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第1話 4枠①






「お~暖斗(はると)、生きてたか~!」

「まさかあの体験乗艦が、あんなコトになるとはな!」

「動画見てたぞ~。ヤバいな」

「そうだぜ! 中々帰ってこね~なぁとか言ってたら」

「戦争、パイロットとか? はぁ!? どうなってんだよ?」



 紘和60年9月10日。火曜日。


 僕も、久しぶりに登校する。

 何だろ? 久しぶりに見る中学の校舎が、やけに新鮮に映る。


 結局、新学期はこの日から始まった。ウイルスも収まり、「先の見えない大戦」が予想外に早く終結しちゃったから、あわててリスケジュールされた感じで。



 皇太子閣下のお言葉は、脅しでは無かったらしい。


 揚陸艦を(とつ)らせてきた国が、正式に詫びを入れてきたってニュースが配信されていた。「国ごと」滅ぼされたらたまらないよね? 閣下は、自国民、つまりはラポルト16を守るためにテロ国家の国民を逆に人質に取った、ということだ。


 尋常じゃない。


 でもそのお蔭で僕らは、普通の中学生に戻れました。あそこまで目立ってしまった以上、ある程度の身バレを覚悟してたけど、それも紘国が国ぐるみで阻止してくれる。



「お~い。騎士様~」

「はると~、じゃなくて、ナイト~!」

「さすがオレの相棒だ。‥‥っていやいや、オレたち親友だったじゃんか?」



 僕の近況。前仲良かったアイツらとはちょっと距離ができてしまった。メールとかはしてるけど。で、その代わりに「陽キャでちょっと調子がいい連中」が、僕の周りに集まってきていた。


 廊下を歩くとみんな僕を見る。


「あ、咲見さんだ。先輩!」

「お、君か」

「「こんにちは~~。きゃ~こっち見た~っ!」」


 う~ん。これがずっと続くのかな?



 この、市立みなと第一中学では二学期の始業式で、僕と麻妃、愛依の3人を壇上に上げて「おかえりなさい」イベントを計画していたらしい。


 けど、それは中止になった。というかそうしてもらった。


 ふれあい体験乗艦、出発する時には、地元の人間だったら乗り込む面子は周知の事実だった。ホームページに名前が出て。参加者の僕には顔写真と本人コメント入りの「旅のしおり」が。

 それで「16人中男は僕ひとり、あとはカワイイ女子ばかり」という状況がわかって、無駄に突っかかってくるヤツとかが湧いたっけ。不用意にそれを同級生に見せたのがキッカケなんだけど、あの時はこんな大事になるなんて。まさか夢にも思わなかったからなぁ。別に禁止もされて無い、見せてもいいって情報だったし。



 けど、あの戦争勃発、ラポルト16としての参戦で、話が大きくなりすぎてしまった。


 そんなワケでラポルト16メンバーの身上は、みなと市民なら薄々みんな知ってるんだけど。一応公にはメンバーの素性は未公表、未成年のため身バレNGってなったんだ。

 今さら感あるけど、僕らもそれを望んだ。


 結果、ネット的には謎の中学生だけど、学校ではみんな知ってる。そして誰かがSNSに情報を上げちゃったとしたら、国と軍が総出で詰めてくる、という状況。「デジタルタトゥーとかは消えない、消せない」っていうけれど、紘国軍の情報戦部門とその統括AIが本気で瞬殺しまくれば限りなくゼロにしてしまえる、という事実。



 疲れた。初日でもう。





 麻妃は元々陽キャというか、そっち系のキャラだから、うまくその波に乗ってる感じ。「お~ぬっくん」と、人前でもついに「ぬっくん呼び」をしてきている。

 僕ももうNOとは言わないしね。それはもう正直どうでもいい。そして――。



 逢初(あいぞめ)さん。――――そう。「愛依(えい)」と呼ぶのは、ラポルト16とふたりきりの時だけ。



 でも、そのふたりきりになる機会は中々来ない。


 普通の用事で僕が麻妃や愛依と話してると、周りが「おお~~」とか言ってはやし立てる。できればやめて欲しいなあ。芸能人とかじゃあないし、ねえ。


 中学校。僕の周辺は異様な熱気に包まれていた。




 そのせいで、愛依とゆっくり話したりができない。‥‥‥‥いや、話すことは特に無いんだけれども。うん。無いんだけれども。



「そういえば逢初って意外とカワイイよな。頭いいし」



 そういえば、じゃね~よ! あ、人のこと言えないか。僕も一年の時同じクラスだったの忘れてたし。


 愛依は僕が観測するだけでも、男子によく話しかけられるようになっていた。帝都の金持ちから縁談の話が来た、とかいう噂も。



「でもわたし、前からの通り、医者になるつもりだから結婚は‥‥」


 すべて断ってるそうだ。艦でも言ってたよね。「結婚するつもりはない」って。最後の日に見た涙の訳も含めて、愛依とその周辺の話をしたいんだけど、無理か。心配には心配なんだよ。




