ホストとして働きながら高校に通う
ホストとして働くことは思っていたよりもキツイというのが分かった。どんな仕事も大変だろうけど。
僕はまだ高校生という立場なので、しっかりと高校に行かないといけない。卒業して大学に行けば講義などをある程度、自分の意思で決めることができるので調整の仕様があるんだけどね。
ホストとして働いているなんて、誰にも言えない。いや、言えないというか言うつもりはない。友人や学校側に言えば心配されたり、怒られたりするかもしれない。家族は「絶対に止めて!」と言われるのが目に見え過ぎている。
だから疲れているところを見せるわけにはいかないので、家でも学校でもなるべくいつもと変わらないように振舞う。
――――――
昼休みになったと同時に僕は教室を出ようと思っていた。だって、《《彼女》》が絶対に来るから。
僕が教室を出ようと机を立った瞬間にはもう遅かった。彼女は僕の近くに立っているんだ。
「岩佐さん、早いね」
岩佐綾子さん。茶髪でロングな子で同級生。彼女といつも昼休みは過ごすことになっている。この世界で男女が一緒に食事を取るなんてほとんどないので、最初の頃は驚かれたもの。
男友達からは「お前、大丈夫か?」とか「何か弱みを握られているんだったら、オレに言えよ」など様々なことを言われた。
「だって義幸くんと一緒にご飯が食べたかったんだもん」
「そうなんだ、それぐらい楽しみにしてくれて嬉しいな」
口ではこう言いつつも、本当は男友達とも食事をしたい。特にホストとして働くようになってから余計にそう感じつつある。ずっと女性と話しているので、学校でぐらいは同性と話しをしたい。
だけど、そんなことを岩佐さんに言えるわけない。前に僕が高校を休んだ時なんて、男友達が言うには「泣きながら一人でご飯を食べていたらしい」。そんな子を突き放すような真似ができるわけない。
なので今日も岩佐さんと昼食を食べるのだ。
「岩佐さんはいつもお弁当だよね」
いつ、どんな時でもお弁当だ。
だから僕もそれに倣って、自分でお弁当を作るようになったのだ。今までずっと買って済ませていたけど、作った方が健康的な面でも、いずれ一人暮らしをするにしても役に立つはずだと思って。
「そうだよ。だってお弁当を作るのって楽しいんだもん」
「確かにその気持ちはわかるかも」
最初の頃は弁当を作るって大変だなぁとか思ってた。でも慣れて来ると逆に『明日のおかずは何にしようか』とかを考えるようになって、楽しくなってきた。
「義幸くんが分かってくれて嬉しいよ」
「わかるよ。僕もお弁当を作ったりするからね」
そこから他愛のないような話をした。いつもそんな他愛のないような話をして、昼食が終わると岩佐さんは自分の席に戻る。
でも、今日はどうやら違うようでこの場に留まっている。
「あ、あの…ちょっといいかな?」
「いいですよ」
「ちょっとお願いがあって」
岩佐さんはなんかいつもより目が合わない。食事をしていたさっきまではずっと目が合っていたのに、急に合わなくなった。
「…義幸くんって…料理上手いよね…」
「岩佐さんからそう言ってもらえると嬉しいですね」
「だ、だからちょっと食べてみたいなぁ…と思っていたりします…」
「食べるですか…?」
「…だ、だめですか…」
岩佐さんは上目遣いでお願いをしてきた。
「い、いや、ダメならダメでもいいんです!!私は義幸くんと話しながら食事が出来るだけでとても楽しいので!」
一瞬思案を巡らせたけど、別に断る理由が見つからないので「いいですよ」と言うと、岩佐さんは飛び跳ねて喜んでくれた。
「や、やったぁ~」
「そこまで喜ばれると逆に僕の弁当でいいのかと少し不安になる気持ちが…」
僕が今まで岩佐さんと話してきて、聞いたことがないような大きな声で「義幸くんのお弁当だからいいんだよ!」と岩佐さんは宣言してきた。
岩佐さんは大人しい子だと思っていたので、さすがにちょっと驚いてしまった。
「…そうですか。では岩佐さんのために明日のお弁当は気合を入れますね」
「私だって頑張るよ!」
「え…明日の岩佐さんのお弁当は僕が作るんじゃないの?」
「うん。義幸くんには私のお弁当を、私は義幸くんのお弁当を作るの!」
ということは、お弁当を交換するようなものと理解すればいいのかも。前世でそんなことをしたことはない。というか男同士でそんなことは基本的にしないですし。
岩佐さんのことは信頼しているので、彼女の作った者を口にするのは大丈夫だ。さすがに見ず知らずの人に何かを渡されて、食べてと言われたら、ちょっと悩むけど。
「わかりました。では、明日はお弁当を交換しましょう」
「うん!楽しみにしててね、明日のお弁当は私の人生の全てを掛けて作るからね!」
そう意気込んで、岩佐さんは自分の机へと戻っていった。
「明日のお弁当、どうすればいいかなぁ…」
そんなことを考えつつ、窓からグラウンドを見て気付いた。
今日も夜からホストとして勤めなくちゃいけない。そうなると放課後になるまでに料理を決めて、買い出しをしっかり済ましておかないと明日のお弁当に支障をきたす。
「ど、どうしよう…決めないと…」
午後の授業はずっと明日のお弁当ばかりに支配されていて、ほとんど頭に入ってこなかった。




