神権、初使用
ギルドの空気が変わった。
さっきまで笑っていた冒険者たちも、
今は静まり返っている。
全員の視線が、
俺へ集中していた。
……居心地悪っ。
ギルドマスターは、
砕けた判定水晶を拾い上げる。
「完全に内部から破壊されているな」
低い声。
鋭い目。
怖い。
絶対強いこの人。
「フィア、説明しろ」
「森で拾った」
「拾った言うな」
即ツッコミしてしまった。
フィアは気にせず続ける。
「魔狼の群れを高位魔法で制圧した」
ざわっ。
周囲が再び騒つく。
「高位魔法!?」
「こいつが?」
「嘘だろ?」
大柄な冒険者まで驚いていた。
ギルドマスターは俺を見る。
「名前」
「神代悠真……じゃなくて、ユーマ」
危ない。
本名フルで言いそうだった。
「ユーマか」
ギルドマスターは腕を組む。
「判定は《解析》」
「らしいです」
「だが水晶が壊れた」
「はい」
「しかも高位魔法を使う」
「……」
どう見ても怪しい。
詰んだか?
するとギルドマスターは、
なぜか少し笑った。
「まあいい」
「いいんですか?」
「誰にでも秘密はある」
意外だった。
もっと問い詰められるかと思った。
「ギルドは実力主義だ。使えるなら問題ない」
合理的。
ありがたい。
ギルドマスターは受付嬢へ視線を向ける。
「仮登録だけ済ませろ」
「えっ」
「正式試験は後日だ」
受付嬢は少し戸惑いながら頷いた。
「わ、分かりました」
すると周囲がどよめく。
「仮登録!?」
「新人が!?」
「ギルマス直々!?」
そんな特別なのか?
ギルドマスターは面倒そうに頭を掻いた。
「騒ぐな。水晶壊した時点で普通じゃねぇ」
いや、
俺もそう思う。
受付嬢が書類を持ってくる。
「えっと、名前はユーマさんで大丈夫ですか?」
「あ、はい」
「年齢は?」
「十七」
「出身地は?」
止まる。
やばい。
異世界の地名とか知らない。
数秒悩んだ末。
「……遠い田舎です」
苦しい。
でも受付嬢は、
妙に納得した顔をした。
「なるほど……」
通った。
異世界人って意外と雑。
登録を終えると、
受付嬢が小さな金属プレートを渡してきた。
「これが冒険者証です」
おお。
ファンタジーだ。
銅色のプレートには、
俺の名前が刻まれていた。
「現在は最低ランクのF級になります」
「ランク制なんだ」
「はい。依頼達成で昇格します」
完全にゲーム。
ちょっとワクワクする。
その時。
グゥゥゥゥゥ……。
また腹が鳴った。
しかも今度はかなり盛大。
周囲が静かになる。
「……」
「……」
死ぬほど恥ずかしい。
フィアが小さくため息を吐いた。
「そういえば空腹だった」
「忘れてたの!?」
「大丈夫そうだったから」
どこが。
ギルドマスターが笑う。
「ははっ。新人、金は?」
「ゼロです」
「清々しいな」
いや笑い事じゃない。
異世界初日で無一文。
割とピンチだ。
するとギルドマスターは、
受付嬢へ顎をしゃくった。
「余ってる初心者依頼あったな」
「はい」
「それ回せ」
「えっ、今からですか?」
「腹減ってんだろ。働け」
ブラックだ。
でもまあ、
確かに金は必要。
受付嬢が依頼書を持ってくる。
「薬草採取依頼です。初心者向けですね」
依頼達成報酬、
銅貨五枚。
安いのか高いのか分からない。
「受けます」
「決まりだな」
ギルドマスターはニヤッと笑った。
「フィア、お前も行け」
「……なぜ」
「監視役」
フィアが露骨に嫌そうな顔をした。
でもギルドマスターには逆らえないらしい。
「……分かった」
なんか申し訳ない。
こうして。
俺の異世界初依頼が決まった。
その後。
俺たちは街の外へ出ていた。
夕方の風が吹く。
空が赤い。
「薬草ってどこにあるんだ?」
「近くの草原」
フィアは淡々と歩く。
相変わらずクールだ。
「でも初心者だけで十分」
「じゃあなんで監視役?」
「ギルドマスターが警戒してる」
やっぱりか。
まあ当然だよな。
謎の力持ちだし。
しばらく歩くと、
開けた草原へ出た。
綺麗な景色だった。
風で草が揺れている。
「うわ……」
「これが薬草」
フィアがしゃがみ込む。
青い葉の植物。
「根ごと抜かない」
「なるほど」
俺も真似する。
意外と地味な作業だ。
だが。
「……ん?」
少し離れた場所で、
何かが動いた。
黒い影。
犬くらいのサイズ。
「フィア」
「分かってる」
彼女の表情が変わる。
緊張。
その瞬間。
草むらから飛び出してきた。
「ギィィィッ!!」
異形だった。
黒い皮膚。
鋭い牙。
四足の怪物。
「魔物!?」
「シャドウウルフ!」
フィアが剣を抜く。
だが。
「っ……!」
もう一匹。
さらにもう一匹。
三匹いた。
「初心者依頼の範囲にいる魔物じゃない……!」
フィアが舌打ちする。
まずいらしい。
シャドウウルフたちは、
低く唸りながら距離を詰める。
速い。
殺気が凄い。
本能で分かる。
危険だ。
一匹が飛びかかる。
フィアが斬る。
しかし、
残り二匹が横から回り込む。
「っ!」
間に合わない。
その瞬間。
身体が勝手に動いていた。
右手を前へ出す。
紋章が光る。
そして俺は、
自然に言葉を口にしていた。
「――停止」
世界が静止した。
風が止まる。
草が止まる。
飛びかかった魔物が空中で止まる。
完全停止。
「……え?」
フィアが目を見開く。
俺自身も驚いていた。
今までと違う。
感覚で分かる。
“世界そのもの”を掴んだ感じ。
右手が熱い。
頭の奥で、
何かが脈動している。
そして。
止まったシャドウウルフたちが、
一瞬で地面へ叩き潰された。
ドゴォォォンッ!!
草原が吹き飛ぶ。
衝撃波。
土煙。
数秒後。
そこには巨大なクレーターができていた。
「…………」
沈黙。
やばい。
絶対やりすぎた。
フィアが固まっている。
赤い瞳が、
完全に俺を見つめていた。
「ユーマ……」
声が震えている。
まずい。
完全に引かれた。
そう思った瞬間。
フィアは小さく呟いた。
「……何その魔法」




