第1話 4枠②
放課後。
僕は靴箱に上履きを入れる。いつもの校舎、いつもの学校の風景。
「あ、咲見さん。今帰るんですか?」
昼間の女の子たちが寄ってきた。今日はちょうど僕のまわりに男子がいない。
軍が公式ページに「ラポルト16のガンジス島戦記」をアップしたんだ。それが昨日のこと。「僕らとのインタビュー」形式でサイトに乗せたから、それで僕への質問は大幅に減った。
軍の人グッジョブ! 「ウワサに尾ひれがつくのを防ぐためにもそうする」ってレクチャーの時に言ってたんだよね。おかげで賑やかだった僕の下校も今日は静かだ。
ただ、今来た3人の女子は帰る方向も同じなので、どうも一緒に帰る流れだろう。
僕らは揃って校庭の門を出た。ランニングをする女子バレー部の集団を避けてから、4人で歩き始めた。
会話は日常のとりとめのない話がほとんどだった。もう体験乗艦とかじゃなく、女の子同士の会話を僕が聞いている感じだったりした。
自宅が見えてきた。少し広めの敷地に、6棟ほどの家が建つのが見えて。ちょっと高めのモルタルの塀なので、道路側からの目線だと、中は見えないようになっている。
「あの内の4つが、咲見さんのお父さんの奥様の家」
あ、「タメ口で」って言ったけど、元に戻ってる。まあしょうがないか。
「そだね。父さんが中央の家に住んで、各母親と子供が一戸建てにそれぞれ住む形だね」
「集中方式!」
「しかも全部戸建てなんてスゴイな~」
「いやいや、おじいちゃんの代からの形だし。ちゃんとしたお風呂とか食堂は中央棟だから、嵐の日とかは大変なんだよ。隣の家で遊んでたら親からメール来て、台風来てるから外出るな。その家に泊めてもらえ、とか」
「え~。でも旅館みたいで楽しそう。ね?」
「そうよ。屋根付き廊下とかあるんでしょ?」
「まあ一応はあるけど。冬とか寒いんだよ。メシや風呂のためだけに外出たくないじゃん」
「でも贅沢な悩みよう。通い婚家多いんだから」
そんな会話をしながら、自宅の門の前で3人と別れた。
「咲見さん。一足先にお邪魔してます」
門の向こう、自宅側からこんな声が。
「もう来てたんだ」
「うん。ごめんね。危うく今の子たちとのひとときを邪魔しちゃうトコだったね」
塀の裏に、セーラー服姿の愛依がいた。艦でマストだった制服姿なんだけど、黒皮の学生カバンを持つのは新鮮だ。
「一緒に帰る」という愛依のメールに僕は「たぶん無理。家で待ち合わせよう」と返信していた。たぶんまだ取り巻きの子がゼロにはならないと思ってたから。
「『咲見さん』はやめてよ。ふたりきりだったら暖斗でって決めたじゃんか」
「でもわたしうっかり『暖斗くん』って。みんなの前で言ったりしたらいけないし」
「『超記憶』がよく言うよ?」
「ギフト持ちでもミスるってば。普通に」
‥‥‥‥何だろう? 愛依の言葉使いが体験乗艦の時よりくだけている? 微かに。
そうなのかな。愛依は艦内で「女医」「医療人」の責務を負っていた。素の中学生に戻れているのかな? どう、だろう。
「そうでなくても、暖斗くんとわたしとで、変なウワサ立ってるんだから」
「え?」
「‥‥‥‥ほら~。やっぱり男子よね。女子の間じゃあ、『あのふたりもしかして』ってなってるのよ?」
「え? もしかして授乳室の件とかが?」
「それはバレてません。そうじゃなくてよ? 女の子はね、この辺のアンテナ感度とっても高いの。見抜いちゃうのよ?」
「でもなんで? 僕ら学校ではほとんど話してないじゃん?」
でもそうか? 40日間も戦艦で共同生活だったんだから、その間に何かあったとも想像できるよな? ‥‥あ、いや? だったら麻妃とウワサにならないのは何でなんだ?