 僕は、あれだけの時間がありながら、あれだけ一緒の空間にいながら、枕を並べながら。愛依の身の上について何も語り合ってはいなかった。



「ああ、そうなんだよな。なんで話さなかったんだろ?」


 家での状況も気になる。DVとか。愛依は毎晩枕を濡らしているのだろうか?



 気になるけど、ひと夏の、魔法の時間は終了済み。


 今現在、僕らは「ただのクラスメイト」。




 ***




 9月17日。火曜日。


 ――――な~んて考えていたのは、最初の数日だけだった。学校再開から一週間。僕の周囲はいつも人だかりだった。いわゆる陽キャというか、物怖じしないヤツばかり。前仲良かった静かな連中は、無関心っぽい素振りか遠巻きに見てるだけ。

 で、寄って来た人たちには、さんざん旅の様子を訊かれた。


 僕らは軍からレクチャーを受けていて、軍事機密とか転戦の経緯とかは口止めされていた。その中には「最新軍事兵器であるDMT(ディアメーテル)の諸元」や、「マジカルカレントとその回復方法(愛依との添い寝)」とかがあった。 あと、「カタフニア」とか「潜空艦ラポルト」とかも。


 それとは別にラポルトの16人での秘密、「愛依が敵兵に掴まった事実(敵性外国兵との濃厚接触疑惑)」も、ね。




 そんな話題を避けて、当たりさわりない問答を繰り返していたら、‥‥やっぱり疲れた。僕はこういうことには向いていないらしい。――他の中学のみんなは今ごろ、上手くやっているのかな?


 昼休み。机に肘をついてぼんやり考えていたら、またクラスの女子たちに囲まれていた。



「あのう」

「訊いてもいいですか?」

「咲見さん、て、将来お嫁さんは何人の予定‥‥ですか?」


 このごろ少し周辺が落ち着いてきた。ラポルト16祭りもやっとこ終了の兆し。


 ここ紘国では、男子が子供6、7人につきひとりしか生まれない。後は全部女子。いつしか女子は男子に嫌われないようにふるまうようになり、同級生の僕にも「さん付け」「敬語」を使う子が多い。


「ああ、『~くん』でいいよ。あとタメ口で」


「え? ‥‥でも‥‥‥‥ねえ?」


「ラポルトでもそうだったんだ。いいよ」


 女子たちは恐る恐る顔を見合わせてから。


「暖斗くん」

「はい」

「あらためて訊いていい? やっぱり重婚はするんでしょ?」


 さっきの理由――男子が少ないから貴重――なので、れっきとした法律で男子は4人まで奥さんを持てるんだけど。‥‥っていうか。


「‥‥むしろ、『男なんだからちゃんと4人と結婚しろ』って同調圧力スゴいよね。まあ国の存亡がかかってるし。‥‥うん。たぶんちゃんと重婚して男子としての責任は果たすと思う、よ?」


「その、お相手とか、もういるんですか?」


 さっきの隣の子が今度は訊いてきた。女子たちは、恐る恐る代わり番子に訊いてくる。訊く順番をじゃんけんででも決めているんだろうか?


「‥‥‥‥いや、まあ、どうだろうね」


 曖昧に中身のない返事をしたら、意味あり気に頷きあって、女子たちが一斉に色めきだった。「婚活懸命」。なにせ男子の6倍女子がいるんだから、向こうからしたら配偶者をゲットするのも至難だ。気の毒なほどに。


 この後、好みのタイプとか、趣味とか色々訊かれた。まあ、図らずも「救国の英雄」になってしまったんだから、有名税? 仕方ないのかな?


 なんて最中に。




 ピロピロリン♪



 この音は!? 僕は慌ててスマホを操作。



 メールが来ていた。


『例の件なんだけど。今日一緒に帰れる? 暖斗くん』





 愛依から、だった。






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