の右手が強く光った。
紋章が脈打つ。
頭の中に、
新しい“理解”が流れ込む。
《権能解放:重力支配》
「……は?」
次の瞬間。
ロードの巨体が、
地面へ叩き潰された。
ドゴォォォォォンッ!!!!
「!?」
超重力。
地面が陥没する。
ロードが苦しそうに吠える。
動けない。
まるで、
山に押し潰されているみたいだった。
「え」
フィアが固まる。
俺も固まってる。
何これ。
怖。