「空気じゃね? それは」
「あ!」
いつの間にか、その麻妃が後ろに立っていた。自宅で着替えてきたのか、あの赤い野球帽にジーンズ生地のショーパン姿だ。
「なんだよ空気って。意味わかんないよ」
「女子はね、ふたりの間の空気の濃さを検出するのさ~。まあ、そんなことよりさ、ちゃっちゃと始めるか」
麻妃は僕の家だけどズカズカ入っていく。東南にある離れの家。二階建ての2LDKに向かった。
今日はこの3人で集まる予定。あの旅の中での約束。僕がみんなにした「ある約束」を果たすためだよ。
ラポルト同窓会、「宴」。第3次「宴」の時だっけ? ふれあい体験乗艦が無事終わったら、僕の家でみんなで打ち上げ会をやろう、と企画していた。その打ち合わせだ。
附属中三人娘は今ものすごく忙しいらしく、その幹事は僕らみなと一中の3人で、となっていた。まあ今入ったこの家。僕の家の離れが会場なんだから当然の流れか。
まあいいや。また気合入れてケーキ作りまくるぞ! 今度も全員床に転がす!
***
「ふへ~。ここから4棟全部見える。外から見える様子と全然印象違うね」
愛依が離れの窓から外を眺めている。僕らは2Fで作戦会議中だ。4棟、というのは僕の家の敷地にある「父親の嫁の家」のことだ。
帰り道に女子と話した通り、敷地内にその4つの戸建てが点在するしくみだよ。
「暖斗くんは将来どうするの? この家継ぐの?」
「順当に行けばそうだねえ」
「‥‥お嫁さんは4人?」
「さっきも訊かれたよ。まあそうだろうねえ」
「でもこのセントラルじゃあ?」
「うん。今僕が住んでる戸建てが古いから、建て替える時に4世帯のアパートにしようかなんて親は言ってる。‥‥ほら。賃貸マンションとかでよくあるヤツ」
「ああ~。玄関4つ並んでるヤツとか」
「あと真ん中に階段ついてて、左右と1、2階に分かれるタイプ」
「賃貸マンションじゃ、そっちの方が一般的じゃない?」
「でもぬっくん。あんまり近いとダンナが『どの家によく行くか?』モロバレするから、旅館式集合住宅はよくないって聞くぞ?」
「ええ? もう場所が無いしみんな仲良くすればいいんじゃない? 通いか集合住宅が大多数で‥‥」
「そう上手くいかないのよ。ね、麻妃ちゃん」
「そだよ。ノンデリはイカンよ? ぬっくんはその辺能天気だから」
麻妃にそう言われて、僕はちょっとだけ唇を尖らせた。
「‥‥‥‥でも、ラポルトでも言ったよね? 暖斗くんと結婚する子は幸せよ。そして、ちゃんと幸せにしてあげてね? わたしはそれを見守るから」
「右に同じだゼ☆」
「‥‥君たちねえ‥‥‥‥」
そんなことを言いながらも、僕らは「宴」の準備にいそしんだ。僕が作りたいスイーツリストを出して、用意する食材をリストアップする。隣で愛依が瞬時に必要量や金額を弾き出していた。
おおう。さすが超計算ギフテッド。
で。
そのうちに家政婦の伊央里さんがきて、愛依はゴハン系の食べ物の準備、麻妃は部屋の飾り付けの準備の打ち合わせを始めていた。
ちょっと暇になったので、愛依を真似して窓まで行って敷地の景色を見る。4棟の「嫁の家」かあ。
僕の嫁。将来の。
4枠、かあ。まだ全然想像つかないよ。
一体、将来僕は誰とここに住んでるんだろ?
‥‥‥‥‥‥意外とその全員、もうすでに出逢ってたりしてね。




