噂の新人冒険者
ラウルの街へ戻る頃には、
空はすっかり暗くなっていた。
街灯代わりの魔導ランプが、
石畳をぼんやり照らしている。
ファンタジー感すごい。
「へぇ……」
思わず見回していると、
隣のフィアが呆れたように言った。
「本当に田舎者みたい」
「いや、だって珍しいし」
元の世界じゃ、
こんなのゲームでしか見たことなかった。
しかも異世界の夜って、
妙に雰囲気あるんだよな。
屋台から肉の焼ける匂いがする。
めちゃくちゃ腹減る。
「……」
フィアが少しだけこちらを見る。
「お腹空いた?」
「かなり」
「子供みたい」
失礼だな。
でも、
彼女の声は少し柔らかかった。
そんな会話をしながら、
俺たちは冒険者ギルドへ戻る。
扉を開けた瞬間。
ガヤガヤしていた空気が、
ピタッと止まった。
「……あ」
「帰ってきた」
「フィアと新人だ」
視線。
めちゃくちゃ見られてる。
なんで?
すると、
昼間の大柄な冒険者が近づいてきた。
斧を背負った筋肉男。
「おいおい、本当に帰ってきやがった」
「?」
「草原、騒ぎになってんぞ」
嫌な予感。
「騒ぎ?」
男は引きつった顔で笑った。
「デカいクレーターできてるってよ」
「…………」
やっぱり俺のせいだ。
フィアが小さくため息を吐いた。
「……やりすぎ」
「加減難しいんだよ」
「今の発言怖い」
ごもっとも。
周囲の冒険者たちが、
ひそひそ話し始める。
「上位魔物が出たらしいぞ」
「しかも撃退されたとか」
「誰がやったんだ?」
やめて。
それ以上探らないで。
俺は静かに視線を逸らした。
すると。
「おい新人」
低い声。
振り向くと、
ギルドマスターがいた。
相変わらず威圧感すごい。
「帰ったか」
「どうも」
ギルドマスターは、
俺とフィアをじっと見る。
特に、
俺の服についた土汚れを。
「……派手にやったな?」
鋭い。
この人絶対勘いい。
フィアが先に答える。
「シャドウウルフの群れと遭遇」
周囲がざわついた。
「群れ!?」
「初心者依頼だろ!?」
ギルドマスターの目が細くなる。
「それで?」
「上位種も出た」
一瞬、
ギルドが静まり返った。
次の瞬間。
「はぁ!?」
「上位種!?」
「生きて帰ってきたのか!?」
大騒ぎだった。
まあ、
普通に死にかけたしな。
いや、
俺はそうでもなかったけど。
ギルドマスターはフィアを見る。
「倒したのか?」
フィアが少しだけ黙る。
その横顔が、
ちらっと俺を見た。
……あ。
これ、
どう誤魔化すか考えてる顔だ。
数秒後。
「……逃げた」
「逃げた?」
「途中で撤退した」
完全に嘘ではない。
実際逃げたし。
ギルドマスターは腕を組む。
「上位種が簡単に退くか?」
鋭い。
この人マジで鋭い。
フィアは無表情のまま言った。
「運が良かった」
ギルドマスターはしばらく俺を見る。
めちゃくちゃ見てくる。
やめて怖い。
だが結局。
「……まあいい」
見逃してくれた。
助かった。
すると受付嬢が慌てて駆け寄ってくる。
「あ、あの! 薬草依頼の達成確認します!」
完全に空気変えに来たな。
優しい。
カウンターへ向かう。
採取した薬草を並べると、
受付嬢が驚いた。
「こ、こんなに!?」
「多かったか?」
「初心者依頼でこの量はかなり優秀です!」
おお。
褒められた。
ちょっと嬉しい。
受付嬢は笑顔になる。
「報酬はこちらです!」
渡されたのは、
小さな革袋。
中には銅貨が入っていた。
チャリン。
「これが異世界マネーか……」
なんか感動する。
フィアが横から覗き込む。
「そんなに珍しい?」
「初給料って嬉しいだろ」
「……ふーん」
反応薄い。
でも、
ほんの少しだけ口元が緩んでいた。
その時。
ギルドの奥で、
別の冒険者たちが騒ぎ始めた。
「おい! 聞いたか!?」
「東の森でも魔物暴走だってよ!」
空気が変わる。
ギルドマスターが眉をひそめた。
「またか」
“また”?
俺とフィアは顔を見合わせる。
冒険者の一人が続ける。
「しかも今回は被害がデカい! B級パーティが撤退した!」
ざわめきが広がる。
「最近おかしいぞ……」
「魔物の動きが変だ」
「こんなの今までなかった」
嫌な空気だった。
ギルドマスターは舌打ちする。
「……面倒な時期に入ったな」
フィアの表情も真剣になる。
どうやら、
ただ事じゃないらしい。
その時。
《解析》が勝手に反応した。
視界の端。
ギルド奥の掲示板。
そこに貼られた地図。
赤い光点が、
複数浮かんでいる。
「……え?」
誰にも見えていない。
俺だけだ。
しかも。
その赤い光点は、
全部“魔物暴走地点”と一致していた。
頭の中へ、
情報が流れ込む。
《高濃度魔力汚染を確認》
《原因調査を推奨》
「……なんだこれ」
フィアが振り向く。
「ユーマ?」
やばい。
また何か始まりそうだった。




