野坂春Side
ボクは自信がない。自分に自信がないから金髪にしてみたりと形から入ったりしてる。そうすることで少しでもボクがボクに自信を持てるように。
中学校の頃には根暗過ぎて、友達すらできなかった。
だから高校からは大きく変わるために髪型や髪色も変えた。でもやっぱりボクはボクで、いくら外見が変わっても内面が変わらないと意味がない。話しかけてくれても、言葉が上手く紡ぎだせなかったりして、自然と中学校の頃と同じで一人になった。
やっぱり変われなかったと思っていた時にSNSで、ホストの広告が目に入った。
『そこのあなた、ホストクラブ『knight』にお越しください。このホストクラブにはなたの全てを受け入れてくれて、欲求を満たしてくれる男がいるのだから』
「全てを受け入れてくれる…」
こんなボクでも受け入れてくれる人はいるのかな。
ボクみたいなダメな子でも、褒めてくれる人ってこの世界にいるの?
勢いで、ボクはホストクラブに予約した。
男の人と話したことなんてもちろんないし、女の子とも満足に話せないのに男の人となんてと思うけど、広告の『全てを受け入れてくれる』っていう言葉がボクの心に響いてしまった。
―――—
当日、緊張しながらもホストクラブに着いた。今日は授業を受けても全然集中できなかった。いや、もっというと昨日の夜ゲームをしていた時も緊張していた。普段はしないようなミスをたくさんしてたし。
ボクらしくない。
ホストクラブの中に入ると内観はとても豪華な感じだった。そしてスーツ姿に身を包んだ男性がボクに対して笑顔を向けてくれている。
「あ、あの…よろしくお願いします」
「こちらこそ、今日はお越しくださりありがとうございます。あなたにとってこの時間がかけがえのない時間になるように努力させていただきます」
目の前の男性はとっても落ち着いている。ホストクラブに来るのは初めてなので分からないけど、こんな風に応対してくれるものなんだ。
ボクがイメージしていたホストってもっと乱暴なのかと思った。だから予約したことを少し後悔した日もあった。
席に案内してくれて、すると奥から女の人が出てきて「どんな飲み物を頼む?」と聞かれたのでボクは「ウーロン茶で」と伝えた。
女の人は奥へと消えていった。
「お名前を聞いても良いですか?」
「…は、はる…です」
緊張し過ぎて、体温が上がっていくのがボク自身も分かるぐらい。こんな至近距離で誰かと話すのも久し振りすぎる。
「ハルさんですね」
それから、男性が名乗ってくれた。
「僕はテツです。短い時間かもしれませんが、よろしくお願いします」
飲み物が運び込まれてすぐにボクはウーロン茶で喉を潤す。そんなボクのことをテツさんは優しい笑顔で見守ってくれていた。
テツさんに見られていることで、さらに緊張して喉が渇く、そしたら喉を潤すの繰り返し。
落ち着いてからテツさんはボクのことについて色々と聞いてくれた。普段どんなことをしているのか、趣味はなにとか、年齢とか。
どんな話題にもテツさんは相槌を打ってくれたり、質問をしてくれたりするのでボクの話を真剣に聞いてくれているのが自然と伝わって来る。こんな風に誰かと面と向かって話すのが久しぶり過ぎて、緊張するけど話を聞いてくれて嬉しい。
それにテツさんが気を使ってくれて、ボクが答えるまで待ってくれる。友達と会話をすると会話のテンポに置いて行かれちゃうことが多かった。
でも、ここではそんなことはない。
だからたぶん、話しやすいんだと思う。
緊張はするけど。
「僕はあんまりゲームとか上手くないので、ハルさんに教えて欲しいですよ」
「…お、おしえてほしい…?」
そんなこと言われたことなかった。ゲームが好きってことを伝えても、「そうなんだ」でいつも終わってしまう。
「はい。友人とかとゲームをしたりもするんですけど、全然上手くないんです。だからいつもゲームでは最下位を取って罰ゲームをさせられるんです」
話している時のテツさんは悔しいという気持ちはありつつも、本当にゲームを楽しんでいるのが分かった。たぶん、良い友達がいるんだと思う。
