ホストは二度目のお客さんと話す
僕が連絡先を交換したのは美晴さんだけ。まだ二回来店してくれたお客さんは美晴さんだけだ。
これはどうなんだろうと思ったけど、綾乃さんが言うには「二回目の予約もたくさんもらっているから大丈夫よ」と言われたので一先ず安心した。最初だけで二度目はきたくないと思われていたらさすがに接客を見直さないといけないし。
その次いでという感じで綾乃さんが「そう言えば、今日来るわよ。ハルって子が二度目の」と言った。ハルさんは僕にとっても印象的のお客さんだった。だって初対面と話した後のイメージがあれだけ違う人というのも早々いない。
あれから美晴さんからの連絡はない。そして僕もどんな風に連絡をすればいいのか分からず、『テツです。よろしくお願いします』ぐらいしか送ってない。それに対する返信はないものの、僕としては気にしていない。
これが友人だったら、少しは気にするけど、僕と美晴さんはキャストとお客様という関係だ。お客様が気が向いた時に返信してくれれば別にない。
今日はやっと二人目の二度目のお客さん。二回も足を運んでもらえているということはそれなりに一回目は満足させられたと思っていいのだろうか。
そんなことを思いながら待っていると入口の扉が開いた。
そこからは…前よりもオシャレな服に身を包んだ、ハルさんの姿があった。
「今日もお越しくださりありがとうございます、そのご洋服、とてもハルさんに似合っていますよ」
「…そ、そうですか…」
「はい、とても似合っています。前にお越しいただいた時のハルさんもとても綺麗だったのですが、今日のハルさんはもっと綺麗です」
ハルさんの顔がどんどん赤くなってしまっていて、顔も下を向いてしまった。
これはもうこれ以上は褒めらない方がいいかもしれないと思って、ハルさんを席まで案内する。
いつも通りにハルさんはドリンクを頼むと、今日は僕に視線を向けてくれた。初めて来てくれた時は視線が合わないことも多かった。
「ハルさん、ゲームをやってみたんです」
「え、やってくれたんですか!?」
「はい、あんなに楽しそうに話すハルさんのことを見ていたら、やってみたくなっちゃいまして」
さすがにゲーム機を買うお金はあんまりないので、少ない男子の友人の家で遊ばせてもらった。本当はいつでもやれるようにゲーム機とかを買った方がいいのかもしれないけど、うちの経済力的にそんなことはできない。
それにあと少しすれば今月分の給料が支払われることなっているけど、それは全て母親に渡す。自分で使うつもりは全くない。
「ど、どんなゲームをやったんですか?」
「FPS系です。他にも色んなジャンルのゲームがあると思うんですが、すぐにやれそうだったのでがFPSだったので」
「どうでした?」
「一番は難しかったです。でも、やってみると次こそ頑張ろうっていう気持ちが高まって来て、結果的に面白かったです」
僕がそう答えるとハルさんは胸に手を当てて、「…よ、よかったぁ…」と口にしていた。
どうしたんだろうと思って、視線をハルさんに向けると見られていることに気付いたハルさんが説明してくれた。
「FPS系のゲームって難しくて最初で躓いちゃう人多いんです。そしてその嫌な思い出のまま、終わってしまう。テツさんがそれで終わっちゃったら嫌だなぁ…って思ってたので、面白かったと言ってくださって嬉しいです」
本当にゲームのことについて話している時のハルさんは良い笑顔をする。ハルさんをここまで笑顔にする力がゲームにあると考えると、ゲームの持つ力っていうのもすごいんだと実感する。
「楽しかったです。だから次はハルさんから他に教えてもらったゲームでもしようかなと思っています」
自分はそこまでゲームは得意じゃないけど。
そしてそんな話をしながら、僕は連絡先の交換を申し出てみることにした。
「もし、ハルさんが嫌でなければなんですが」
「はい…」
「連絡先の交換とかしてくれたりしますか?」
「…れ、れんらくさきですか!?」
「ハルさんと色々と連絡を取りたいと思いまして。ゲームのこととか教えてもらうのに、連絡先の交換をしていると楽ですから」
綾乃さんから連絡先の交換に関する注意事項は頭に入れている。個人情報をあまり打ち明けなければプライベートで連絡を取ること自体は禁止されていない。
だから、ちょっとゲームのことで聞きたいことがあれば聞いても良いということだと思うし。
「どうでしょうか。ハルさんが嫌であれば強制はしないので大丈夫ですよ」
「ぼ、ぼくでいいんですか!?」
「ハルさんがいいんです」
「…ボクなんかで…」
「いいんです。逆にハルさんだから交換したいんです。ハルさんじゃなければ、僕は頼んでいませんよ」
ハルさんの自信が圧倒的にないのは…本当になんでなんだろう。正直容姿だって可愛い、ゲームも上手い。ちょっと人見知りなところもあるけど、それも人の個性ともいえるはず。
正直、前世であれば『学園のアイドル』とか言われて人気になっていたとしてもおかしくない。
「だから、ハルさんの気持ちを教えてください」
「…ボクでよければ交換してく、ください…」
「ありがとうございます。交換しましょう」
僕は携帯を取り出して、ハルさんと連絡先の交換を進める。
「これからたまに連絡しても大丈夫ですか?」
「…大丈夫です。あ、あと、ぼくから連絡してもいいですか?」
「もちろんいいですよ。ハルさんからの連絡が来たらとっても嬉しいです」
今のところ、美晴さんからも連絡が来ていない。もちろん、美晴さんが忙しいというのは分かっているつもりだ。
それでも連絡先の交換をしたのなら、やっぱりちょっとやり取りをしたい。
もしかしたらハルさんも連絡をしてくれないかもしれないけど、それはその時でいい。
「僕からも連絡しますが、よければハルさんからも連絡してきてくださいね」
「は、はい!必ず連絡します!」
そしてその日はもう少しやり取りをして、時間になり、終わった。