「ゲームが得意な人に聞いてみたいんですけど、上手くなるコツとかってあるんですか?」
コツか…。
そんな風に聞かれると何と答えるのがいいのかな。
ボクはゲームが好きでたくさんやっていたら自然と上手くなっていくものだと思う。
「そ、そうだなぁ…どんなゲームもやり込めばできると思う」
ボクのコツを聞いて、テツさんは「ハルさんは本当にゲームが好きなんですね」と口にした。
それに対してボクは間髪入れずに「すき!」と答えた。
「それぐらい夢中になれることがあるのは素晴らしいことだと思います。僕もそれぐらい夢中になれることをみつけたいですし」
そんなこと言われたことない。
お母さんからは「ゲームをするんなら、勉強をしなさい。良い大学に行くために勉強しないでどうするの!ゲームなんてやめなさい!」みたいなことを言われるだけ。
「すばらしいこと?」
「素晴らしいことです。どんなことでも夢中になれるものがあるのは素晴らしいですよ。僕はハルさんがゲームをしているところは見たことがないですけど、たぶんその時のハルさんはとても生き生きとしているんだろうなぁと妄想してますよ」
そこでボクは思い出した。このホストクラブの広告に書いてあった一文を。
『このホストクラブにはなたの全てを受け入れてくれて、欲求を満たしてくれる男がいるのだから』
本当にいるんだ。
ボクのことを受け入れてくれて、褒めてくれる存在。
嬉しかった。
ボクという人間をちゃんと見てくれて、ボクを良いと言ってくれる人。
「…そんなこと初めて言われた」
「そうですか?僕はとっても良いと思いますよ」
なんでテツさんはボクのことをこんなに褒めてくれるんだろうって疑問に思っちゃうぐらい。
ボクってこの後、なんかとっても不幸なことがあるのかな。
もしかして明日、ボクって交通事故とかにあうとか。
しっかり気を付けて帰らないと。
そんなことを考えていると、テツさんはさらにゲームに関する質問をしてくれた。
「好きなゲームのジャンルとかあるんですか?」
ゲーマーにそれを聞いたらだめだよ、テツさん。
だって止まらんくなっちゃうから。
「FPS系のゲームも好きだけど、ノベルゲーも好きなんです。どのゲームにもそれぞれ良さがあるんです。だから、テツさんにもゲームの良さをたくさん知って欲しいですし、色んなゲームに挑戦して欲しいです!」
「ハルさんがそこまで言うなら挑戦してみますね」
ちょっと喋り過ぎたかなぁと思ったけど、テツさんは笑顔で全てを受け入れてくれた。
お金を払うにしてもこんなに良い人がいるなんて。
テツさんと話していると時間はあっという間に過ぎてしまう。奥からドリンクを持ってきた人と同じ方が「時間です」と言いに来た。
もうそんな時間かと思い、お財布から代金を支払うとまたその方はバックヤードへと消えていった。
後はもう帰るだけだと思い、立ち上がろうとしたタイミングでテツさんがボクの方に視線を向けた。
「次の時はハルさんの笑顔をもっとたくさん見たいな」
「…え……」
「僕の所為でハルさんの緊張が解けるまで時間がかかってしまったので。もし、次に来てくれたら、ハルさんがもっと笑顔でいられるようにしますね」
そんなこと言われたら…テツさんのことを一生忘れられなくなる。というか、この過ごした時間だけで一生の宝物だ。
「ハルさんの笑顔はとっても魅力的なので」
ボクはすぐにテツさんから顔が見えないようにした。だって今、見られたらもっと赤くなっちゃう気がする。
そして足早にホストクラブを去った。
―――――――
外に出て、深呼吸をする。
それでもボクの心臓はまだうるさくて、頭はテツさんのことしか考えられていない。
「また来たいなぁ…」
そして予約した自分を褒めたい。あの時、ホストクラブの予約をしていなかったら、テツさんと会うことも出来なかったんだし。
「テツさん……会いたい」
さっき会ったばっかりなのに、そんなことが頭をよぎる。
「早く会いたい…」




